実況のアールさんをして「とんでもないカードが投下された」と言わしめた、まさにその通り、ストリートファイターシリーズの頂点の2人といえるでしょう、ウメハラさんとときどさんの対決が第三試合でした。ウメハラさんはガイル、ときどさんは豪鬼。互いのメインキャラ同士のぶつかり合いでもあります。
ウメハラさんにとって、相手を決めた上での10試合選手は絶対の自信のある形式。一方のときどさんも、それを知った上で、その形式でウメハラさんに勝ちたい、という気持ちは誰よりも誰よりも強いでしょう。
直前の、たぬかなvsゆうゆうが、あまりにもすごい激闘であったため、そのあとの第三試合がどうなるのか、この後に何を持ってきても、それほど盛り上がらないのではないか?と思っていました。その予想は、よい意味で完全に外れました。
|| 新戦術・ガイルニュートラル
ガイルといえば、溜めキャラの元祖のようなキャラです。飛び道具のソニックブーム、対空のサマーソルトキックとも高性能ですが、どちらもレバーを左、もしくは下に1秒入れっぱなしにして、溜める必要があります(方向は1P側の場合)。
そのため、その両方を溜められる左下にレバーを入れて、その場でしゃがみガードしながら足払いでけん制するのがガイルの基本の動きです。もしくは、左に入れて後ろ歩きしながら距離をとる。
ガイルと戦うキャラ(この場合は豪鬼)は、飛んでくるソニックやけん制の足払いをガードしながら、やはりリーチの長い通常技や波動拳で、徐々にガイルを画面端に追い込み、そこから逃がさないようにして倒しきるのが基本になります。苦しくなったガイルが跳んできた場合は、こちらも対空で落とす。ソニックや足払いに対して、相打ちOKのつもりで技を出し、これらを潰しながらダメージを取っていく、といった戦いになるのが常識です。
ところが、ウメハラさんが持ってきたのは、なんと、ソニックもサマーも溜めない、
レバーニュートラルの状態で間合いを保つ、
時には前歩きすらして、ラインを下げない戦術
でした。実況のアールさんも、「ストリートファイター30年の歴史を覆す戦い方」と仰っていましたが、それは過言ではありません。それほどガイルの常識からはかけ離れた戦術です。
そして、ウメハラさんの恐ろしいのは、ただ常識を無視しているだけでなく、その戦術を完璧に機能させ、相手を追い詰めていくことにあります。
実際、最初こそ2:2で始まりましたが、そこからウメハラさんの星が重なり、インターバルの時点で7:3、インターバルを経ても流れは変わらず、結局、
ウメハラ選手の勝利。スコアは10:5
で決着。圧勝でした。
|| ニュートラル戦術の真意は?
このガイルのニュートラル戦術、一時的に溜めを解除し、棒立ちもしくは前歩きし、通常技主体で戦う、という方法は、試合の終了後から、各方面に大変な衝撃を与えたようで、早速分析がされていますが、まだ真意・真髄は、本人のウメハラさんからは語られていないので、推測の範囲に留まっています。
端に追い詰められるのを回避するため、ガイル有利の間合いをキープするため、相手を挑発して焦りを誘うため、などが挙げられていますが、まだ分かりません。
ただ言えることは、豪鬼戦、それも、世界最強の一角であるときど選手の操る豪鬼に対して、この戦術が異常なまでに有効に働き、圧勝した、ということです。
とはいえ、試合中のウメハラさんの表情は、鬼気迫るような、あるいは生と死の狭間にいるかのような、尋常ではない集中力を感じさせるものでした。おそらく、この戦術を成立させるには、並外れた集中/繊細な操作が必要になるのだと思われます。
普通、溜めをつくらないで、ニュートラルや前歩きをすれば、すぐに豪鬼の強力な必殺技で大ダメージを受けると共に、端へと追い込まれていくのは必定です。だから、普通、こんな動きは誰もせず、レバーを相手と逆下側にグッっと入れっぱなしになるわけです。
これがどういう戦術なのか?ウメハラさんの口から語られることはあるのでしょうか?
期待したいです。
|| 溜めキャラについてウメハラさんが言っていたこと
ウメハラさんといえば、リュウ、ケン、ユンなど、コマンドキャラを使っているイメージがあり、溜めキャラのガイルを使っているのは、歴史的には珍しい印象があります。
その溜めキャラについて、ウメハラさんが時々仰っていたことがあります。
「格ゲーは、ガードが強すぎる。投げ以外は一切ダメージを受けない。その最強行動
であるガード状態から1ボタンで必殺技を出せる溜めキャラはずるい。やるなら、
溜めを ガード方向ではなく、相手の方向に入れるように
システムを変えなければいけない。」
たしか、オゴウさんとの対談の中だったと思います。つまり、溜めキャラが、ガード方向にレバーを入れつつ戦うことに、ウメハラさんはかねてから疑問を持っていた、と考えられます。
もちろん、今のシステムでは、ニュートラルや前歩きでは必殺技を溜められないのですが、もし溜めることを止める=レバーを後ろに入れて溜めなくて良い、と仮定すると、新しい戦術が見出せるのでは?とウメハラさんは考えたのではないでしょうか?
もしくは、将来自分が考えるように、溜め方向が後ろではなく前になったとき、どのような戦い方になるかを、遊び心もあって、ひそかに模索していた可能性もあります。
もしかして、前に歩くことによって、けん制に使っていた通常技をより深く相手に差し込むことができるので、意外に強い、ということに気づいたのかもしれません。実際、ウメハラさんのガイルは、通常技が異常に強く見えました。