マネジメントとは「上手くやること」だった。PDCAの管理サイクルを回すことは、上手くやるための具体的な方法であり、管理指標は上手く行っているかどうかを測定するための道具である。第11話から順次、ドラッカーが提唱するビジネスにおいて目標を設定すべき重要な8つの領域にそって、マネジメントのポイントを紹介する。

ドラッカーが著書『現代の経営』の中で、ビジネスにおいて目標を設定すべき8つの重要な領域の1番目に掲げたのは「市場における地位」であった。たまたま最初に書き記したわけではないだろう。❶自社が参入している事業(ビジネス)と市場を定義し、❷どのような地位を目指し、❸何をもってその達成を測るのか。そのことが事業の存在を左右するほど極めて根源的な問題だからこそ、一番目に記されているのだ。

衰退する市場を相手に、儲からない事業を手掛け、低い地位に甘んじているようでは、ビジネスの成功は望む余地もない。市場における地位を向上させる目標をマネジメントしない限り、他のいかなる領域におけるマネジメントにおける努力も大きな貢献を為し得ない。

市場における地位をマネジメントするための出発点は「事業の定義」である。自社の事業を「誰に(顧客)」「何を(ニーズ・機能・価値)」「どのように(技術・ノウハウ)」の三つの要素で定義することである。能動的に事業を定義することによってのみ、自社の対応すべき市場(類似のニーズの塊をもった人々)が、世間一般に見える姿ではなく、自社にとって必要な姿としてくっきりと浮かび上がって来るのだ。

既成概念によって製品/市場の二軸で細分化された市場の様子を眺めていても、未来を拓く事業の姿は見えてこない。慣習的なモノの見方にそって、他社と同じように市場を分類し、過去の事業活動の結果を分析しているに過ぎないからだ。

事業の定義で最も重要なことは、他社にはない強み(技術やノウハウ)を活かして、成長性があり、先行企業のいない事業分野を独占する定義を開発することである。それは戦う前から成長市場にオンリーワンやナンバーワンの地位を築くための最上位の戦略なのだ。

例えば東レは事業の定義を構成する3つの要素の中の「どのように(技術)」に軸足を置く「研究開発型企業」である。東レは有機合成化学、高分子化学、バイオテクノロジー、ナノテクノロジーの4つのコア技術をベースに6つの事業分野を定義している。その一つにPAN系炭素繊維で世界ダントツ・ナンバーワンシェアを獲得している炭素繊維複合材料事業があるのだ。


技術革新を追求し、新しい価値(機能・働き)を生み出し、隠れたニーズを喚起し、新しい用途を創造する。「どのように」を追求し、新しい「何を」を生み出し、新しい「誰に(何に)」を創造する。技術革新を起点に新しいニーズをクリエイトする東レにとってこの順番はとても重要だ。動きのない事業の定義を動きのあるストーリーとしての戦略へと転換することで、東レの基本的な行き方(事業活動の基本的な進め方)が導き出されている。

事業の定義は最上位の戦略ストーリーとして適度に抽象的に描かれるものだ。それを具体的なアクションへと展開する役割を担うのが「マーケティング」と「イノベーション」である。ドラッカーが事業を「マーケティングとイノベーションを通じて顧客を創造する行為」と定義づけた意味がよく理解できる。

マーケティングとは平たく言うと「顧客の期待と満足に応えて儲けるための作戦・仕組み」である。マーケティングの仕事は、❶市場機会(ビジネスチャンス)を発見し、❷ターゲットを定めて、❸ポジショニングを設計し、❹具体的な4P(製品、価格、流通、プロモーション)を組み立てるというステップで展開される。

前述の❶から❸はマーケティングの基本設計にあたり、事業の定義を具体化するアクションに当たる。既成概念で既存の市場を眺めていても市場機会など生まれるはずがない。見込み客自身まだ気づいていない隠れたニーズを発見し、自らの強み(シーズ)を活かして、新しい市場をクリエイトするアプローチが求められる。環境の変化動向の影響を見極め、既存のターゲットを侵攻し、新しいターゲットにアプローチするための新しいニーズの束を見極めなければならない。そうして他社には出来ない特徴をもった事業、製品、サービスを実現するための購買決定要因(KBFKey Buying Factor)を特定し、オンリーワンやダントツ・ナンバーワンのポジションを実現するための具体策を見出さなければならないのだ。

事業の定義から導き出された具体的なマーケティングの基本設計(ターゲッティングとポジショニング)があり、それが事業活動に関わる組織全体で共有され、しっかりと各機能分野の活動に反映されているからこそ、製品(Product)の具体的なスペック、価格(Price)、流通経路(Place)、売り方(Promotion)とマーケティングの4Pと呼ばれる個別の戦略が有効に機能するのだ。

実務的には、地域、顧客、製品のグループに分類し、各々既存と新規に区分して、マーケティングの目標を設定し、売上や利益やシェアといった指標について、相関関係を含めて管理することが必要だ。しかし、最も重要なことは、そうした管理活動の出発点となる事業の定義とマーケティングの基本設計(ターゲッティングとポジショニング)にあるのだということを忘れてはならない。事業の定義とマーケティングの基本設計こそが市場における地位を決定づけるからだ。