このところ、アメリカ文学についてもう少し何か読んでみたいという衝動に駆られている。

しかしこれ!というものが、なかなか見つからない。

以前にマーク・トウェインを取り上げたことはあるけれど、あれも純文学というよりは何か考えさせられる作品といった感じだったし・・・。

ということで今回も(?)、純文学というよりは思想書に近い作品。トマス・ペインの『コモン・センス』を選んでみた。

ベースにしたのは、2021年6月に出版されたばかりの光文社古典新訳文庫版(角田安正訳)である。

 

 

 

 

 

 

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『コモン・センス』というタイトル。直訳すれば、「常識」という意味だ。
その「常識」とは、イギリスが植民地状態に置かれているアメリカから国家として独立することは当然である、という主張である。

まず面白いと思ったのが、アメリカ独立を主張しているペイン氏自らは、生粋の英国人であること。一方でこの書物が実際にアメリカ13植民地の国家設立に大きな影響を与えたということ。
 

以下3点について、本文を引用しつつ感想を述べる。

■「社会」と「国家」の役割とは

「社会は人間の必要を満たすために形成され、国家は悪を懲らすために形成される。社会が人間の心と心を結びつけることによって人間の幸福をますます高めるのに対し、国家は悪を抑制することによって幸福の低下を防ぐ。・・・(中略)・・・社会はいかなる状態にあっても歓迎される。だが国家は、この上なく健全な状態にあっても必要悪にすぎない」
 

(第一章 国家一般の起源および目的について イギリスの政体についても手短に)

 

かみ砕いて考えれば、要するにアメリカは「小さな国家」でなければならない、ということだろうか。

国家の成員たる人民の自由は最大限に尊重し、彼らが自ら形成する「社会」は守り抜く。
だがそれらに口出しをするような「国家」は、ペイン氏の中では良しとしないということか。

■君主制は認めない

ペイン氏はまた、君主制についても完全否定している。
 

「世界の創生期には王というものは存在しなかった。だからその時代には戦争も起こらなかった。・・・(中略)・・・ひとりの人間を他の人間のはるか上に立たせることは、各人に平等に与えられた自然権にもとづくなら、およそ正当化できない。・・・(中略)・・・考えてみるがよい。人はみな本来平等である。何人にも、自分の家系が生まれによって永久に他の家系に優越するなどと考える権利は与えられていない。」
 

(第二章 君主制および世襲について)

 

アメリカはどこまでも「機会の平等」を大事にする。したがって何人もその生まれによって、差別されるようなことは決してあってはならない。

一方でアメリカは「自由な国」だといわれるけれども、現代のアメリカ社会に深刻な「分断」が起きているのは、なぜなのか。

「機会の平等」ゆえに多様な意見が乱立し、それが人種や性別、もろもろの価値観の「分断」を引き起こしていると仮にするならば、なんと皮肉なことだろう・・・。


■多様な宗派があるのは当然
 

「社会に信仰上の意見の多様性が見られるのは全能の神の御心によるものである。・・・(中略)・・・私たちの間に見られるさまざまな宗派は同じ両親から生まれた子どものようなものであって、【姓は同じで】洗礼名が別々であるにすぎない」

(第四章 アメリカの現在の能力について 併せて、若干の雑駁な考察結果について)    


なにせ最初期のピルグリム・ファーザーズをはじめ、信仰の自由を求めてきた人たちによって建てられた13植民地だ。
信仰上の多様性は、ペイン氏にとって守られなくてはいけない砦だということだろう。

ただし、それでは「同じ両親」たるユダヤ教徒や、「同じ子供」といえなくもないイスラム教徒のことまでを念頭に置いているかどうかは不明だが。

 

 

 

 

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-極東の島国がどんなにあがいても、アメリカ様には頭が上がらない-

そう考えてる人もいるかもしれない。その考えにも一理あるのかもしれないが、その一方本書を読んで思うのは、アメリカにはヨーロッパ、とりわけ「イギリスのくびき」とも呼べるようなものを感じるのだ。
 

「イギリスとの結びつきによって私たちがこうむる損失や損害は計り知れない。・・・(中略)・・・なぜならイギリスにわずかなりとも従属、依存していると、アメリカは結局ヨーロッパの戦争や紛争に直接巻き込まれることになるからである」

(第三章 アメリカの現状を考察する)    


確かにアメリカには一時期「モンロー主義」を貫く姿勢があり、ヨーロッパ発端の戦争とは一定の距離を置こうとする歴史もあった。それでも結局は世界大戦に参戦してしまったわけだし、戦後の冷戦構造や中東エリアへの度重なる軍の出動をどう説明すればいいのか。

わが国にとって、アメリカは「近くて遠い国」という表現がぴったりとあてはまる国だと個人的に思っている。

そういえば道路における車の進行方向は、アメリカは右で、イギリスは左。
だが現代日本がより仲良くしているのは、右を走っているアメリカのほうなのだ。