「ミックスボイスを出したい」「もっと喉を自由に動かしたい」。
そう思って最新のボイトレ情報を調べると、聞こえてくるのはこんな言葉ばかりです。
「声帯の閉鎖を意識して」「喉の筋肉を鍛えよう」「呼吸の練習なんて、今はもう古い」。
確かに、喉の仕組みを科学的に理解することは素晴らしい進歩です。
でも、一生懸命「喉トレ」に励んでいるのに、なぜか喉が詰まったり、すぐに声が枯れてしまったりすることはありませんか?
実は、今のボイトレ界が忘れてしまっている大切なピースがあります。それが「呼吸」です。
1. ボイトレ界の「トレンド」は極端に振れすぎている
ボイトレの歴史は、まるで大きな「振り子」のようです。
昔、いわゆる「呼吸の時代」には、「とにかく腹だ!」「腹筋があれば声が出る!」という、根性論に近い呼吸至上主義でした。
それが今、「喉の時代」を迎え、解剖学が進んだことで、「喉のどの筋肉をどう動かすか」という細かいテクニックばかりが注目されています。
かつては「呼吸」に偏りすぎていましたが、今は逆に「喉」に偏りすぎています。でも、本来、声は「呼吸」と「喉」が手を取り合うことで生まれるもの。どちらか一方が欠けても、美しい音は響きません。
2. 喉をいじるのは「アプリ」、呼吸は「OS」
今のボイトレをスマートフォンに例えてみましょう。
喉のテクニック、つまりミックスボイスやビブラートといったものは「最新のアプリ」、そして呼吸と体幹の力は「スマホのOS(基本システム)」にあたります。
どんなに最新で素晴らしいアプリを入れようとしても、土台となるOSが古かったり、バグだらけだったりしたらどうなるでしょうか? 画面は固まり、アプリは強制終了してしまいますよね。
歌も同じです。呼吸というOSがボロボロなのに、喉というアプリだけを最新にしようとするから、声が「フリーズ(喉締め)」してしまうのです。
3. 「喉締め」は、あなたの体が上げている悲鳴
「喉のリラックスが大切」とよく言われますが、喉に意識が集中しすぎると、人間は無意識に息を止めてしまいます。重い荷物を持とうとする時に、グッと喉が締まるのと同じ状態です。
実は、喉が締まってしまうのは、あなたの「体(体幹)」が弱っているからかもしれません。現代の私たちは、便利な生活の中で体を動かす機会が減り、声を支えるための筋肉(呼吸筋)が驚くほど弱っています。
大黒柱がない家を想像してみてください。崩れないように、必死で屋根(喉)を支えようとしますよね? 「喉の力み」は、弱った呼吸筋の代わりに喉が必死に頑張っている「悲鳴」なのです。
喉に余計な力が入るのを防ぎ、もっと楽に声を出すための具体的な考え方は 喉で歌わない方法|プロが教える喉が楽になる発声法 で詳しく解説しています。
4. 現代人のボイトレは「呼吸」が入り口
「呼吸の練習はいらない」と言うトレーナーもいますが、それは元々スポーツをしていたり、体が頑丈だったりする「一部の恵まれた人」の意見かもしれません。
運動不足になりがちな現代人にとって、呼吸トレーニングは単なる「歌の練習」ではありません。便利さの中で眠ってしまった「人間本来の身体機能」を取り戻すリハビリなのです。
まず呼吸筋(体幹)という土台を作る。すると喉が「あ、体(呼吸)が支えてくれるから、もう頑張らなくていいんだ」と安心する。結果として、喉の力が自然に抜け、自由な声が出る。この順番こそが、遠回りに見えて、実は最短のルートです。
歌の土台となる呼吸を整えていくためには、丹田発声について|呼吸法を整えて舞台・歌・話し方が劇的に変わる理由 を知ることが大きな助けになります。
最後に:喉を自由にするために、まずは深く息を吐こう
もしあなたが今、喉の練習に行き詰まっているのなら、一度「喉のこと」を忘れてみてください。喉をいじくり回す前に、まずは自分の体という楽器に、たっぷりとした「息のエネルギー」を送り込んであげること。
眠っている体幹を呼び起こしてあげること。
ボイトレの本当の入り口は、喉ではなく、あなたの「呼吸」の中にあります。OSを最新にアップデートして、あなただけの素晴らしい歌声を響かせましょう。


