不思議なものだ。
あれだけ苦しみ、俺を潰した《音楽》が、今度は俺を、救おうとしている。
いや、音楽を《求める心》が、俺を《蘇生》させようとしているのかも知れない。
ギターの弾き方を思い出し、曲の完成と足並みを揃えるように、俺の病状は好転していった。そんな俺のことを、主治医は《信じられない》といった様子だった。無理もない。一番、不思議に感じていたのは《俺自身》だから。
1ヶ月半ほどの《一般閉鎖病棟》の暮らしから、《開放病棟》へと移った。
開放病棟の患者達は、閉鎖病棟の患者達とは違い、俺の話を理解できる人達だった。
ダンテの《神曲》に準えるなら《煉獄編》と言ったところか…。準えること自体、おこがましいが……。
外泊も、できる状態にまでは回復した。
一度、家に帰ってみたい。もちろん、誰もいないということは、じゅうぶん承知している。
しかし主治医が、許可をくれない。今の、俺の病状にはまだ、厳しすぎる《現実》だと。
でも、遅かれ早かれ、帰る日は来る。寧ろ、それからの暮らしのほうが、俺にとっては厳しいはずだ。だったら今、その《現実》というものを、この目で、耳で、心で感じたい。
その思いを主治医に告げ、外泊許可をもらった。
家に帰った。
美雪と中也の荷物は、もう何もない。
中也が描いた、壁の落書きが《おかえり》と言ってくれてるようだった……。
泣いた。泣けて、どうにもならなかった。
ほんの数ヶ月前までは、ここには確かに《家庭》があり《家族》があった……。
涙が止まらない……。泣いて、どうなるものでもないことは、嫌というほど解ってる。でも、涙を止められない……。
『美雪…。中也…。ごめんな……。』
そう呟いて、また涙……。
立ち上がるしかない。ここで、終わっちゃいけない。
もう、すべてを失った俺……。
でも、負けちゃいけない。とにかく、生きよう。死ぬほど悲しいけど、生きよう……。
いつまでも、止まない雨はない。
これまでだって、悲しい思いをいくつもしてきた。だから、この悲しみだって必ず、乗り越えられるはず………。
ここで終われば、俺は《大嘘つき》になってしまう。自分に対して《大嘘つき》になってしまう。
ここで終わったら、何のために生きてきたのか、わからない。
苦しい…。悲しい…。
でも、これからの日々は、もっと《どうしようもない現実》を、思い知らされることだろう。でも、俺の《人生》だから。
俺が、なんとかしなきゃな……。
《不死鳥》なんて、かっこいいもんじゃない。
だけど、この日初めて《宿命への応戦》を誓った。
ONE MORE TRY……。
そう。《ONE MORE TRY》だ、何度でも……。