先に、パク・クネがどうして失脚しなければなかったのか、ということから始めたいと思います。私の考えは、それは彼女がアメリカに逆らったからだ、ということです。以下、どういうことかを説明します。

 

 

パクのアメリカへの最大の裏切りは、201593日の抗日戦争勝利70周年を記念する天安門広場で中国人民解放軍壇上から閲兵したことです。1990年代以降中国の経済が大拡大して、その結果人民解放軍が大膨張して東アジアにおけるアメリカの覇権を脅かし始めたことにアメリカは強い反発心をもっています。

 

その覇権を維持するために、日本、韓国、台湾という3国、特に前二者が明確にアメリカ陣営にいるという体制を死守することが絶対に重要だと考えています。そして、日韓の協調体制が外から見て維持されていることが明確である必要があります。

 

天安門広場壇上で閲兵するパク・クネ、プーチン、習近平

【画像出展:Wikipedia File:China Announces Troop Cuts at WWII

 

にもかかわらず、パクは慰安婦問題についてことさら日本との摩擦を拡大し、そしてついに西側陣営から唯一中国の軍事パレードに参加し、こともあろうに習近平、ウラジミール・プーチンとともに並んで壇上に昇ったということは、到底アメリカにとって認められないことでした。それは韓国が日本と軍事的に一体化することを好まず、むしろ中国に接近したいという意思の表現であり、米・日・韓という対北朝鮮軍事ラインの維持を優先させるとは限らないという姿勢を示唆したことになったからです。

 

驚愕したアメリカ外交部はパクに猛省を求め、その証として日本との対立の源となっていた慰安婦問題を早期に収めることを要求しました。パクはそのアメリカの要求に反発するだけの覚悟をもたず、自国民が反発するであろうことを予測しつつ、時間がかかる国内調整の手続きを省いて、日本政府と”最終的かつ不可逆な“解決策について合意します。

 

しかし、そのことが結局は、彼女の失脚の最大の原因となりました。彼女が、外務大臣の「小国でも大国を天秤にかけながら上手に立ち回れば、独自の立場を築ける」という提案を、諾々と飲みいれた上での、まことに悲惨な結果です。

 

 

さて、次に金正恩についてです。彼は、パクとまったく同じ間違いを犯したのです。アメリカと直接渡り合うことにより、中国をけん制して、独自の国際政治上のスタンスが実現できると夢想したのです。その夢想は、父である金正日、祖父である金日成以上に強くもったのです。それら二人は、中国には忠実に従うという基本姿勢を崩すことはなかったからです。

 

金日成(34歳)、金正日(59歳)、金正恩(34歳?)

【画像出展:Wikipedia File:Kim Il-sung 1946.JPG (金日成)、File:Kim Jong-Il.jpg author; Vladimir_Putin_with_Kim_Jong-Il-2.jpg: Presidential Press and Information Office (金正日)File:Mike Pompeo with Kim Jong-un 2.jpg(金正恩)】

 

金正恩の中国に対する最も大きな裏切は、独自の核武装をしたということです。

 

 

北朝鮮の核武装は、アメリカに向けたものだと専ら報道されていますが、むしろより強力に中国に向けられたものだと理解すべきでしょう。何しろワシントンより北京の方が圧倒的に近いのですから(平壌=ワシントン:11,033キロメートル、平壌=北京:812キロメートル)、今でも北朝鮮は中国の首都やその他多くの地域を核攻撃する能力をもっている可能性があります。核弾頭が本当にミサイル搭載可能なほどに小型化されているのであれば、という不確定要素はありますが、、、。

 

このことは、北朝鮮は中国の命令にすべて素直に従うというわけではないとの自立的対抗武力をもっているという暗黙の主張です。アメリカの周辺の日本も、韓国も、そしてその他第2次大戦で敗戦国となったドイツもイタリアも、すべて核武装を認められていません。アメリカ陣営にとどまり、東側諸国から攻撃を受けないで済むようにアメリカの庇護のもとにいるために飲まなければならない条件です。

 

 

当然、朝鮮戦争(1950-53年)で北朝鮮をアメリカの攻撃(形式的には国連軍の攻撃)から守った”宗主国“中国は、アメリカと同様に考えたはずです。しかし、金正恩はその中国の期待を平気で踏みにじった、中国にとって誠に許されざることです。

 

 

次に、金正恩は異母兄の金正男〈キム・ジョンナン〉を暗殺しました(2017213日)。正男は、正恩を排除した時にその後継に据える候補者の一人として、中国がその国内に抱え込んでいた人物です。中国がそのようにしていたこと自身が、中国の金正恩に対する不信を表しているのですが、そのことを察知した金正恩は、ことあろうにそれを暗殺してしまいました。

 

ここで中国の金正恩不信は頂点に達し、それを排除したいと強く思ったことだろうと思います。アメリカがパクを抑え込み、できれば排除したいと強く考えたようにです。アメリカと中国は、体制はまったく違っていますが、周辺に衛星国を抱える大国という点においては、考え方はまったく共通しているのです。

 

 

北朝鮮の核武装が急速に展開し、本当に韓国のみならず、日本、海兵隊の拠点があるグアム、さらにはアメリカ本土への実質的な脅威を増すに及んで、アメリカは本気で北朝鮮の核武装解除を実力を使ってでも行うという覚悟を定めました。そこが口先だけのバラク・オバマとトランプ+軍幹部連合の決定的な姿勢の違いです。

 

そのために朝鮮半島周辺の駆逐艦、またはミサイル潜水艦からトマホーク・ミサイルを多数同時に発射して、金正恩と軍幹部を瞬時に取り去り、ソウルの攻撃命令を発する暇のないままに、北朝鮮軍を無力化する計画を立てその準備に入り、その警告としてシリア領内に59発のトマホーク・ミサイルを同時発射し(発射直後に不具合を起こして直ちに放棄された3発を除く)、全弾命中という成果を金正恩に見せつけたのだ(2017年4月6日)、と私は理解しています(2017年4月11日付ブログ『トランプはキム・ジョンウン(金正恩)封じ込めに成功した!』を参照ください)

 

当初そのことを本気で受け止めなかった金正恩も、年明けてからようやく、アメリカの脅しが本気であることを理解したように思います。

 

 

その後、金正恩は、自分の身の安全を守るために、習近平の下を訪ねたのが326日のことですが、これは金正恩が習近平に土下座するほどの詫びを入れて実現した、と私は考えています。報道されているように、温和な雰囲気で”会談”が行われたはずはない、中国はそのように鷹揚に”属国“首脳に応ずるはずはない、と考えます。そのことは、中国と朝鮮半島の政権との2千年にわたる付き合い方の歴史を見ればすぐに想像できます。

 

 

金正恩は、57日に再び中国の大連に飛んで習近平に会っています。日本のマスコミは、これは金正恩がトランプとの会談に先立って中国の後ろ盾を確認するという、いつもながらに巧妙な外交だと説明しています。

 

しかし、私はそうであるとは考えていません。どんなにふるまおうが、トランプのアメリカが北朝鮮に対する圧力を一向に緩める気配がなく、即時に近い核武装解除の実行をアメリカに確信させなければ、アメリカの金正恩抹殺作戦が実行される可能性があるとの恐怖を取り除けず、自分の身の安全が保障されるよう、再度習近平に懇願したのだろうと思います。

 

で、金正恩の北朝鮮はようやく自分たちが中国の周辺国、あるいは属国、であることをはっきりと認めたのですが、問題は習近平の中国がそのような金正恩を受け容れるだろうかということです。

 

 

「一度裏切ったやつは、二度裏切る!」というのは、古今東西共通の格言です。古代より他国との、そして宮廷内での権力闘争に明け暮れる中国と朝鮮にあっては、それは世界平均以上に強い響きをもっていると思います。

 

 

結論を言えば、習近平は金正恩の忠誠を決して信じない、と思います。

 

 

中国にとっての最低ラインは、北朝鮮の核軍備の早急な解除と、金正恩の政権からの完全排除でしょう。そしてこのことについて、習とトランプの利害は完全に一致するのです。

 

ということは、金正恩や文在寅〈ムン・ジェイン〉の考えとはまったく関係なく、習とトランプの間で、北朝鮮と金正恩の扱いについて水面下で協議が進み、金正恩・トランプ会談の前に完全合意がつくられる運びになっているはずだ、と推測できます。その見通しがついたから、6月12日の米朝首脳会談が正式発表できるに至ったのでしょう。

 

 

その構想の枠組みがおおよそ固まっているはずの現在、習は金正恩を大連で適当にあしらったことでしょう。会ったことが大事で、その中身は重要でない、とマスコミは報道しますが、中国にとってはその何れも重要でない、と私は考えています。習近平は、金正恩が予定外の暴発をしないように安全弁をつけた、という程度のことでしょう。

 

 

以上は、私が昨年2017年)46日のアメリカのシリアに対するトマホーク・ミサイル攻撃以来一貫する北朝鮮問題についての理解の延長上にあるもので(同年4月11日付ブログ以来の主張という意味です)、今のところこのシナリオの理解に矛盾する事態は起こっていません。

 

で、いつ、どのような形で金正恩は習とトランプによって、排除されるのか、そのことについては私なりにもうちょっと考えてみようと思っています。