こんな噂があります。
曰く、「烏龍茶は喉(声帯)の脂分を洗い流してしまうので、カラオケの時に飲むと喉を傷める」
この噂が甚だ疑問なのであちこち検索して実際のところどうなのか調べてみました。
結論から言うと「そんな事はないが、そういう噂が広がるのにも理由がある」って感じでした。
元飲料関係の食品会社で働いていた身であり、烏龍茶を常飲する(カラオケ時も)としてはこういった噂にはそれなりに反応してしまうわけです。もしガセだったなら、それは烏龍茶への深刻な風評なわけですし、烏龍茶の名誉のためにもきちんと調べようと思ったのです。(以下、やや長文)
まず最初に「烏龍茶 喉」で検索してみましょう。
出てきますね「喉(声帯)の油を洗い流す」とか「脂肪を分解する」等の文字があちこちで見られます。
また「烏龍茶 カラオケ」などで調べると「とある歌手(または俳優)は上記の理由から歌う際には烏龍茶を飲まないと言っていた」なんてもの出てきます。
ただね。言わせてください。
声帯って気管の方にあるんです。烏龍茶って飲んだら食道を通るんです。
何リットル飲んでも烏龍茶は声帯を通過しないんです。
口の中や喉の入り口のところならともかく、声帯が傷むなんてことあるの?(いや、無い)
次に、烏龍茶に本当に油を溶かしたり洗い流したりする効果があるの?あるならその成分はなに?
ただ、仮にそういった成分が含まれるとしても、日本で市販されてるほとんどの烏龍茶飲料って実はかなり薄いんです。元飲料会社勤務とか言いながらこういうこと言うのも何なのですが、茶葉を煮出したものと比較するととても薄いんです。そんなのでそこまで劇的な効果があるの?というのもまた疑問。
ここからはこの
1.「烏龍茶に油を取る(分解する)効果はあるのか。その成分は何なのか」
2.「なぜそのような噂が広まったのか」について書いていきます。
まず「その成分はなに?」なのですが、試しに「烏龍茶 油 取る」と検索してみます。
すると今度は先程とは逆に「烏龍茶が油を分解すると勘違いしていませんか?」といった記述が次々に出てきます。それらを見た上での要点を以下にまとめます。
ご存知のとおり、烏龍茶にはダイエット効果があります。それは烏龍茶に含まれる烏龍茶ポリフェノールが「脂肪を分解し吸収を助ける酵素の働きを抑制するから」であるということです。
これは、サントリーを始めとした烏龍茶のメーカー各社が発表していますね。油を分解するどころか体の中で脂肪の分解を抑制しているのです。それら烏龍茶の効能について記載されているサイトには「油を取り去る(分解する)(洗い流す)」等の記述はありませんでした。
なので、烏龍茶には「油を取り去る(分解する)(洗い流す)」作用を及ぼす成分は確認されていない。ダイエットに効果があるというのは脂肪の分解・吸収を抑制するから。ということになります。結果として吸収されなかった油(脂)は排泄されます。吸収されなかった余分な油(脂)が身体から出ていくわけです。これが「油(脂)を洗い流す」という誤解につながったのでしょう。
でも歌手(または俳優)さんという喉の専門家がよくそう言っているんですよね。それを信じた人も多いことでしょう。
ただ考えてみてください。そもそも彼らは医者でも生物学者でもありません。実は人体のことについては専門外なのです。彼らの言うことに科学的根拠なんか無いのです。彼らが烏龍茶ポリフェノールの働きについて解説したことあります?ないでしょ?
ただ、普段よく喉を使っているから喉の僅かな違和感にも敏感なのです。
彼らが烏龍茶を飲んだ後に「喉がさっぱりする」「ちょっとイガイガする」「乾燥してるかも」などの違和感を持ったのかもしれません。
実はこれ、「声帯の油がなくなった」からではないのです。
これはお茶に含まれる渋味成分のカフェインやタンニン(カテキン)によるもの(喉の収斂)です。簡単に言うと渋いからそう感じてしまうってことです。喉の少しの変化にも敏感な人たちならより違和感を感じやすいのではないでしょうか。
その違和感と上記の「油(脂)を洗い流す」という誤解とが結びついてしまったのでしょう。
でもそれは決して「油が流れたから」ではないし、烏龍茶特有の作用でもないのです。
喉の専門家の意見ということならば、日本人の喉を守ってン十年の「龍角散」のサイト(https://www.ryukakusan.co.jp/guttercolumn01)ではこう書かれています。
コーヒーや紅茶、お茶などの飲みものにはカフェインが含まれていますが、無水カフェインには気管支を広げたり、痛みを抑えたりする作用があるくらいですから、のどに害があるとは思えません。
(中略)
緑茶やウーロン茶、砂糖をいれないうすめの紅茶などは、いつもかたわらに置いてしょっちゅう飲むことをお勧めします。もちろん水でもOKです。というのは、のどは十分に湿り気を帯びている状態のときが、いちばん抵抗力があるからです。のどを守るためには、のどを乾かさないことです。
と、以上のように書かれており烏龍茶はむしろ推奨されています。
もっとも、最初に書いたように水でも烏龍茶でも飲んだ時に声帯は通過しないので声帯を直接潤すことはありません。が、口の中(喉)が潤っていれば吸い込んだ空気が湿り気を帯びますので無意味ではありません。
他に「油を取る」という誤解が広まった原因に、かつて販売されていた「ウーロンポイ」という商品の影響が大きいようです。「ウーロンポイ」とは、烏龍茶エキスを配合したウェットティッシュです。これが「油がよく取れる」という触れ込みだった事もあってそういった噂が広まったのではないかと思います。ちなみに現在ウーロンポイは売ってません。「車のフロントガラスの油膜が一発で取れた!」という喜びの言葉もありますが、それはおそらくウェットティッシュに微量含まれているアルコールのおかげかと。
それとは逆に「烏龍茶に豚の脂身を浸け込んでも何一つ分解されない」なんて実験をした人もいるようです。
以上の諸々を含めると「烏龍茶に油の除去をする成分はないが、そういう噂が広がるのにも理由がある」という結論に至るわけです。
あとは気分の問題ですね。カラオケのときに喉に悪いかもしれないと思っているものを無理に飲む必要はありません。気になるなら烏龍茶を飲まなくてもいいです。でも「俺は知ってるぜ」ってな勢いで他人が烏龍茶を飲もうとしてるのを邪魔しないでください。それは明確な風評です。烏龍茶の消費妨害です。少なくとも「声帯の油を洗い流す」と言い出したら鼻で笑ってください。
私はこれからも温かい烏龍茶を飲みながらカラオケを楽しみます。
烏龍茶最高!!