私は、先月20218月)3日のブログで、『2020年代、中国は「勝者国」にはなれない!』と書きました。その時の「いいね」マークは、4つでした2021928日現在)。そして、同6日には、『2020年代、中国経済はアメリカ経済に引き離される!』と書きました。その時の「いいね」マークは、7つでした(同)。少し、増えました。私の主張が理解され始めた、ということなのでしょうか?

 

私は、中国の経済発展は、ほとんど止まりつつある、と考えています。そしてその考えをさらに強くさせることが、近日に2つ起こりました。それは、中国が西側の有力な友好国を2つも失った、ということです。

 

 

それら友好国のうちの一つは、言うまでもなく、オーストラリアです。

 

 

中国がオーストラリアに対して反発を強くしたのは、直接には昨年2020年)4月にオーストラリアの首相が中国に対してコロナウイルスについての独立調査を要求したことでした。しかしそれ以前に、4年前の2017年にオーストラリアが『外交白書』の中で、「中国はアメリカの地位に挑戦している」と明記したことがあり、2018年に5Gについてファーウェイの排除を決定したこと、さらには昨年7月に、オーストラリアが国連に中国の南シナ海の領有権を否定する書簡を送付したこと、が重なってありました。

 

そして極めつけは、この9月16日にオーストラリアがアメリカ、イギリスとともに新たな軍事同盟であるオーカス(AUKUS)を創設し、その最初の大事業として、オーストラリアがアメリカから技術を導入して中国に対抗する原潜の建造を決めたことでした。

 

しかし、このことについての中国のオーストラリアに対する反発は、当面のところは、中国に厳しい状況をつくりだしています。中国は、昨年末に銅鉱石や牛肉、大麦、ワインなどに加えて石炭の輸入を規制したのですが、昨年後半以降、そして特に今年に入ってから世界的経済復興による需要の急増を受けて石炭の価格が急騰しているのですが(下にオーストラリア産石炭の価格の推移を示しています。2008に年にリーマンショックに端を発した世界的景気後退の前の世界経済が過熱状態にあったときの価格高騰とその様子はそっくりです)、オーストラリアから石炭を輸入できない中国では石炭が特にひっ迫して、ついに火力発電の一部停止に追い込まれています。

 

出典:世界銀行”Commodity Price Data (The Pink Sheet)“に示されたデータを素に作成。

 

公式には、中国は気候変動対策として石炭火力発電所による発電を削減することなど気候変動対策を強力に推進することを習近平国会主席が国連総会で演説したことから(習主席は、921日に国連で行ったビデオ演説の中で、「国外への石炭火力発電所の新規建設は行わない」と宣言しています)、それによって地方省が習主席の政策に従ったのだ、と説明されているようです。

 

しかし、中国の発電総量のうち7割は石炭火力発電によるものであり、あるいは習主席の国際公約は、「2030年までにCO2の排出量をピークアウトさせ、60年までに実質ゼロにする」というのですから、突然地方の枢要な工業地域にある火力発電を政策的に停止させるというのはあまりに不自然です。異常なほどの世界的な石炭の需要拡大の状況に、中国が国内の発電用石炭の供給を適応させそこなった、と見るのが自然でしょう。

 

中国は、オーストラリアからの輸入量が全輸入総量の6割を占める鉄鉱石については輸入規制対象としていないのですが、石炭の異常な世界的ひっ迫が起こることについては十分には予測できてはいなかった、ということなのでしょう。電力供給停止の影響は、中国内のアップルやテスラの工場に部品を供給する中国企業の操業停止を招いており、世界に対する中国市場の安全性の低下という重大な結果が生ずることを中国政府が無視して電力供給停止という挙に出た、と理解することはできません。また、一党独裁の中央集権国である中国で、地方省が独自に判断したという説明もまた、不自然です。

 

 

もう一つ、中国が失うであろうことがほぼはっきりとしてきたのは、ドイツです。

 

 

9262021年)に行われたドイツの総選挙の結果、メルケル首相が属するキリスト教民主・社会同盟(CDUCSU)が得票率を前回の32.9%から24.1%へと8.8ポイントも落とし、一方20.5%から25.7%へと5.2ポイント増やした社会民主党(SPD)に第1党の座を奪われてしまいました(ドイツの総選挙での各政党の得票率の推移を下のグラフに示したいます)。 

 

出典:各メディア報道に示された値を素に作成。

 

メルケルの次の首相に誰がなるかは、合計議席数が過半を獲得できる政党連合がいかに構成されるかによって決まります。しかし、第1、第2党の勢力が拮抗しているために、連合政権の構成には数か月を要すると見られています。しかし、どのような政党構成になるとしても、第3党の座を確保した緑の党(得票率:14.8%)がその政権に参加することとなることは確実だ、と見通されています。

 

緑の党の最大公約は、その政党名が示す通り、今までの財政規律優先方針を無視してでも気候変動対策を強化することですが、次に人権政策の推進についても熱心であり、中国に対しては厳しい見方を従来より示してきました。そのため、次期政権が中国に対してメルケル政権が示してきた融和的な態度を大きく転換させることにまで至るのか、というのが今日の話題です。

 

緑の党のアンナレーナ・ベアボック党首

【画像出展:Wikipedia File:2020-10-30 Annalena Baerbock MdB GRÜNE by OlafKosinsky 2874.jpgAuthor:Olaf Kosinskv 

 

2002年にドイツ首相に就任したアンゲラ・メルケルは東ドイツ出身で、元来人権重視を信条としており、2007年にはチベットのダライ・ラマを首相官邸に招いて会談し、当時の中国政府から強く非難されています。そしてそれに対する報復として、中国は機械類や自動車など輸送機器についてドイツからの輸入を抑えたのです。そのために、2007年に37.1%にまで高まっていた輸出依存度は伸びなくなり(下に主要国の輸出依存度の推移をグラフにして示しています)、そしてそこにリーマンショックに端を発した世界的景気後退期が襲ったのです。

 

出典:UNCTAD(国連貿易開発会議)の提供するデータを素に作成。

 

そのために経済復興を目指すメルケル首相は、人権重視の考えを封印して中国政府に急接近し、毎年のように北京を訪れ、VWの輸出や現地生産の拡大を実現したのです。

 

しかし中国は自国の市場の大きな部分をドイツに譲った見返りとして、ドイツ国内の先端技術企業である産業用ロボットメーカー(クーカー)を買収し、あるいは「一帯一路政策」の一環としてドイツの送電事業会社(50ヘルツ)の買収を企てたりしています。メルケルと習近平のどちらがやりての国際政治かであったのか、おおよを見当がつくというものです。

 

しかし、中国が香港と新疆ウイグル自治区で人権無視の強圧政治をおこなったことから西ヨーロッパ中の人たちから強い反発が起こり、また、「一帯一路政策」が西ヨーロッパに対して侵略的意図をもっていたことが次第に明らかになり、さらにその上に中国のコロナウイルス対策についての不信が募ったことにより、EUとして中国のヨーロッパ進出に対する一定の反意を示す必要があり、その流れにメルケル首相も抗することができなくなりました。

 

そしてドイツの「変心」の証として、昨年9月に策定した「インド太平洋ガイドライン」に従ってフリゲート艦をインド太平洋地域に派遣することを決定しています。しかし、その計画の実行に当たってもなお、メルケル首相は中国政府に対してフリゲート艦を上海に寄港させることを認めるよう要請して、反中国の姿勢を先鋭化することを避けようとして、そして中国政府からその寄港要請を拒まれるという事態になっています。

 

西側諸国に対しては反中国軍事の旗幟を不明確にさせ、さらには対中国政府に対しては卑屈に受け止められる、何れの側にも不満を生じさせる不名誉な結果を招いています。猛将メルケルにもついに焼きが回ったか、と思えるほどの失態です。

 

 

それでいは、今度生れることになるドイツ新政権は、中国に対していかなる姿勢をとることになるのか?

 

 

そのことは必ずしも明快ではないと説明する人もいます。

 

メルケル首相がその一員であるCDUCSUは、中国を(「経済的な)パートナー」であると同時に体制上のライバルである」として、「バランスある」関係を求めています。またCDUCSUをわずかに上回る得票率を得た社会民主党、SPD、は、ヨーロッパと中国の対話を求めるという一方で、香港の「一国二制度」の維持を求め、台湾に対する中国の圧力の高まりに懸念を示しています。

 

これら二大政党は、中国に対する懸念を表明しつつ、決定的な対立をつくりださないように配慮している、という点において共通しています。

 

 

それに対して、緑の党は、メルケル首相が2020年末に強引に締結に持ち込んだ「EU・中国包括的投資協(CAI)は、公正な競争条件の設定や人権への対応が不十分である」と明確に批判しています。そして、中国による新疆ウイグル自治区、チベット、そして香港での人権侵害の停止を要求するなど、中国に対する批判的な態度を鮮明にしています。

 

もっとも、もともと寄せ集め的に構成された緑の党は、今でも反資本主義で平和主義を唱える原理主義者と、漸進的変化を主張する現実主義者に分断されており、緑の党が政権に参画することになっても中国に対して厳しい対応を主張することになるかはそれほど鮮明ではない、と理解する人もいます。

 

 

しかし、ドイツの多くの人たちは近年中国に対して厳しい目を向けるようになっており、中国政府がドイツの先端技術企業やインフラ企業の買収を画策し、あるいは中国市場に進出しようとするドイツ企業に先端技術の開示を強要する等する一方で、ドイツに対しては中国企業の買収や中国市場での自由な活動を認めないというような一方的な態度をとり続けているということが、ドイツの人びとの共通理解になりつつあります。

 

 

こうした中で、メルケル政権とは一線を画した政権となることを求めるであろう政党連立をつくる中で、原理主義的な立場をとる緑の党の一派がその存在価値を示し、そのことが新政権の中国とは深く親和しない外交・経済政策を新政権の政策の基本に据えることにつながるだろう、と私は考えます。

 

 

緑の党が19982005年の間に社会民主党を核としたシュレーダー政権に参画した時には、人権政策を求めたものの結局は経済重視のシュレーダーに従うという現実的な対応を採ったのであり、今回も緑の党が強烈な反中国的外交を求めることはないだろう、という見方をする学者もいます(ヨーロッパ政治学者の板橋拓己

 

しかし、その頃に比べて、緑の党の大政党(例えば、社会民主党)に対する立場は格段に強くなっており(今回の選挙では、得票率格差は106、シュレーダー政権下では得票率格差は102)、緑の党の発言力は格段に増しているので、緑の党が自身の看板政策を色濃く新政権に反映させることは、自分たちに投票した人たちの支持を取り付け続けるためにも実現させなければならないこととなります。そしてそのような思いを実現させてくれる大政党との連立を認めることとなるでしょう。

 

 

現実の動きとしては、927日に、社会民主党を率いるシュルツ財務相は緑の党と自由民主党FDP)に連立を呼びかけており、一方、CDUCSUのラシュット党首が、「選挙で第2党となった政党が組閣を主張することはできない」と発言しており、新連立政権への流れはできつつあるようにも見えています。しかし「一瞬先は闇」という離合集散を繰り返す政治家の世界のあり様は世界共通であり、死んだふりをしてみせたラシュットが隙を見て大復活、ということもないとは限りません。

 

しかし、社会民主党とCDUCSUの何れが連立政権の核となろうとも、緑の党がその連立の一角を占めるということがないことはあり得そうにもありません。それらの大政党が、極右の「ドイツのための選択」(AfD)や極左にも近い「左翼党」を連立のパートナーとして選ぶという大胆な行動に出ない限り、緑の党を外した政権づくりはできないからです。

 

今後の連立政権づくりの成否は、政党間の共通政策づくりが円滑に進むかどうかにかかっているわけですが、最も強力な交渉権を得た立場にある緑の党は、最大限自分の党の政策が強調されるよう努力するでしょうから、結果として、社会民主党、あるいはCDUCSUの何れが首相の座を得ることになったとしても、中国に対してはメルケル政権時代の中国に対する融和的な姿勢は否定されることになるだろう、と私は予測します。

 

 

このようにして、12年という比較的短い時間のうちに西側陣営に属する国々に住む人たちの中国に対する見方は大きく変わり、そしてそれらの国の政府のいくつかが中国に対する姿勢をはっきりと転換しました。

 

その第1の国がオーストラリアであり、そして今年中にドイツの新政権が反中国を標榜する陣営に新たに加わることとなると思われます。

 

 

まず最初に、アメリカ-南アジア・オセアニア-西ヨーロッパを最高レベルの信頼感で結ぶアメリカ、イギリス、オーストラリアが参加する軍事同盟、オーカス(AUKUS)、が生まれ、そして今年中にドイツが反中国を標榜する西側陣営に緩やかな形で加わる、ということになるだろう、と思います。

 

これは、軍事的には南シナ海で軍事支配を確立し、「一帯一路政策」によって西ヨーロッパへの政治的・軍事的進出を目論んでいた中国にとっては大きな世界規模での政治力・軍事力の後退であることははっきりとしています。

 

中国が友好国として多少はあてにできるロシアに対して、ドイツ新政権の重要メンバーとなることがほぼ確実な緑の党は、ロシアにとって西ヨーロッパ制圧の重要な武器として位置付けている天然ガスのパイプライン建設計画、「ノルドストリーム2」、を撤回させる用意がある、と明言しています。ドイツ新政権は、中国のみならずロシアも西側経済圏の主要な位置からは排除する見込みが高いのです。

 

 

こうして、西側から排除されつつあるロシアに中国が連携強化を求めたとしても、2010年代までの世界市場と世界軍事世界で発揮できた中国の推進力の多くは2020年代には消失する」と、私は考えるのです。 

 

 

そしてもちろんこのことは、中国が2020年代のゼロサム経済世界の「戦勝国」となることを阻み、「2020年代に中国はアメリカから引き離される」ことを確実にすると考えるのです。