走行状態を示す信号機が、
グリーンからレッドに変わった。
建屋の中にいた人達が、
にわかにざわめきたつ。
走行禁止となったサーキットで、
続々とピットに戻ってくる車両の中、
あの人の姿は見当たらない。
その日は、
職場の走行訓練と試験走行を兼ねたサーキット走行日。
いい機会だからと連れて行ってもらい、
もちろんあの人も参加しているのを知っていた。
走行禁止になるということは、
つまり、
どこかで事故が起きたということ。
さんざん待って、
一番最後に帰ってきたのは、
数千万もする車両に乗るあの人だった。
あの人自体の外傷は見当たらなかったけど、
車両は中破。
この日の路面はwet
あんなサイズのタイヤじゃ、
路面に溜まった水で、容易に滑ることは予想されるけれども、
車内でもトップクラスのテストドライバーだったあの人が… という
まさかの事態に、
いや、
想う人が事故をしている というその事実に、
嫌なドキドキが収まらなかった。
会社持ちのマイクロバスに帰りは乗らず、
個別で来たスタッフの乗用車に、
あの人と、そして私も同乗させてもらった。
何でこのとき、私も残っていたんだっけ。
寒い時期だったことを覚えてる。
日が落ちて暗い帰り道を、
セダンの後部座席、脱いだ上着を真ん中に置き、
その下で手をつないでいたのは……どっちから求めたんだったかな。
かける言葉も誰も見つからず、
終始静まりかえっていた車内で、
会社に着いたあと、
さて、私はどう動くべきかな…と
なぐさめたらいいのか、
抱きしめたらいいのか、
なかったかのように振る舞えばいいのか、
必死で考えていたのだけは覚えてる。