「バカと無知」 | Jiro's memorandum

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泉治郎の備忘録 読書の感想や備忘録 ※ネタバレ注意
【経歴】 日本株アナリスト、投資銀行、ネットメディア経営企画、教育事業経営、人材アドバイザー、新聞社経営管理、トライアスリート

 

 

 

「バカと無知」(橘玲)

 

シリコンバレーのIT企業が強い理由、ワンマン経営の企業が成功している理由、日本の体質の古い企業が崩壊している理由、優秀な人が謙虚な理由、実力のない人が話を盛ったりマウントしたりする理由、など腹落ちした。

 

 

以下、備忘

 

 

 

旧石器時代の人類は①目立ち過ぎて反感を買うと共同体から放逐されてしまうが②目立たないとパートナーを獲得できず子孫を残せない。

この難問をクリアする方法は「目立たずに目立つ(自分を有利にする)」作戦としての噂話。面と向かって批判すれば紛争になるが、「たまたま聞いたんだけど」と悪い風評を広めれば、報復を避けつつライバルにダメージを与えることができる。

こうしてヒトは、自分の噂を気にしつつ、他人の噂を流す、という高度なコミュニケーション能力を高めてきた。だからヒトは、ささいな批判に過剰反応したり、荒唐無稽な陰謀論にハマってしまったりする。




近年の脳科学によれば、「(自分より下位の者と比べる)下方比較」で報酬を、「(上位の者と比べる)上方比較」では損失を感じる。脳にとって「劣った者」は報酬で、「優れた者」は損失。

噂話の目的は、上位の者を引きずりおろし、下位の者を蔑んで自分をより目立たさせること。

社会的な動物であるヒトは、批判されることを過度に警戒すると同時に、集団からの逸脱行為をつねに監視し、自分より上位の者がそれを行うと、「正義」の名の下によってたかって叩きのめす。一方、劣った者に対しては、自分の優位を誇示する(マウントする)ように進化した。




能力の低い者は自分を過大評価し、能力の高い者は自分を過小評価する。

ダニングとクルーガーの調査によれば、能力が下位4分1の学生は、実際の平均点は12点なのに自分たちの能力は68点だと思っていた。一方上位4分の1の学生は、実際の平均点86点にもかかわらず、自分たちの能力は74点しかないと思っていた。

「バカの問題は、自分がバカであることに気づいていないこと」

人類は旧石器時代から、共同体のなかで地位をめぐって争いをしてきた。自分に能力がないことを他者に知られるのは致命的なので、能力の低い者は能力を過大評価するようになった。一方、能力があることを他者に知られることもリスクなので(権力者がライバル視して排除しようとする)、能力の高い者は能力を過小評価し目立つことを避けようとした。




能力が異なる者の間で「集合知」は実現できるのか。調査結果によれば、2人とも一定以上の能力があるときだけプラスの効果があった。そして、2人のうち1人の能力が劣る場合は結果が悪くなった。自分の能力を過小評価している賢い者が、自分の能力を過大評価しているバカに引きずられたため。

能力の高い者は、相手も同等の能力を持っているだろう、相手を見くびるとしっぺ返しを食らうかもしれない、目立ちすぎると多数派に排斥されるかもしれない、と考える。




集合知を実現するためには、一定以上の能力を持つものだけで話し合うことが必要で、無理なら優秀な個人の判断に従った方がよい。

欧米先進国の民主的な意思決定システムより、独裁国家のほうが高いパフォーマンスを達成しているのではないかという疑念が生じている。

シリコンバレーのIT企業は、世界中からとてつもなく賢い若者たちを集め、きわめて効率的な組織を生み出した。かつ重要なのは、文化、宗教、性別などの多様性で、思わぬアイデアが大きなイノベーションにつながっている。一方、日本企業は日本人、男性、中高年、大学学部卒(多くは文系)、という凡庸かつなんの多様性もない集団によって支配されている。これではまともに国際競争などできない。





ヒトは、自尊心を高く保ち、自己肯定感が下がることを避けるよう進化。

話し合いのときに、一部のメンバーの自尊心を脅かすと決定の質が下がる。そのメンバーは、自尊心を回復するためになりふり構わなくなるから。

また、自信たっぷりのようで内心不安を抱えている者が会議の場にいることも問題。常に自尊心を高めなくてはならないので頻繁に「マウンティング(優位性の誇示)」を行う。こういうタイプの上司や役員が会社にいると意思決定は悲惨なことになる

創業者のワンマン経営が成功するのは、日本だけでなく世界的な現象(アップル、アマゾン、テスラなど)。「独裁者」の決定によって「バカに引きずられる」ことを避けている。





「自分は優秀だ」という自尊心の高い生徒の成績がよくなるピグマリオン効果は疑わしい。「ほめて伸ばす(自尊心を高める)」は成績の悪い子にはむしろ逆効果の可能性あり。

賢い子は、成績もよく自尊心が高い。自尊心は原因ではなく結果。

自尊心は報酬なので、試験を受ける前に褒められると、報酬を先に受け取ることになり、努力しなくなってしまう。




教師に「この子の能力は高い」と思わせた場合は、教師が教育熱心になり、ピグマリオン効果あり。ただし、その効果はさほど大きくない。

実験を詳細にみると、ごく一部の生徒の成績が大きく伸びて全体を押し上げていた(効果のない生徒も多数)。また、小学校低学年には効果があったが高学年には変化なく、学期の後半になると効果は小さくなった。ピグマリオン効果は、小さい子ども相手でかつ生徒のことをよく知らないときに観察され、高学年の生徒や学期後半になると教師が優秀かどうかを判断できるようになるので効果がなくなる。