前回は、アメリカが2012年に「大復活」して、2020年代にも「勝者国」になりそうだ、という話をしました。

 

とすれば、読者の関心は当然、「なら、中国はどうなると言うのか?」ということになると思います。今回はその当然の問いに、答えてみようと思います。

 

前回は、アメリカが2012年に「大復活」したと言う話を、アメリカのGDPの世界シェアの推移を最も重要な指標としてしました。ならば、中国についても同様の追及をする、というのが研究者としての公正な立場、ということになるでしょう。では、その値を見せましょう。それが、下のグラフです。

 

 

出典:世界銀行の各国のドル表示の名目GDP(=各国の自国通貨表示のGDPをその年のその国と通貨とアメリカドルの為替レートによりドル表示に変換した額)を素に計算して作成。

 

 

このグラフを一瞬見ただけでは、1980年代半ばから2000年代半ばにかけて中国のGDPの世界シェアはゆっくりと上昇してきていたのが、2005年以降は加速して一直線にその値をあげつつあるように見えます。だとしたら、2020年代以降も、中国の世界市場でのシェアは拡大し続けるのか?

 

しかし、待ってください。2015年以降に少し気になる変化があるように見えるでしょう。ならば、2010年以降の部分だけを拡大して見てみましょう。そうしたのが、下のグラフです。

 

 

出典:同上 

 

多くの世界中の経済学者やジャーナリストたちが言うように、中国は今後も躍進するのだ、というアイデアを図にすると、上の図の薄桃色の太い点線で描いた「2015年「まで」を延長するシナリオ」と名付けた傾向線になるでしょう。そうであれば、現在17パーセントほどである中国のGDPの世界シェアは、2025年には25パーセント、つまり世界の全GDP4分の1を中国が占め、さらに2030年のシェア30パーセントに向かって邁進する、ということになります。

 

しかし、です。2015年を曲点として、2016年以降の中国のGDPの世界シェアは、明らかに2015年以前よりも増え方が大きく落ちています。そして、その傾向を辿るようにして描いたのが、薄紫色の太い点線で描いた「2015年「以降」を延長するシナリオ」と名付けた傾向線です。

 

この傾向線の先を辿ってみれば、2020年以降中国のGDPの世界シェアの伸びは誠に緩やかになり、2030年になる頃にはその伸びはなくなる、ゼロになる、と見込めます。いったい、どちらの傾向線が2020年代以降の中国のGDPの世界シェアの変化の様子を表していると、読者は考えるでしょうか?

 

私は、今からおよそ3年前の2018827日に『中国のGDPはアメリカに決して追いつかない!―日本は東アジアでどう生き残るか(26)』というブログ記事をアップしています(この記事に付いた「いいね!」コメントは、3年間の間に貯まって13件、と私のブログ記事の中では比較的高く評価された結果になっています)。ですから、私は当然、薄紫色太点線を支持します。

 

しかし、昔そう言ったから、では十分な説明にはなりませんので、改めて中国のGDPの伸びが2020年代には止まるだろうという根拠をいくつか示したいと思います。

 

 

先ずは、中国の人口の変化です。ある国のGDPは、その国の〔労働人口〕×〔労働者1人当たり生産性〕となるのですから、中国の労働人口がどの様に変化するか、というのが重要な要素となります。そこで、中国の生産年齢人口、つまり15歳以上65歳未満の人口、の変化の様子を見てみます。それを示したのが、下の図です。2020年までは実績値、それ以降2100年までは国連の公表している予測人口(中位)です。

 

 

出典:国連の“World Population Prospect 2019”に示されたデータを素に計算して作成。

 

読者は、日頃より中国の21世紀中の人口予測グラフを目にする機会があったかと思いますが、しかし上のグラフからは、中国の人口動態についてより強烈な印象を受けたのではないか、と思います。「1国の人口がわずか1世紀半のうちにこれほど激しく変化するものなのか?」と。

 

そして何より重要なことは、中国の総人口は2030年代半ばならないと減少し始めないのですが、生産年齢人口は2020年には既に減り始めているということなのです(下に、中国とアメリカの生産年齢人口の対前年伸び率の推移を表したグラフを載せています。世銀の短期人口統計では、2016年に生産年齢人口は減り始めており、2019年の対前年伸び率はマイナス0.32%とで、下のグラフよりさらに人口減少の勢いが強いことを示しています)。繰り返します。中国の「働ける人」の数は、既に減り始めているのです!

 

 

出典:同上

 

繰り返します。中国の「働く人」の人口は、既に減り始めているのです! そしてその2000年代半ばまで、中国の生産年齢人口は毎年平均1.5パーセントほどずつ増えていました。しかしその増加率が、2010年に1パーセントを割り(0.87%)、2015年に0.4パーセントを下回り(0.37%)、そして2010年にはマイナス(▲0.19%)と、「わずか15年間」のうちに2パーセントポイント(1.89%ポイント)も大きく下落したのです。人口動態としては、「劇的変化」と言っていいでしょう。

 

そして、2020年代の終わりの2030年には、生産年齢人口の対前年増加率はマイナス0.5パーセントとなります。それだけで、中国の実質GDPの伸び率を0.5%ポイント引き下げる効果をもっています。そしてそれ以降、生産年齢人口の減少率はさらに拡大を続けるのです。

 

中国の全人口が半世紀以上かかって経験することになる人口減少という現象を、中国の生産年齢人口はわずか15年間で起こしたのです。これが、2015年以降に中国のGDPの世界シェアがそれ以前ほどには増えなくなった多きな原因の一つだ、と私は考えています。 

 

 

次に輸出です。中国経済が輸出に大きく依存してきたことについては、先月(20216月)9日付ブログ『習近平の中国は、経済戦争を仕掛ける手をなくした!-中国は台湾海峡を渡れない?(最終回)』で紹介しました(その時に示したグラフを下に再掲します)。

 

 

出典:UNCTAD(国連貿易開発会議)が提供しているデータを素に作成。

 

そしてまた、中国の輸出額が2015年以降、まったく増えなくなっていることも上のブログで紹介しました(その時に示したグラフを下に再掲します)。

 

 

出典:IMFの”World Economic Outlook database”に示されたデータを素に再集計、計算して作成。

 

では、いったい中国の輸出は、中国のGDPを拡大するについて、どれほどの貢献をしているでしょうか? 下に、中国の輸出額と中国のGDPの推移を表したグラフを載せています。ここでは、何れも実質値としていて、それは名目のドル表示の額、つまり中国通貨(元)表示の額をそれぞれの年の元/ドル為替レートでドルに変換した額、について、アメリカ政府が公表するアメリカのGDP総合デフレーターを利用して2020年ドル表示に変換した額です。 

 

 

出典:輸出総額についてもGDPについてもIMFの示すデータを素に計算して作成。

 

このグラフは、1990年と2000年の両年において、実質輸出額と実質GDP(何れも2020年ドル表示)を図面上にほぼ同じ位置において、左右の縦軸の幅を調整しただけの工夫をしたもので、それ以外の恣意的な作為は行っていません。

 

こうして見ると、2015年以降、中国の実質輸出額はまったく増えていないことがはっきりと確認できます。そうしてもう一つわかることは、中国の実質GDP2014年を変曲点として明らかに伸びる勢いを大きくなくしていることであり、そして実質輸出額の伸びの停止と実質GDPの伸びのはっきりとした鈍化が、20142015年という時期に起こっていることです。このことは、中国の輸出力の低下が、中国のGDPの伸びの低下に直接に繋がっていることを表しています。

 

それでは、中国の輸出は今後どうなっていくのか?

 

これについは、69日付のブログで、中国が生み出している貿易黒字の多くは、西側先進諸国との貿易で得られたものではなく、それ以外の世界の新興国や開発途上国との貿易で得られたものであることを明らかにしています(下のグラフを参照ください)。

 

 

出典:IMFの”World Economic Outlook database”に示されたデータを素に再集計、計算して作成。 

 

なかでも、アメリカ1国で、香港を除く中国の輸出総額の17.4パーセントの断トツの多さとなっています(2020年:IMF統計)。そのアメリカへの実質輸出額は2016年以降大きく増えなくなっていますが、アメリカへの輸出額の世界シェアは、トランプ前大統領が中国に対する強い輸出規制をかけたことから、2019年に落ちています(下のグラフを参照ください)。2021年以降も、アメリカの中国に対する厳しい姿勢が緩和されることはないので、実質輸出額、アメリカの輸出シェア何れも、上昇することはない、と予測します。

 

 

出典:IMFの貿易統計に示された額を素に計算して作成。 

 

 

中国のヨーロッパ先進主要国(イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、オランダ)への輸出額も、イギリスへの輸出額が増えている以外は、2010年以降大きく伸びていません。しかし、2016年以降はドイツとオランダへの輸出額が少し増え気味です(下のグラフを参照ください)。

 

 

出典:同上

 

で、2021年以降は、どうなるのか? 

 

 

下に示すのは、中国の対内直接投資額と対外直接投資額の推移を表すグラフです。UNCTAD(国連貿易開発会議)が名目ドルで示した額を、アメリカが公表するGDPデフレーターで実質値に換算して得た額を表しています。

 

 

出典:UNCTAD(国連貿易開発会議)の示すデータを素に作成。

 

ここでわかる第1に重要なことは、2011年以降、中国の対内直接投資額、つまり外国企業が中国国内に工場等を建設するためなどに投下した資本の額、がまったく増えなくなっていることです(メディアでは、2020年に中国の対内直接投資が増えたことを報道していますが、それはパンデミックによる一過性のことであり、かつ、その伸び率も4%ほどであるので、重要な変化だとは考えません)。

 

中国自身は、2005年以降、対外投資額を急拡大していますが、このことは中国経済の投資能力の成長を示すものであると同時に、反面、中国資本が国内に投資先を見つけづらくなっていることをも示しています。そしてその直接投資額の拡大も2016年に止まり、以降、急激に縮小しています。つまり、中国は外国資本にとって投資市場としての魅力がまったく増進しないとともに、中国自身の対外投資能力も陰りが生じてきたということなのです(2020年に中国の対外投資額は4%ほど増えていますが、これはパンデミック下での一過性のものであり、またその変化度も大きくはない、と考えます)。

 

こうして、外国資本の中国への投資額が伸びなくなったことは、その投資がつくりだす工場等から外国への輸出額の拡大への貢献も大きくならなくなったということを意味します。

 

これは、中国の所得が向上して(中国の1人当たりGDPの周辺アジア国のそれに対する比率の推移を下のグラフに示しています。2011年にタイを、2020年にマレーシアを凌いでいます)、中国人労働者の低賃金がもはや外国資本にとって魅力的ではなくなったことに主な原因がある、と考えます。つまり、中国が「世界の工場」であり続ける時代は2010年代半ばには終わったのです。

 

 

出典:IMFが示す名目1人当たりGDPについて、中国のその他の国のそれに対する比率を計算して作成。

 

 

私は、それらの国の輸出額は増えないし、あるいは減ることもある、と予測します。なぜなら、一つには中国の”一帯一路”政策が西ヨーロッパ先進諸国に対して中国が侵略的な意図をもっていることがわかってきたこと、そして香港、さらには新疆ウイグル自治区に対する中国の苛烈で残酷な人権無視政策が、西ヨーロッパ先進諸国の人びとに強い嫌悪感を抱かせ、それらの国の政府も中国に対して非融和的な態度を示し始めたことがあります。

 

さらには、WHO(世界保健機構)が中国に対して武漢地区でのコロナウイルスの発生経緯を再度調査を受け容れるよう申し入れたことになることに見受けられるように、ヨーロッパ先進国の人びとと政府がアメリカの武漢地区でのコロナウイルス発生経緯についての疑念を共有し始めていることがあります。このことはさらに、自国政府が中国に対して態度を軟化させることを妨げる方向に働くでしょう。

 

これらの政治的背景を考えると、既に停滞し、あるいはゆっくりとしか拡大していない中国のアメリカ及び西ヨーロッパ先進国への輸出の拡大は、2020年代には起こらない、と私は予測するのです。そしてそのことは、中国の実質GDPを拡大させない方向に作用します。 

 

 

最後に、中国も日本が辿ったのと同じ道を辿り始めたということです。

 

それは、政府が経済成長よりも国内体制の安定を優先したいと考える、ということです。

 

日本の政府は、明治維新以降、官僚主導による市場管理を行い、重要な基幹産業(鉄鋼、造船、鉄道、電力、通信業)については官営、あるいは準官営とし、さらにはその他の民間経済活動については同業組合を組織させて業界ごとに職人の雇用や賃金に至るまで、具体に官僚が差配してきました。

 

そして戦後に至ってもその体質は変わらず、戦後の近代製鉄産業はアメリカ政府の後押しを得て政府や日銀の指導に逆らった川崎重工が発展の礎を築き、自動車産業大発展の礎は通産省の指導に反して外国企業の技術に頼らず自社技術開発方針を貫いたトヨタ自動車、あるいは通産省の激しい妨害に抵抗して自動車産業界に強引に参画した宗一郎に率いられたホンダ技研工業が築きました。

 

しかし、その後も官僚の市場介入は続き、CPU(演算用半導体)の開発についてインテルを指導するほどの技術力を有した日本のITベンチャーであるビジコン社は、通産省官僚と大手電機メーカーとの共謀によって倒産に至らしめられ、日本の半導体産業大発展の芽は摘まれてしまったのです(その様子は、2017623日付ブログ『官僚は戦後のベンチャーを妨害し続けた!-日本の官僚が政策を改革できないワケ(7)』にさらに詳しく書いています。また、ビジコン社の顛末については、2017117日、18日付ブログ、『インテルの素をつくった日本人はどうなった?』及び『半導体ベンチャーは官僚と大手につぶされた』に詳しく説明しています)。  

 

 

ビジコン社の嶋正利が論理設計したインテルの世界初のCPU4004

【画像出展:Wikipedia File:Intel C4004.jpgAuthor:Thomas Nguyen(インテル「4004」)、File:Masatoshi Shima.jpgAuthor:Diclyon(嶋正利)】 

 

この最後に示した、日本政府の官僚、政治家と伝統的大企業経営者たちが共謀して、日本の半導体産業、特により高度の技術を要する演算用半導体、CPU、の開発に長けたベンチャーを潰し、その技術開発の責任者(嶋正利)をインテルに移籍することを余儀なくさせた行為は特に重大です。このとき、日本政府は、半導体産業発展より、業界秩序とそれを指導する官僚の権限の保全を優先させました。

 

そしてそれとまったく同じ姿勢と行動を習近平の中国が取り始めたことが、明らかになったのです。

 

 

その政策選択は、今月(20217月)4日付の中国共産党系メディアの環球時報が掲載した「ネット大手が国家よりも中国人の個人情報を集めた膨大なビッグデータを掌握することは絶対に許さず、彼らが勝手に利用する権利を持つことはもっと許さない」とした主張に明示されています。 

 

 

「発展」より「秩序維持」をとった習近平

【画像出展:Wikipedia File:Xi Jinping 2019 (49060546152) 2.jpgAutor:Palácio do Planlto

 

これは、同日に中国のネット規制当局が、「滴滴の提供するアプリについて個人情報の収集と利用に関する重大な法律違反を確認し、アプリのダウンロードを停止した」ことについての説明記事として書かれたものです(76日付日経新聞記事による)。滴滴とは、「滴滴出行〈ディディチェーシン〉」のことで、北京に本社を置き5.5億人以上のユーザーと数千万人のドライバーを抱える中国のハイヤー・サービスを提供する企業のことです。この企業が、事業を拡大するために政府を凌ぐビッグデータを獲得することは決して許さない、と政府は宣告したのです。

 

 

中国は、ネットビジネスに関して「国家安全法(2015年制定)」と「インターネット安全法(サイバーセキュリティ法:2017年制定)」及び「ネットワーク安全法(20206月制定)」を次々と定めて、国家によるネット市場管理体制を強烈に強化しました。

 

これらの法律の中で、中国政府はネットワークが金融、食料と並んで国家の安全保障について特に重要だという見解を示し、ネットワーク産業を完全な国家管理の下に置く、と決定し、その意思を明らかにしたのです。

 

ネットワークを完全に管理して市場の自由を制限すれば、ネットワーク関連産業の発展が阻害されることは自明です。

 

中国は滴滴に対する締め付けに先立って、アリババ傘下の金融会社であるアント・グループのIPOInitial Public Offering:新規株式公開)を延期させ(202011月)、さらに今年4月には、アリババに対して独禁法に違反したとして182億元(およそ3千億円)の罰金を課しています。また出前アプリの美団についての独禁法違反事案調査を開始し、動画投稿アプリTikTokを経営する北京字節跳動科技(バイトダンス)についても中国国内での上場計画を凍結しています。

 

 

アリババグループ本部と創業者の馬雲

【画像出展:Wikipedia File:Alibaba group Headquarters.jpgAuthor:Thomas LOMBARD, desigined by HASSELL(arichitects)(本部ビル)、File:Enabling eCommerce- Small Enterprises, Global Players (39008130265) (cropped).jpg Author:Foundations World Economic Forum(馬雲)】

 

中国のトップクラスのIT企業は、株式を上場するときに中国市場を選ばず、アメリカのニューヨークで上場することを常としてきました。このことについて習近平の中国政府は重大な中国の安全保障を侵害する問題だとして、630日に滴滴がニューヨークの株式市場に上場したのを機に、規制に乗り出してきており、72日には中国国家インターネット情報弁公室が滴滴に対して、審査が終了するまでは新規株主の登録を中断することを命じています。そして76日には、中国企業による外国でのIPOを厳格に規制するガイドラインを発表しています。

 

これら一連の中国政府の動きにより、「中国の大手ハイテク企業がこれまで謳歌してきた好きな時に海外の好きな場所で上場できるという自由は間違いなく奪われた」(Finacial Timesトム・ミッチェルの716日記事による)のです。

 

こうして、中国政府はIT関連企業に対する事業拡大、さらに世界市場での自由な資本醸成活動の両方を厳しい国家統制の下に置くことを始めたのです。

 

しかしこれらはネット上で事業を運営するソフトの企業であって、中国が他に得意とするファーウェイに代表されるITハード企業の発展に障害が及ぶことはないではないか、という反論があるかもしれません。しかし、最先端ハード製品がハードの世界のみで自律的に発展した、というような歴史はありません。

 

例えば、アップルのPCが発展したのは、その開発技術者であるステファン・ウォズニアックのハード技術が長けていたからというより、その傍らでPCのエンドユーザーへの訴求方法について天才的な才能を発揮したスティーブ・ジョブズがいたからです。

 

 

ウォズニアック(左)とジョブズ(右)

〔画像出典:ウォズニアック Wikipedia File:Steve Wozniak.jpg、ジョブズ Wikipedia CC 表示-継承 2.0 File:Steve Jobs WWDC07.jpg

 

或いは、18世紀の産業革命期が躍進したのは、機械はつくったもののその社会的価値を理解しなかったジェームズ・ワットがいたからというより、蒸気機関を産業に活用する事業方法を編み出した実業家のマシュー・ボールトンがいたからです(その様子は、2017426日付ブログ『18世紀の産業革命にもスティーブ・ジョブズはいた!』に詳しく書いています)。 

 

もし、中国から革新的なネット企業の発展力が失われたら、そのことはそれらが必要とする革新的なITハードを提供する企業の発展力も削がれることになることに違いはありません。

 

つまり、習近平の中国のITソフト企業の徹底した管理とそれが産むそれら企業の革新的発展力の喪失は、中国のITハード企業の停滞にもつながることとなります。こうして、習近平の中国のIT産業政策は、1970年代以降の日本政府が辿ったIT産業についての発展の阻害行為と同じ結果を産むことは明らかです。つまり、中国のIT産業の成長は、やがて止まるのです。

 

 

これら以上のことを総合して考えると、2020年代の中国のGDPの世界シェアの行方は、『2015年「まで」を延長するシナリオ』ではなく、『2015年「以降」を延長するシナリオ』に従って推移するという結論が得られます(そのグラフを下に再掲します)。

 

 

 

 

そして、2020年代の世界の実質GDP総額が緩やかな伸びから停滞へと移行するという私の予測が正しければ、2020年代に中国は「敗者国」とまではならないものの、決して「勝者国」にはなれないということがほぼ確実に予測される、というのが私の考えです。

 

 

なおこれは、連載『2020年代、ゼロサム経済の世界』の第4回とします。