物価が上がっている今、財物保険の補償額はそのままで大丈夫ですか?
どうも、たびたびの保険屋さんのぼやきでございます。
昨今、物価が上がっています。
少し前までコンビニで100円程度で買えたおにぎりが、今では200円近くすることも珍しくありません。
サラリーマンにとってランチの価格高騰は死活問題です。
かくいう私も、いわゆる「失われた20年、30年」を過ごしてきた世代ですので、物価が上がるという感覚に、いまいちピンとこないところがあります。
ただ、現実としては、たかがおにぎりでさえ価格が大きく上がっているわけです。
では、建物や生産設備についてはどうでしょうか。
建築資材の高騰、人件費の上昇、円安による輸入資材の値上がり、職人不足、物流費の上昇など、さまざまな要因によって建築価格は大きく上がっています。
設備もまた然りです。
ところが、火災保険をはじめとする財物保険の補償額については、去年と同じ金額、場合によっては3年前、5年前と同じ金額のまま契約しているケースをよく見かけます。
果たして、それは本当に正しいのでしょうか。
結論から言います。
正しくない可能性が高いです。
わかりやすく言うと、何年か前、あるいは何十年か前に1億円で建てられた建物が、今も同じ1億円で建てられるでしょうか。
おそらく、今同じ建物を建てようとすれば、1.5億円、場合によっては2億円近くかかることもあるかもしれません。
もちろん、契約上の補償額が1億円で、仮に火災で全焼したとしても「1億円受け取れればそれでよい」という判断であれば、それは会社としての判断です。
ただし、全損の場合は、まだ話がわかりやすいかもしれません。
「契約していた補償額が足りなかった」ということが、比較的理解しやすいからです。
問題は、一部損害のときです。
例えば、本来の評価額が2億円の建物に対して、補償額を1億円しか設定していなかったとします。
この場合、建物全体の価値に対して半分しか保険をかけていない状態です。
そのような状態で、例えば200万円の修理費が発生した場合、契約条件によっては、損害額の全額ではなく、保険金額と保険価額の割合に応じて保険金が削減されることがあります。
つまり、200万円の損害に対して、100万円しか支払われない、ということが起こり得るのです。
これを「一部保険」や「比例てん補」といいます。
保険法にも、次のような規定があります。
保険法 第19条(一部保険)
保険金額が保険価額(約定保険価額があるときは、当該約定保険価額)に満たないときは、保険者が行うべき保険給付の額は、当該保険金額の当該保険価額に対する割合をてん補損害額に乗じて得た額とする。
いわゆる、保険金額が足りない場合には、その不足割合に応じて支払保険金も減る、という考え方です。
もちろん、実際の支払い方法は、保険会社、保険商品、特約、評価方式、約款の内容によって異なります。
新価で契約しているのか。
時価で契約しているのか。
評価済みなのか。
比例てん補が適用される契約なのか。
特約によって一定の緩和があるのか。
こうした条件によって結論は変わります。
しかし、少なくとも「昔設定した補償額のままで問題ない」と安易に考えるのは危険です。
多くの保険会社や保険代理店の担当者は、この一部保険を防ぐために、建物や設備什器などの補償額の見直しを提案します。
ところが、保険を購買する側の部署では、予算や保険料の上昇を嫌って、その提案を拒否するケースも少なくありません。
もちろん、それが会社として正式に判断された結果であれば、一つの経営判断です。
しかし、実務上問題だと感じるのは、担当者ベースでその話を止めてしまうケースです。
「保険料が上がる稟議書を書くのが面倒くさい」
「コストカット目標がある中で、保険料増加の説明をしたくない」
「去年と同じで通した方が楽」
「上司に説明するのが面倒」
こうした理由で、補償額の見直し提案を社内に上げず、担当者のところで握りつぶしてしまう。
これは非常に危険です。
いざ事故が起きて、十分な保険金を受け取れなかった場合、誰が一番困るでしょうか。
もちろん、会社も困ります。
しかし、最も厳しい立場に置かれるのは、その保険契約を担当していた人かもしれません。
「なぜ補償額を見直していなかったのか」
「保険会社や代理店から説明はなかったのか」
「説明があったなら、なぜ社内に報告していなかったのか」
「保険料を抑えるために、必要な補償を削ったのではないか」
事故が起きた後には、こうした話になりかねません。
そして昨今、保険を販売する側も、説明した内容や相手方の反応、補償額引き上げを提案した事実、契約者側がそれを拒否した事実などを、かなり細かく記録するようになっています。
昔のように、事故が起きてから「何とかならないか」と言えば何とかなる、という時代ではありません。
文句を言えば保険金が支払われる、というものでもありません。
だからこそ、保険料の増加を理由に補償額の見直しを見送る場合でも、最低限、社内で正式に判断した記録を残しておくべきです。
稟議書。
社内メール。
会議議事録。
保険会社や代理店からの提案資料。
見直しを行わなかった理由。
こうした記録があるかないかで、事故後の担当者の立場は大きく変わります。
会社として、保険料を抑える判断をすること自体が悪いわけではありません。
問題は、その判断が会社として行われたものなのか、それとも一担当者の判断で止まっていたものなのか、ということです。
物価が上がっている今、財物保険の補償額を何年も前のままにしておくことは、思っている以上に大きなリスクです。
火災保険。
動産総合保険。
機械保険。
設備什器の保険。
商品や在庫にかける保険。
こうした財産に関する保険について、今一度、補償額が実態に合っているか確認してみてはいかがでしょうか。
保険屋さんが補償額の引き上げを提案してくると、
「また保険料を上げたいだけでしょう」
と思うかもしれません。
もちろん、そういう面がまったくないとは言いません。
しかし、その提案は、会社を守るためだけではなく、保険を調達している担当者自身の立場を守るためのものでもあります。
補償額を見直す。
見直さないなら、その判断を社内で正式に残す。
それだけでも、事故が起きたときの景色は大きく変わります。
物価上昇の時代に、昔の補償額のままで本当に大丈夫なのか。
次回の更新時には、ぜひ一度、保険屋さんの話をよく聞いてみてください。
もしかすると、その保険屋さんが守ろうとしているのは、あなたの会社だけではなく、会社の中で保険を担当しているあなた自身の立場なのかもしれません。