今日のような天気が良くて気持ちの良い日は稜線で夕日を眺めてから山を降りる。
夕方5時に麓の集落から聴こえてくるチャイム、ドヴォルザークの「新世界」が山にこだますると、ああ今日も一日が終わったなという気分になる。空を仰いでひとつ深い呼吸をすると心が安らかになる。
それから下山すると、途中で暗くなる。
登山でも山仕事でも暗くなる前に下山する、もしくは宿泊地に到着するのが鉄則だが、僕はそうでもない。
暗いなかを歩くのが好きだ。とくに日没後、山が闇に包まれていく30分が特に好きだ。昔からこの時間帯は逢魔時(おうまがとき)と言うそうで、昼と夜、彼岸と此岸のあいまいな境界にあって魔に遭遇するものらしい。闇に覆われる不安と同時に、光のグラデーションの美しさに心がゾクゾクする。
真っ暗になってしまってもライトはつけないことが多い。ライトをつけると照らした場所しか見えなくなり、視野がせまくて逆に不安になる。60秒ほど目をつむって闇に慣らせば驚くほど視界が開ける。例え新月でも、星のあかりで木々がぼやっと浮かび上がる。月明かりではなく星明かりで歩くということ、とても幻想的な時間だ。
そんな風に白山(標高2702m)を下ったことがある。深夜1時頃に頂上付近を出発してライトをつけずに標高差1500mほどを下山した。自分の姿は闇に消えて、足音が動物の気配や木のゆれる音などのかすかな音の世界に溶け込んでしまうようだった。
夜の山に流れる豊かな時間、おすすめしたい。
