(古瀬法律事務所発行のニュースレターをブログに転載します。)

 

謹賀新年

あけましておめでとうございます。今年も何卒よろしくお願い申し上げます。

勝手ながら、昨年から「年賀状じまい」をさせていただいており、年賀状への返礼をせず、大変失礼いたしました。本書をもって年初の挨拶に代えさせていただきますので、ご容赦のほどお願い申し上げます。

緊急事態宣言の再発令

 さて、菅首相が、世論に押される形で、東京都と埼玉、千葉、神奈川3県を対象とする緊急事態宣言の発令を7日に決定する方針を表明しました。それに伴う対策としては、飲食店の営業時間の短縮が主なもので、これに付随してGoToトラベル事業の停止期間が延長されることとなりました。しかしながら、これまでの新型コロナによる死亡者数が3,325人(1月4日時点)である一方で、インフルエンザに起因する超過死亡者数は約1万人、家庭内の浴槽での溺死は5,166人(2015年)、年々減り続ける交通事故死者数は2,839人(2020年)であることを考えれば、少なくとも日本においては、現在の対応はややバランスを欠いているのではないかとも思えます(ちなみに、2020年1月から9月までの累計死亡者数(新型コロナだけではなく他の死因を含めた数)は約18,000人減っているとのことです。まずは対応可能な病床数の拡大に真剣に取り組むべきではないかと思います。)。

 

 「緊急事態宣言、1都3県以外も必要?」という問いに対するYahoo「みんなの意見」のアンケート結果を見ると、73%が賛成しており(1月5日時点、反対25%)、多くの人は緊急事態宣言の拡大を求めているように見えます。

なぜ、人は、リスクの極小化を求めて一見過剰とも思えるような対応を望むのでしょうか。

人間の恐怖本能

 人には「恐怖本能」があると言われています。「恐怖本能」とは、生存や安全を脅かす情報に反応し、それを過大評価してしまう心理であり、言うまでもなく、人の進化の過程で培われてきたものです。

 

 今、世の中には、新型コロナの恐怖を煽る情報に溢れています。ニュース番組を付けると、新型コロナの新規感染者数・死亡者数がトップニュースとなり、ワイドショーは人々の不安や恐怖を煽る情報を配信し続けています。こういった「インフォデミック」ともいえるような状況に、人々の恐怖本能は刺激され続けています。マクロ的に見ればそれほどまでに恐れる必要はない感染症(もちろん、適切な感染予防は必要ですが)を、人はミクロ的に捉え、自分や身近な人が死亡してしまうような状況を想起して、リスクの極小化を求めて過剰とも思える対応を求めてしまうのでしょう。

恐怖本能にどう対応するか

 それでは、企業経営者は、恐怖本能にどう対応していくべきでしょうか。

 

 まずは、自身の問題として、恐怖本能に踊らされず、リスクを正しく計算し、評価することが重要です。

 

 他方で、多くの人々が恐怖本能に惑わされて行動してしまうことを止めることはできませんし、また、そのことを責めることはできません。人々が恐怖本能に惑わされてしまうことを前提に、それをビジネスに活かしていくことが必要です。新型コロナに対する恐怖本能を利用した商品としては、「首からかけただけでウイルスをブロックできる」と謳う商品が大きな売上げを上げたことで話題ですが、こうした商法は、あまり褒められたビジネスではないとは思いますし、実際、消費者庁は、この種の商品の販売に関して景品表示法違反疑いで行政指導をしています。

 

 重要なのは、恐怖本能が落ち着くのはいつ頃かを見通し、それまでは、どのようにこれと付き合っていくかを考えることでしょう。恐怖本能がいつ落ち着くのかを見通すのは困難ではありますが、最近の恐怖本能に踊らされた例として、福島の原発事故に起因する風評被害(実際には放射能に起因する死亡者はゼロ、直接の健康被害の報告もなし)が長期間にわたって払拭されなかったことを考えますと、1度強く刺激されてしまった恐怖本能が落ち着くまでには相当な時間がかかると予想されます。飲食や観光など、新型コロナの影響を強く受けた業界が完全に元に戻るのには、ワクチンが行き渡り、治療薬が出てからしばらくはかかるのではないでしょうか。経営者は、そのことを前提に、人々の恐怖本能が緩和されるような事業のあり方(また、恐怖本能が緩和されるような見せ方)を考えていく必要があるでしょう。

 

参考文献:ハンス・ロスリング他2名著「FACTFULNESS」第4章(日系BP社)

 

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