日本の若者の就活市場は、以前に比べて若者に有利だとされています。そしてそれは、求人倍率が高くなっているからですが20143月新卒について1.28倍であったのが、20183月新卒については1.78倍、来年〈2019年〉3月新卒については1.88倍となっています〈㈱リクルートワークス研究所調べ〉)、その背後には若者の世界一低い失業率があると説明されています。

 

実際のところ、日本の2024歳の若者の失業率は、OECD各国の中で最低です(4.9%)。ただ、2534歳になるとチェコの方が日本を下回ります(日本:3.8%、チェコ:2.3%)。いずれにしても、世界最低レベルだということには間違いがありません(下のグラフを参照ください)。

 

 

出典:OECD統計検索エンジンStat掲載データを素に作成。

 

いま、OECD各国の中で失業率がダントツに最も高いのは、読者も予想する通りギリシャで、2534歳の若者の失業率は22.8パーセントで(2017年)、5人に1人以上が失業しているという状態です2位は、ギリシャ同様に政府が財政破綻したスペインで、18.3パーセント)

 

しかし、ギリシャももちろんずっと以前からそのようにひどい状態であったわけではありません。10年前の2008年には10パーセントにはるかに届かない7.5パーセントだったのです。日本に較べれば低いわけではありませんが、同年のドイツの8.2パーセントよりは1パーセントに近いほども低かったのです。高いのですが、異常というほどのことはなかったのです。

 

ところが、2009年にギリシャの政権が替わると(新民主主義党→全ギリシャ社会主義運動)、旧政権で財政赤字を隠蔽していたことが発覚し、翌2010年にはそのことが欧州委員会(ECEUの政策執行機関)に報告されて、全世界がそのことを知ることになりました。途端に、世界からの信頼を失ったギリシャに経済大混乱が起こり、2534歳の若者の(年平均)失業率は、2010年には年平均での失業率が13.3パーセントにまで跳ね上がりました(下のグラフを参照ください)。その後も失業率の急騰は続き、2013年には32.8パーセントに達しています。若者の3人に1人が失業の憂き目を味合わされることになったのです。

 

出典:OECD統計検索エンジンStat掲載データを素に作成。

 

 

 ここで私が言いたいことは、ギリシャの若者の失業率は徐々に上がり続けていたのが、あるときより次第に上がり方が大きくなって、ついには30パーセントを突破したのではないということです。変化は、2009年に突然に起こったのです。そしてその翌年には、4パーセントポイント上がり、そのまた翌年には8パーセント、さらにその翌年にも8パーセントポンと急上昇し、その翌年の2013年にはついに30パーセントを突破したのです。その間わずかに4年です。

 

時代の様子が変わるとき、それは徐々には変わりません。爆発的に一挙に変わるのです。というより、政権が替わるまでの間、ギリシャの若者の失業率はずっと下がり続けていたのです。おそらく当時のギリシャの若者たちは、少なくともしばらくの間は失業率は1割を大きく切ったままでいるだろうと楽観していたと思います。しかし、事実は違ったように進んだのです。

 

 

なぜ、若者の失業率は急上昇したのか? それは経済規模の変化の方向が急に変わったからです。

 

ギリシャの旧政権は、2002年以来毎年8パーセントを超える歳出額の拡大を続けてきました。しかし、歳入額と歳出額のバランスを表す基礎的財政収支税収・税外収入と、国債費〈国債の元本返済や利子の支払いにあてられる費用〉を除く歳出との収支のことを表し、その時点で必要とされる政策的経費を、その時点の税収等でどれだけまかなえているかを示す指標となっています;財務省HPの説明は、2002年には赤字になっていました。それでも政府は歳出額を抑えるのではなく、増やし続けたのです。そしてその赤字を隠し続けたのです。そうしてなされた政府の大盤振る舞いのせいで経済が拡大し、そして若者の失業率は下がり続けたのです。

 

しかし2009年にできた新政権は、歳出の増加率を対前年12パーセントから6パーセントまで半減させたのです。これによって経済の拡大は止まり、若者の失業率は7.5パーセントから9.4パーセントまで上昇したのですが、2010年に財政赤字を旧政権が隠匿してきたことが発覚してギリシャ経済への信用が失墜すると、GDPが大きく下落し、また財政支出も8パーセント減らされたために若者の失業率は一気に13.3パーセントまで急上昇し、そしてその後もさらに上がり続けたのです(ギリシャの歳出額とGDPの推移を下のグラフに示しています)。

 

 

出典:OECD統計検索エンジンStat掲載データを素に作成。

 

政府が経済の実力を無視して財政拡大を続けた結果、財政と国力の不均衡が限界に達して国の経済に対する信用が失墜して、経済の大破綻が起こり、そこで失業率が徐々にではなく、一気に爆発的に上がったのです。

 

 

どうして、こんなギリシャというヨーロッパの1小国のことをくどくどと説明するのか?

 

それは、当時のギリシャの様子と、今の日本の経済・財政状況が酷似しているからです。

 

 

下にギリシャと日本の財政状況の推移を比べたグラフを示しています。国債残高のGDPに対する比率は日本の方がはるかに高くなっています(2017年現在、ギリシャ:182%、日本:236%:IMF統計)。そして基礎的財政収支は、ギリシャが2003年以降赤字であったものが2013年にゼロとなり、2016年以降は黒字に回復しているのに対して、日本は1993年以降、一貫して赤字です。

 

出典:IMFの統計エンジンに掲載されたデータを素に作成。

 

つまり、日本の財政状況はギリシャよりずっと悪いのです。日本の経済は、健全な民間産業が支えているのではなく、赤字国債を原資とする政府の増え続ける歳出予算によって支えられています。日本の若者の失業率が下がっているのは、政府がそのような放漫財政を拡大し続けているからです。

 

だとすれば、それがいつかは限界に達して破綻することになる、とは思いませんか?

 

 

そこで、ギリシャの若者(2534歳)の失業率の変化と、日本のそれを同じグラフの上で見比べてみました。ただ一つ、細工をしました。ギリシャの失業率の推移のグラフを10年間分遅らせたグラフにして載せてみたのです。下のグラフを、よく見てください。

 

出典・OECDの統計検索エンジンStatに記載されたデータを素に作成。

 

どうですか? 3パーセントほどの絶対差はあるものの、ギリシャと日本の若者の失業率の推移のグラフの形は20年間近くもぴったりと一致しているでしょう? 国の経済状態や政府の放漫財政運営の仕方がそっくりなのですから、失業率もまったく同じように推移するのです。

 

そうだとすれば、日本の若者の失業率は2020年代に入った途端に急上昇するということになります。上のグラフは、そう言っています。失業率が低くて求人倍率も高いという時代は、数年後には終わるかも知れないということを、ギリシャの現代史は教えてくれています。

 

 

私は、このブログで一貫して、日本は2020年代初頭に大経済破綻すると主張してきました。それは、その頃に国債の大発行を続けるために財政法を修正して日銀が政府から国債を直接買い取ることができる措置をとる必要が出て、そのことが日本の財政に対する信用を一気に失墜させることになる考えているからです。そして上のギリシャの若者の失業率の推移は、日本の若者の失業率が2020年代初めに急上昇することを示唆しています。

 

これは、単なる偶然の一致ではない、と私は考えます。日本の経済が、2020年代初頭に大破綻する、そういう現象が違った角度から様々に眺められるということの一例です。

 

 

いま若い読者は、失業率が低くて求人倍率が高い新卒者にとって恵まれた状況がしばらくは続くだろうと安心しているかもしれません。そういう見通しのうえで、就活を行い、あるいは明日の職業選択を行っているでしょう。しかし私は、そんな幻想は直ちに捨てた方がいい、と大声で主張します。

 

自分の目で世界を眺め、自らの責任で理解・判断して、自力で経済社会という厳しい環境の大地の上に立つ、そうした覚悟を私は若者に求めたいと思います。私は、そうした若者を応援するために、このブログを書き続けています。

 

次回は、アメリカの大学が果たす役割に触れながら、日本企業の青田買いがいかに不適切なものかということについて、話します。