ニュースレター第15号(2023年1月)「Twitter社のケースから考える人員削減の功罪」
(古瀬経営法律事務所発行のニュースレターをブログに転載します。完全版はこちら(pdf)をご覧下さい。)謹賀新年 あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします 事務所開設から丸5年が経ちました。これもひとえに皆様のご支援ご厚情の賜物と深く感謝いたしております。今年も、質の高いリーガルサービスを提供していけるよう努力して参りますので、よろしくお願いいたします。 なお、勝手ながら、「年賀状仕舞い」をさせていただいており、年賀状への返礼をせず、大変失礼いたしました。本書をもって年初の挨拶に代えさせていただきますので、ご容赦のほどお願い申し上げます。Twitter社の大量解雇 2022年11月、米国の実業家イーロン・マスク氏がCEOに就任したTwitter社は、全世界における従業員の約半数である3700人を解雇したと報じられました。それによる自主退職者も多く出たようで、Twitter社の従業員数は、約7500人から約2700人にまで減少したそうです。日本においても、270人中200人が解雇の対象となっていると報じられています。 こうしたニュースを見ると、「日本では解雇が難しいといわれているのに、こんなに簡単に解雇できるものなの?」、「外資系企業は治外法権?」といった疑問が生じるかもしれません。しかし、当然のことながら、外資系企業だからといって、日本の労働関係法令が適用されないわけではありません。外資系企業の従業員であっても、原則として、解雇規制のルールが適用されます。実際に、外資系企業による解雇が違法・不当であるとした裁判例はいくつも存在します。 とはいえ、今回のTwitter社も含めて、外資系企業による解雇が裁判になるケースは、あまり多くない印象です。その正確な理由は分かりませんが、外資系企業の場合、「リストラ」とはいうものの、割増退職金のオファー付きの退職勧奨(自主退職)であるケースや、また、従業員自身も継続雇用への期待が薄く、「会社にしがみつくくらいならさっさと次の会社を探す」というようなマインドを持っているケースが多いといった事情があるのかもしれません。人員削減の効果は経営者が思うほどない 法的な意味での整理解雇の有効性については、多くの記事で紹介されており、皆さんもご覧になったことがあるかもしれません。そこで、このニュースレターでは、人員削減の効果について説明したいと思います。 人員削減を行う最大の理由は、言うまでもなくコスト削減にあります。確かに、短期的には、コスト削減による一時的な業績改善効果は得られるでしょう。しかし、米国の大学で行われた研究によれば、人員削減の実施後、大部分の企業の収益性が低下し、株価にマイナスの影響を及ぼすとされています。また、会社を去る従業員の教育研修に費やされた時間が失われ、その人脈や業務知識も失われるという問題もあります。更に重大な悪影響は、残った社員の士気が低下してしまうことです。ある調査・研究によれば、人員削減の実施後、残った従業員の仕事満足度は41%、組織コミットメントは31%、仕事の成果は20%低下し、イノベーションの余地も減少したとのことです。また、別の研究によれば、従業員を1%減らすと翌年の自主退職者が31%増えることが分かったとのことです。人員削減のデメリットを最小限に抑えるには 人員削減には上記のような悪影響が生じることは分かっていながらも、経営環境の変化に伴って人員削減を余儀なくされることもあるでしょう。そのような場合でも人員削減によるデメリットを最小限に抑えるには、人員削減が単なるコスト削減ではなく戦略的理由から公正に行われた(したがって、会社が従業員を大事に扱っている)と、従業員が感じられるかどうかがポイントです。 2011年にNokia社が行った大規模なリストラについて紹介します。Nokia社は、2008年にもリストラを行っていましたが、その際には大規模な労使紛争が発生し、多大な損失が生じていました。その反省を踏まえて、2011年のリストラの際には、できるだけ多くの従業員に新たなチャンスを提供することを狙いとして、「ブリッジ」プログラムを策定し、リストラの対象となった従業員は、自分の進路を5つのうちから選択できました。 Nokia社で別の仕事を見つける(不公平を避けるために選定委員会により配置転換する従業員を決定) Nokia社以外で別の仕事を見つける(職業指導、就職フェア、交流会などの再就職支援サービスを提供) 新しいビジネスを始める(会社に対して新ビジネスのプレゼンテーションを行うことができ、優秀者に対しては、助成金や様々な研修の機会が提供された) 新しいことを学ぶ(飲食、美容、建設など、数多くの分野の講座や職業専門校受講の助成金を提供) 新しい進路を築く(ボランティアなど、目指す目標がある社員に対し、金銭的支援を提供) このプログラムの結果、労使紛争が起きなかっただけでなく、リストラ期間中であっても、従業員エンゲージメントスコアは安定しており、品質水準も上昇したとのことです。終わりに 企業はともすれば従業員の長期的な幸福よりも短期的な財務業績を優先しがちです。しかしながら、安易な人員削減は、企業にとって様々な悪影響を及ぼし、中長期的には企業の弱体化に繋がります。従業員がいるからこそ、会社は製品やサービスを提供し続けることができるのであって、それが最終的には会社・株主の利益を生み出すことを忘れてはなりません。 上記のような研究結果は、安易な人員削減に頼るのではなく、従業員との相互の信頼関係の下での慎重な人員「転換」が長期的な成長のためには重要であることを示唆しており、そうすることで、経営環境の変化に適切に対応できる企業となれるのです。参考文献:サンドラ J. サッチャー、シャレーン・グプタ「安易な人員削減では目先の効果すら得られない」(DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文、2019年11月)【経営者保証に関する新制度について】 2022年12月23日、経産省・金融庁・財務省は、「経営者保証改革プログラム」を発表しました。2023年3月に開始されるこの改革プログラムでは、概要、次の4分野に重点的に取り組むことがうたわれています。 スタートアップ・創業 ~経営者保証を求めないスタートアップ・創業融資の促進~:創業から5年以内の事業者の経営者保証を不要とする新しい信用保証制度の創設(0.2%の上乗せ保証料を支払えば3500万円まで無保証で融資を受けられる)など 民間金融機関による融資 ~保証徴求手続の厳格化~:個人保証を徴求する手続に対する監督の強化、経営者保証に依存しない新たな融資慣行の取り組みに向けた意識改革 信用保証付融資 ~希望しない経営者保証の縮小~:経営者保証の解除を事業者が選択できる制度の創設(保証料の上乗せ負担により経営者保証の解除を選択できる制度の創設、金融機関に対する経営者保証ガイドラインの要件を充足する場合の経営者保証解除の徹底) 中小企業のガバナンス ~ガバナンス体制の整備を通じた持続的な企業価値向上の実現~:経営者保証解除の前提となるガバナンス向上に向けた官民による支援体制の構築 これらの施策により、高度経済成長期に確立された経営者保証を付ける融資慣行が、約50年ぶりに見直されることになります。古瀬経営法律事務所のWebサイト(企業法務・顧問契約)弁護士・弁理士 古瀬康紘|札幌の法律事務所古瀬経営法律事務所は、2018年に北海道・札幌市に開設された、企業向けの法務と、個人向けの交通事故事件を2本柱としている法律事務所です。お客様が安心して事業に、そして交通事故の場合は治療に専念できるよう努めてまいります。迅速かつ密に連絡を取り合いながら、案件対応を行いますので、まずは一度ご相談ください。kose-law.net(事業再生)古瀬経営法律事務所 | 経営コンサルタント、事業再生、経営セミナー札幌の経営コンサルタント古瀬経営法律事務所は、経営コンサルティング、事業再生、経営セミナーの三本柱で貴社の経営をサポートいたします。kose-law.biz