―― 創造 ――

有名なビジネスの寓話に南の島に靴を売りに行く二人のビジネスマンの話がある。一人は「誰も靴を履いていないから市場がない」と考え、もう一人は「まだ誰も靴を履いていないのだから巨大な市場がある」と考えた。

誰も靴を履いていないから市場がないと考えたビジネスマンは島を去って行ったが、まだ誰も靴を履いていないのだから膨大な市場があると考えたビジネスマンは島に残り、島の人々を顧客化する行動を始めた。

かの有名な経営学者P・F・ドラッカーは、事業(Business)を「マーケティングおよび革新を行なうことによって顧客を創造する活動」と定義している。南の島の寓話はドラッカーの教えにそって「顧客はそこにいるのではない。創り出すのだ」ということを教えてくれている。

ウォークマン、カップヌードル、宅急便、ウォシュレット、カラオケ、ホンダジェット・・・・・・と、創造の精神に富んだ企業が、「誰も靴を履いていないから市場がない」という専門家の調査結果をしり目に、技術革新に挑戦し、新しい価値をもった商品を生み出し、顧客を創造してきた。当時、宅急便事業が採算に乗ると誰が信じただろうか。お尻を洗うなんて誰が想像しただろうか。

―― 革新 ――

ヤマト運輸が宅急便事業の構想に着手したきっかけは、請負型のトラック輸送事業の先行きを案じてのことだった。しかし、多くの企業にとって自社の事業空間を大きく変えることは容易ではない。あのイーストマン・コダックがフィルム事業に固執して破産への道をたどったように、生存の危機に直面するまで、大きな改革に挑むことは容易ではない。ゆっくりと緩慢に訪れる危機に従来の延長線上のやり方で何とか対処できると思い込んでしまう。「ゆでガエル現象」と呼ばれる状況だ。気がついたときには手遅れとなっている。強烈な成功体験が輪をかけて進化への対応を遅らせる。

「イノベーション」が必要だ。イノベーションを日本語にすると「刷新」や「革新」という言葉になる。それは旧来の弊害を取り除いて事態を全く新たにする能動的な行為を意味する。事業(ビジネス)の進化において、イノベーションとは、事業を進化させる三つの軸(誰に、何を、どのように)に、新しい機軸や切り口をもつ特別な変化を与える行為なのだ。

イノベーションの機会は「顧客」「自社」「競争相手」「環境変化」の4つの要素の関係性の中に潜んでいる。他社と明確に差別化された強みを活かして、すでに満たされている顧客ニーズの変化やまだ満たされていない潜在的なニーズに働きかけることによってイノベーションの機会を創出することができるのだ。

事業経営は立ち止まることを許されない。つねに創造と革新を働かさねば。

スコッチテープで有名なエクセレント・カンパニー「3M」には、この「創造」と「革新」を計画的かつ継続的に働かせるルールがあり、しっかりと機能している。過去5年間に開発された商品で売上高の25%以上を占めることという「25%ルール」が商品の創造と革新を促し、全社員に就業時間の15%を自由に使う権利を与える「15%ルール」が人と組織の創造性を育んでいる。

最近、日本では、三井物産が新事業を生み出すために勤務時間の20%を自由研究に使えるようにする制度をスタートさせた。部署や役職の異なる人と昼食を共にできる仕組みや部署や役職に関係なくデスクを選べるシステムなど、ワイガヤ文化が根付く日本独自の仕掛けも創造と革新に貢献することだろう。