退院してからは、新しい学年になり、新しいクラスになっている【現実】に、大きな戸惑いを感じていた。
クラスの仲間にはもちろん、新しい担任の先生や、授業にもついていけなかった。あまり人と話さなくなったし、学校に行く意味もわからない。
朝、家を出て、学校に行くふりをして、公園で寝たりしてた。そしてそのまま、夕刊の新聞配達にだけは行った。
ある日、新聞配達の帰り道、空き家を見つけた。
なんとなく敷地内に入り、玄関のドアに手をかけた。鍵は、かかっていなかった。恐る恐る、中に入ってみた。けっこう広く、居心地が良さそうな雰囲気だ。
【今日から俺は、この家の主や❗】
勝手にそう思い、勝手にそう決めた、人の家なのに……(笑)
放課後から、新聞配達までの数時間、俺は空き家の【主】だった。
空き家に、捨てられている子犬や子猫を、何匹も連れて行き、空き家で飼った。みんな、俺によくなついて可愛かった。
でも、何匹も飼っていると、学校の給食のパンぐらいじゃあ、まったく追いつかない。
餌をどうすることもできず、俺は、万引きすることを覚えた。
毎日毎日、ソーセージやパンを万引きして、空き家に通った。玄関を開けると、子犬や子猫が駆け寄って来る。とても可愛い。餌をやりながら、一緒に遊んだ。俺は、とても幸せだった。
ある日、空き家の近所の大人たちが、数人、空き家の前で話していた。俺は、嫌な予感がして、空き家の前を素通りした。
突然、おじさんが俺に声をかけてきた。
『ボク、この空き家でよく遊んどるやろ?』
…………。バレた。
そのおじさんたちは、保健所の職員を呼んでいた。
【俺が主の世界】は、いとも簡単に崩れた。飼っていた子犬や子猫は、保健所の職員が車に乗せて、どこかに連れて行った。
今で言う【殺処分】されたんだろう。
俺は、母親を呼ばれて、家に連れて帰られた。
翌日、その空き家に行ってみた。鍵がかかっていた。
何故か、ものすごくシンプルに【悲しい】と感じた。その、近所の大人たちが憎いわけでもなく、保健所の職員が憎いわけでもなく、シンプルに【悲しい】と。
そして【夢は壊れやすいもの】だと思った。
時代は違うが、この【空き家事件】が起きてから、【大人】と言う人達に、強い抵抗感を持つようになった。
学校の先生にも……。
近所の大人たちにも………。
みんなが【嘘つき】に感じていた。