連載『土壇場に近づいた日本経済』について、調査に手間取っているので、今回も記事のアップはお休みにさせていただきます。

 

前々回で連載を休ませてもらった時に、イギリスのテリーザ・メイ首相について、変な欧州離脱修正法案を出さないで、先ずは辞任すべきだ、と主張しましたが、実際、その通りになりました。当然のことです。最後に涙の会見となりましたが、泣きたいのは真面目に欧州離脱を望んだイギリス人の方だったでしょう。

 

欧州議会選挙でも、予想通りにイギリス代表としては、ナイジェル・ファラージが率いるEU離脱党(BREXIT党)が大勝しました。イギリスに与えられた73議席のうち、既に確定している64議席のうち、その4割を上回る28議席をBREXIT党が獲得し、他の党(イギリス本国議会と政党の名が違うので詳細の紹介は避けます)をはるかに引き離しています。

 

その他の国でもEU懐疑派が獲得票を伸ばしたとの報道もあるようですが、実際にはこれまで親EU派が前回選挙をわずかに上回る3分の2以上の議席を獲得しており、EU全体として、EU懐疑派の力が強くなったというわけではありません(下記を参照ください)。しかしどの国でも、既存の大政党が議席を失っており、EU体制が流動化し始めたということはあるようです。

 

出典:毎日新聞(528日付)に掲載されたデータを素に作成。

 

どうしてイギリスについてはEU離脱党が躍進したのに、欧州議会の議席数構成ではその影響は出ないのか? それは、欧州議会の各国への議席数配分に原因があるようです。欧州議会での各国への配分議席数は、各国の人口を基礎としつつも、単純な人口比例ではなく人口に対する“逓減〈ていげん〉比例”という方法が採られています。これは、各国に同数を配分するという考えと、各国の人口に比例して配分するという方法の中間的な方法です。

 

個人的には、このような思想があいまいで恣意的に操作できる方法はあまり好きではありません。例えば、アメリカのように下院は単純に人口比例にして上院は各州2人代表とする2院制とする、というのはよほどわかりやすい方法です。どんな人がどんな理由で賛成し、或いは反対しているかがハッキリとするからです。欧州議会では、一々プロが投票結果を分析しないとどうしてある案が採択され、別の案はどうして否決されることになったのかがわからず、その分議会での調整に余分な官僚同士や政治家同士の談合が必要とされることになります。今のEUは、どうにも官僚天国のような気がします。それも、イギリス人がEUを嫌う一因なのではないでしょうか。

 

ベルギーのブリュッセルにある踊るEU会議場

【出典:Wikipedia File:EP Strasbourg hemicycle l-gal.jpg

 

しかし、中間的な方法をとったために、欧州議会では人口の少ない国には人口に比例して計算される数以上の議席が配分され、人口の多い国に対しては逆に少ない議席数が配分されることになります。その方式をグラフ化したのが、下の図です。

 

【画像出展:Wikipedia File:Number of seats in EP 2014-2019 versus number of inhabitants per country.jpg Author:Ellvwaの図面に日本の訳を添付】

 

その結果、1議席当たりの人口は、最も少ないマルタが、7.7万人であるのに対してもっとも多いイギリスとフランスは90.5万人と12.7倍もの開きがあります(下のグラフを参照ください)。

 

出典:Wikipedia『欧州議会』に示されたデータを素に作成。

 

この結果、EU参加国全体の12.9パーセントの人口をもつイギリスに配分された議席数は全体の9.7パーセントです。さらに、イギリスのGDPが全体の15.1パーセントを占めるということから見ると、さらに議席数配分はとても控え目なものになっている、とイギリス人は感じていることでしょう(下のグラフを参照ください)。

 

出典:上に加えて、GDPについてはIMF統計を素に作成。

 

上の図に示したように、イギリス以外の国を先進国とそれ以外の国に分けて議席配分割合を見ると、全体の2割(21.0%)しか富を産出しない国の議席数配分が全体の4割以上(42.3%)に及んでいます。これでは、マーガレット・サッチャー首相の英断によりポンドのユーロへの統合に反対して、EUとの経済連携について慎重な態度をとってきたイギリスの主張は、ますます尊重されないことになります。ことに、ドイツ、フランスなどの中央集権でEU官僚による規制強化を図る国、そしてEUの中で実質的な経済支援を期待し、あるいは先進国への移民を希望する者が多くいる先進国以外の国と大きく考えを異にするイギリスは、自らの意に染まない政策決定に常に引きずられるという意識を持たされることになります。

 

イギリスが残留していれば先進国の総議席数は全体の57.7パーセントと6割近くになりますが、イギリスが離脱すると53.2パーセントへと辛うじて過半となる水準にまで低下し、ますます経済的に疲弊し、あるいは遅れた国の発言権が大きくなります。ドイツやフランスというEUを指導する立場にある国は、イギリスに対して随分と高飛車な態度でいますが、しかしイギリスが離脱して最も困るのは、離脱するイギリスよりも、”取り残される“先進国たち、とりわけ経済困難な国から支援を要請され続けるドイツとフランスなのではないでしょうか?

 

これからも、ギリシャやスペインを2国で支え続けられるものなのでしょうか? とりわけ、外債が7割を占めるGDPと同額(98.6%:2018年IMF統計)の政府債務(国債残高)を抱えるフランスは、大丈夫なんでしょうか?

 

EUを構成する国々の豊かさには、余りにも大きな格差があります(下の図に、1人当たりGDPをしめしています)。ドイツやフランスのイギリスに対する尊大な態度に、私は違和感をもっています。まあ、個人的に近代資本主義国体制を維持し続けているイギリスが好きだから、ということがあるのですが、、、。 

 

出典: IMF統計を素に作成。