中国から仕入れた鶏肉の問題を契機に日本マクドナルドが揺れている。鶏肉問題がマスコミで報道された7月に既存店売上高が前年同月比で17.4%落ち込み、翌8月には落ち込み幅が25.1%へと拡大している。かつてデフレの勝ち組と言われた日本マクドナルドに何が起こっているのだろうか。
確かに中国の仕入先が使用期限切れの鶏肉を使用していたという問題は重大である。食の安全・安心の問題であるから、経営に深刻な影響を与えることに間違いはない。しかし、日本マクドナルドについてみる限り、鶏肉問題は経営危機の引き金を引いただけで、根本的な原因は社内に内在していたのではないかと私は見ている。
原田マジックと称賛され、8期連続で既存店売上高を伸ばし、収益成長をけん引してきた原田前社長の時代に、すでに『業績を生み出す能力』を蝕む種が蒔かれていたのではないだろうかというのが私の見方だ。勿論、意図することなく。
業績不振に陥っていた日本マクドナルドがアップルコンピュータ日本法人の社長であった原田氏をトップに迎えたのが2004年のこと。プロの敏腕経営者として著名な原田氏は、サービス業の基本であるQSC(品質・サービス・清潔さ)の改善に取り組み、ブランドイメージを刷新し、100円バーガーなどの低価格戦略で爆発的に客数を伸ばし、デフレの勝ち組として日本マクドナルドを蘇らせた。しかし、この過程で「業績を生み出す能力」を蝕む3つの種が蒔かれていた可能性があるのだ。
一つめの種は「定番商品の価格の上下動」だ。価格というのは品質と比べて価値(値打ち)を判断する材料になる。ところが品質が全く変わらない商品の価格が、100円になったり、80円になったり、はたまた120円になったりする。原材料費の高騰など、わかりやすい理由があれば消費者も納得するのであろうが、そうではない。結果として、日本マクドナルドが提供する価値(バリュー)に対する顧客の不信を招き、長期的なブランド毀損につながっているのではないかと考える。
二つめの種は「低価格戦略で客数を爆発的に伸ばした」ことである。低価格で客数が爆発的に伸びたことによって、本来、マクドナルドの顧客でない人々も顧客となり、ポジショニングの不明瞭なお店になってしまったということだ。おしゃれなマックカフェ化の流れも、主力の顧客層であるファミリー層の流出に繋がった。日本マクドナルドは誰に、何を提供するお店なのか。他のハンバーガーチェーンやファストフード店と比べて、どのような特徴が魅力なのか。基本的なところがぼやけてしまっているのだ。
日経MJの1200人の消費者を対象にしたアンケート結果によると、昨年に比べてマクドナルドの利用回数が減った人が約60%、その最大の理由は「食材の安全性に不安がある(55.2%)」、2番目は「価格が高い(32.4%)」である。マクドナルドの利用客はどこへ去ったのかという調査結果もある。1位がカフェ(32.5%)、2位がコンビニ(29.3%)、3位が他のハンバーガーチェーン(24.3%)となっている。
高いと感じているのは、絶対的な価格ではなく、品質に対する相対的な価格が高いと受け止めるべきだろう。そうすると、顧客は「価値(値打ち)がない」と判断しているのだ。進化したコンビニの100円コーヒーの価値やパン・総菜の美味しさと比べると、どうだろう。そのように考える人々がマクドナルドから離れて行っているのだ。利用客がどこへ去ったかという調査結果の1位と2位を足すと、何と61.8%の人がハンバーガーチェーン以外に流れていることになる。ターゲッティングとポジショニングがボヤケテしまうと、魅力の品質も、値打も、わけがわからなくなってしまう。今、マクドナルドは利用客から「何屋さん」と認識されていたのだろうか。再考すべき時が来ているのだろう。
三つめの種は「急速なFC化」である。原田元社長の時代に、元々3割だったFC(フランチャイズ)店の比率を7割に増やそうという戦略が展開されていたのだ。現在、すでにFC店の比率は7割近くになっており、その戦略は終焉を迎えようとしている。FC化推進の過程では、店舗運営事業の売却益を売上高に計上しているから、それが大きな増益要因となる。しかし、FC化の終息と共に売却益はなくなり、急速なFC化に伴う負の側面が顔を出し始める。現場のオペレーションにおけるQSCにムリ・ムダ・ムラが大きくなり、現場と本部の間の溝が深まる。ブランド戦略や商品政策と現場の運営がかみ合わない。
短期的に良い業績をつくるためには、財務諸表から発想し、実態を変えて行く。
危機的状況に陥った企業を再生する場合、売上に見合うかたちで、コストをカットし、利益をねん出する。残念ながら、将来の成長の種を摘んでしまう可能性のあることにも片目を瞑らざるを得ないことだってある。
どのようにすれば、毀損した(業績を生み出す)能力を再生することができるのだろう。
今後の長期的な成長にとって最も重要な(業績を生み出す)能力とは何だろう。
それは、どのようにすれば手に入れられるのだろう。
日本マクドナルドの新社長サラ・カサノバさんが立ち向かっている課題なのだろう。