「おまたせしました。ハンバーグ定食になります」

「どうぞ、こちらが控え室になります」

「ご覧いただくのはこちらの資料になります」

 

これらの言葉に違和感を覚える方はどれぐらいいらっしゃるでしょうか?

 

僕がこの言い回しを初めて聞いたのは、確か1980年代後半だったと思います。ちゃんと調べてはいませんが、たぶんどこかのファミリーレストランがマニュアル化したのが飲食業界に広まり、それが20〜30年かけて一般化していったのではないかと思っています。

 

全く違和感のない方からすると、いったい何が問題なんだろう?という感じかもしれませんね。結論を言いましょう。これらは日本語として間違っているのです。正しくは「です」もしくは「でございます」と言うべきですが、「になります」と言う人がとても多くなっているのです。

 

「になります」は「になる」の丁寧語であって、「です」の丁寧語ではありません。「来年で40歳になります」「出来上がりは明後日になります」「海賊王に俺はなります」など、これから起きることを表す言葉です。「ハンバーグ定食になります」と言うと、いまはまだハンバーグ定食ではないということになってしまいます。

 

敬語は長く使われるとだんだん敬語感が薄れていくようで、時代とともに大袈裟になっていきます。「ご覧になりますか?」で十分なのに「ご覧になられますか?」(←これも間違い)と言ってしまうのもそのせいです。「です」がすでに敬語なのに、それでは足りない気がするのでしょうね。かといって「でございます」では堅苦しいので、苦肉のアイデアで生まれたのが「になります」だったのでしょう。

 

言葉が変化していくのは当たり前のことですから、古い言い回しに固執する必要はありません。これから辞書に載る可能性がありそうな言葉や、一時的に流行して消えていきそうな言葉は使っても問題ないと思います。しかし「になります」はそのどちらでもありません。誤表現なのに、辞書に認められないまま、恐ろしい勢いで「です」を駆逐しつつあります。

 

しかも最近は、話し言葉だけでなく文章でも「になります」を使う人が増えてきました。広告のクライアントから支給された原稿が「になります」だらけで絶句することもあります。さすがにそのまま掲載するわけにはいかないのでリライトしますが、クライアントに直した理由を説明するのは、間違いを指摘するようでちょっと気が引けます。

 

繰り返しになりますが「です」は立派な敬語です。たまたまこのコラムを読まれた方には、「です」の代わりに「になります」を使うのは間違いだと知っていただき、できれば「です」の方を使っていただけると嬉しいです。そして、もしも辞書で認められるようなことになったら、その時には堂々と「になります」を使っていただけましたら幸いです。