宮島未奈の『成瀬は天下を取りにいく』（新潮社，2023年）を読了。

まさにこの文章をブログに投稿した今日（2024年4月10日），めでたいことに本作は「2024年本屋大賞」を受賞した。その他にも「坪田譲治文学賞」など「10冠」に輝いた作品である（本書の帯による）。

奇抜で強烈な個性を持つ主人公・成瀬あかりのずば抜けた存在感がすべて。

成瀬あかりは成績優秀，スポーツ万能の中学生だ。しかしその思考回路と行動はおよそ中学生とは思えない。すでに小学生の頃からその変人奇人ぶりは発揮されていた。

小5で「わたしはシャボン玉を極めようと思うんだ」と言って地元のローカルテレビ番組に「天才シャボン玉少女」として出演した成瀬。

小学校の卒業文春に将来の夢は「200歳まで生きる」と書いた成瀬。

中学生になると，地元にある西武大津店の閉店に際し，「わたしはこの夏を西部に捧げようと思う」と言って，閉店までの約1ヶ月間，西武大津店に毎日通い詰めてテレビ中継に映り込んだ成瀬。

西武が閉店してしまうと，「将来，わたしが大津にデパートを建てる」と宣言する成瀬。

「わたしはお笑いの頂点を目指そうと思う」と突如言い出して，親友と「ゼゼカラ」というコンビを結成してM-1グランプリの一回戦に出場してしまう成瀬。

髪の毛は本当に1ヶ月で1センチ伸びるかを献奏するため，高校の入学式に坊主頭で現れた成瀬。

……まるでギャグ漫画を読んでいるような小説である。10代の青春を感じさせる友情がちょっとしたテーマにはなっているが，基本的に重たいテーマやメッセージ性，深い心理描写といった類の要素があるわけではない。その意味で本書は典型的なエンタメ小説だ。成瀬あかりというキャラを受け入れられるかどうかで本書の評価は分かれるだろう。

奇想天外な成瀬の言動に目を奪われがちだが，実は郷土愛（本書の場合は滋賀県への愛）にあふれた作品でもある。読んでいると，なぜか自分の故郷を思いしてしまった。それが裏のテーマなのかもしれない。

なお，本書は長編小説ではない。6つのエピソードが収められた短編集の体裁が取られている。すべての物語において成瀬が主役というわけではなく，脇役としてちょっと顔を出す程度のエピソードがあるのが面白い。あまりにも強烈なその個性ゆえ，脇役なのに主役級の存在感を放っているのは成瀬あかりならではだ。

成瀬は天下を取りにいく「成瀬」シリーズ

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読書感想文／祝☆本屋大賞受賞！宮島未奈の怪作『成瀬は天下を取りにいく』