トランプ大統領の一番の決め台詞は、“America first!”です。

 

そしてそれは、「アメリカ第一主義」と日本語に訳されてきました。そしてそれは、世界中で非難されてきました。

 

【画像出展:Wikipedia File:Donald Trump (25776386555).jpgAuthor:Gage Skidmore  from Peoria, AZ, United States of America

 

25日、日本時間では26日、トランプ大統領が行った2019年一般教書演説State of the Union Addressの中で、2度だけ“America first”という言葉を使っています。1つ目は、演説の第2パラグラフの最後です。

 

最初は私の訳文、あとは英語の原文です(英語演説全文は、ネット上に公開されています)

 

 

私が今夜提示する議題は、共和党の議題でも民主党の議題でもなく、それはアメリカ人民の議題です。(それが共和党員であれ、民主党員であれ;筆者註)私たちの多くは、同じ枢要な約束について訴えかけてきました。アメリカの雇用を守り、アメリカの労働者にとって公正な貿易を要求し、私たちの国家のインフラを再構築すること、医療と処方薬の価格を下げること、安全な入国管理システムを作るということ、そしてアメリカの利益を第一に置く外交政策を追求することです。

 

The agenda I will lay out this evening is not a Republican agenda or Democrat agenda, it is the agenda of the American people. Many of us have campaigned on the same core promises, to defend American jobs and demand fair trade for American workers, to rebuild and revitalize our nation’s infrastructure, to reduce the price of health care and prescription drugs, to create an immigration system that is safe, lawful, modern and secure, and to pursue a foreign policy that puts America’s interests first.

 

これは、今まで通りです。ただそれを、「民主党も同じ考えだよね」と念を押したところに意味があるといえば、あります。

 

その後、演説の中核部分に“America first”という言葉は一度も現れないのですが、演説の最後の締めくくりのパラグラフに再び登場します。それは、以下の通りです。

 

 

今こそ、私たちを市民として、隣人として、愛国者として結びつける愛と忠誠心、記憶の絆を再燃させる時です。これが私たちの未来 - 私たちの運命 - そして私たちの選択です。私たちはどんな試練に直面しようと、どんな課題あろうと、私たちは一緒に前進しなければなりません。私たちは、私たちの心の中にアメリカを第一に持ち続けなければなりません。私たちは、私たちの魂の中に自由を生きさせ続けなければなりません。そして、私たちは常にアメリカの運命を信じなければなりません神の下にある一つの国が、世界中のすべての国の希望であり、約束であり、光であり、光栄でなければなりません。ありがとうございます。神が皆さんを祝福されますように、そしてアメリカを祝福されますように。本当に、ありがとうございました。

 

This is the time to rekindle the bonds of love and loyalty and memory that link us together as citizens, as neighbors, as patriots. This is our future our fate and our choice to make. I am asking you to choose greatness. No matter the trials we face, no matter the challenges to come, we must go forward together. We must keep America first in our hearts. We must keep freedom alive in our souls. And we must always keep faith in Americas destiny that one nation, under God, must be the hope and the promise and the light and the glory among all the nations of the world! Thank you. God bless you, God bless America. Thank you very much.

 

2003年の一般教書演説の様子(ジョージ・ブッシュ大統領)

【画像出展:Wikipedia File:G.W. Bush delivers State of the Union Address.jpg

 

トランプ大統領はこの演説で、今年2019年)が第2次世界大戦のD-デイ(ノルマンディ上陸作戦が実施された1944年66日)からちょうど3四半世紀75年)目に当たることを先ず紹介し、アメリカが自由世界を守る戦いの先頭に立ってきたということを印象付けました。

 

さらには、ISIS(イスラム国)をせん滅させるなどの成果を得た中東での長い戦いを終えようとしていることを話し、そしてエルサレムにアメリカ大使館を開いたことに話題をつなぎました。そして随分と多くの時間を割いて、ナチスの迫害を受けていたユダヤ人をアメリカが救い出したことを思い起こさせ、昨年のピッツバーグでのユダヤ人虐殺事件(2018年10月27日、11人射殺)から生き延びたユダヤ人が、3四半世紀前にアメリカ軍によってナチスの貨物列車から救い出された人であったことを紹介し、そしてその人物Judah Sametを議会傍聴席に立たせました。

 

そしてちょうど81歳の誕生日を迎えた彼のために、議場が“Happy Birthday”の歌声に溢れ、「誰も僕のためには歌ってはくれないんだけど、、、」とトランプがおどけてみせたあの場面です。

 

つまり、トランプは、「世界で自由が守られるためには、その守護者であるアメリカが常に第一でなければならないんだ」、とそのように“America First!”の論理の正当性を説明したというわけなのです。いままでの、「アメリカ人のためのアメリカ第一!」というのとは、随分と違った趣の主張です。

 

 

1853年にペリーが浦賀を訪れ、日本に開国と通商を迫ったとき、その背後にあったのは“マニフェスト・デスティニー(”明白なる使命”あるいは”明白なる運命”)”という文明史観でした。これは、アメリカ人が原アメリカ人を征服するのに用いた論理です。

 

マニフェスト・デスティニーを果たそうとするアメリカを擬人化した天使に似た姿に描かれたコロンビア(この絵に描かれたコロンビアは、手には電信線と教科書をもち、東から西へ文明の光を届けようとしています)

【画像出展:Wikipedia File:American progress.JPG

 

 古代ギリシャと古代ローマで生まれた文明がヨーロッパ、イギリスへと伝えられ、さらに大西洋を渡ってアメリカに達し、原アメリカ人を征服しつつ東海岸から西海岸に抜けて、さらに太平洋を渡ってアジアに達し、そこで中東、インドを通ってアジアに伝わった文明とつながって世界全部を文明化するという史観のなかで、アメリカがその重要な一部の役割を果たすという考えです。

 

そして19世紀にそのうちの西側の半分の役目を果たしたアメリカが、「アメリカの世紀」(タイムズ紙発行人ヘンリー・ルースの言葉)となった20世紀以降は、ヨーロッパのどの国をも制して世界の先頭に立ったという自負がアメリカ人にあります。トランプの演説はその心に訴えかけて、先ずはアメリカ人に“America First!”の正当性を説明し、そしてとって返す刀で世界中の人々に、「俺はアメリカの利益だけを追求する独善的孤立主義者ではない!」と言ってみせたつもりなのだ、と私は理解しました。

 

今後トランプが、“America First!”という言葉をアメリカ人に対して、あるいは他国の人々に対して、どのような場面で、どのように使うのか、興味深く見ていてみたいものだ、と思います。