3年前に亡くなった父はよくテレビを見ては文句を言っていた。

「全然大丈夫」とはどういうことか、「全然」を肯定に使うのは間違いだと。

 

そんな父を見て育ったせいか、僕も言葉に興味を持つようになった。

そしていつの間にかコピーライティングを生業にすることになった。

 

言葉の正しい使い方を調べる中で、一つ驚いたことがある。
「全然」はもともと否定だけでなく肯定にも使われていた言葉だった。
「全然大丈夫」は間違いではなかったのだ。

 

「全然」は明治時代から昭和の初めまで、肯定にも使われていた。

「否定だけに使う」というルールが広まったのは昭和20年代後半。

父はそのルールを学んだせいで、肯定に使うのが気持ち悪かったのだ。

 

普通に肯定に使っていた明治生まれの人たち。

否定にしか使わないと教えられた昭和生まれの人たち。

特にルールを意識することなく、肯定に使っているいまの人たち。

 

言葉は生き物で、まるでウイルスのように時代とともに変異する。

だから新しい言葉の使い方を簡単には否定できない。
しかし簡単に使うわけにもいかない。
 
例えば、話し言葉ではすでに浸透している「ワンチャン」や「秒で」などは、
キャッチコピーに使うことはあっても、説明コピーにはまだ使えない。
 
言葉選びはとても面倒で、難しくて、だからこそ面白いのである。