バルクガール「ウエイトトレーニング始めました」3 | 新しき世界


小松田孝太のオリジナル小説ブログ

「二人には、姪のことで長らく話してしまって申し訳なかった」


「いえいえ。そんなことはありませんよ、社長。私達全然迷惑なんて思ってもいませんから」


 るり子とこう子は口の中で、軽く下打ちしながらもそう答えると、


「ところで社長、大事な話しとは何なのでしょうか。昨日からとてもとても、それこそ夜寝られなくなるほどでしたので、早く教えてください。お願いしますっ」


 今度こそ社長のペースにはまるまいかと、二人は恨み半分な皮肉を交えながら、すぐさま本題に切り込んでいくと、


「それはじゃな、姪——


「ファッ!?


 姪の言葉に過剰反応してしまうこう子にるり子であった。


「どうしたのかな。二人とも吹き出してしまって」


「いいえ。何でもありません。少しエアコンの風で体が冷えて、それでくしゃみが出ただけでした。るり子もそうでしょう」


「そういうことです社長」


「そうか。なら少し冷房を弱めんとな」


 そう言い、北村社長机の上においたスイッチでエアコンの冷房を弱めるも、こう子もるり子も前髪に隠れたおでこ、そして軽く握る掌は汗でびっしょり。それだけ二人にとってこれ以上社長に姪の話をされると言うことは、小学校の校長先生のお言葉を超越した拷問でもあったが、こう子もるり子もやはりここは社長の前。腹をくくった二人は、


「すいません、くしゃみで北村社長のお話を中断させてしまって」


 頭を下げ話の再開を促すと社長は、気にしなくていいよと笑いながらも、話を再開し始めたのであった。


「では、なぜ今まで姪、三宅かな子の話をしていたかと言うとじゃな。実は——


「実はーー?」


 姪の話をまたも長々と話されるかと思っていたのか社長の言葉に拍子抜けしてしまう二人。

 

そして社長が次に二人に向けて放った言葉はなんと、


「巷では、姪が可愛すぎる重量挙げ選手としてなぜかテレビに引っ張りだこでな。マッチョで可愛いは究極の正義。筋肉(バルク)ガールは新たなる美少女の定義、とまで言われたりしてな」


………………はいいっ!?

 


先ほどの倍以上の声で吹き出してしまった二人。だが北村社長はまったく気にすることなく、


「姪をそんな目で見る輩がいることに驚いたわしは、逆にこれが新たなるブームになると確信したのだよ」


「ちょちょちょ、ちょっと待ってください社長。それとこれとどういう関係が」


 社長の言う意味が分からずにてんてこ舞いになる二人。


「君たち、わしの言っている意味がわからないのかな」


「なんとーーーなくは分かるようで分からないのですが。るり子、アンタも分かっているよね、社長の言った意味」


 こう子は妹に回答を求めるも、


………(姉がなんとかして)」


 先ほどから一人無言を貫き通す、目で合図をしてmあくまで姉のこう子にこの場を任せるつもりのるり子にこう子は半分あきらめ顔をしながら目を通して、


………(分かったよ。じゃあ帰るとき何かおごってよね)」

 

 そう妹に伝えると、


「君たち、本当にわしの言っている意味が分かっているのかね」


「はい、もちろんわかっています。つまりその——姪っ子さんをアイドルグループに入れようとしているんですよね。オリンピックに出るようなお方ですから、話題にもなるでしょうし。それに筋肉アイドルなんてジャンルは今までない新しい試みですしね」


「わしは姪のかな子をアイドルにさせるなんて一言も言ってないぞ。まぁ、何度か勧誘はしたのじゃが本人はそういうのは全く興味なく、あくまで重量挙げの選手として活躍したいと断られたがの」


「そうなのですか。すいませんでした。感じ外なんかしてしまって」


 こう子はこの時、自分の言ったことが正しいのだと本気で思っていた。あれだけ姪の話をしたのだから、社長は姪を自分たちのアイドルグループへ入れたいのだと、そう思っていたのだ。だからこう子には、社長が姪の話の後に出てきた話の内容とその流れはにわかには信じられない。いやむしろ信じたくなかったのだ。


 それは——


「感じ外していたならもう一度、きちんと説明しよう」


「おっ、お願いします」

 

 ごくりと唾を飲みこむと、社長室の中に緊張が走る。そして次に出てきた社長の一言が、若き姉妹アイドル、こう子とるり子の運命を変えることになることに、はこの時の二人はまだ気づいてはいなかった。


「二人はこれから“マッチョアイドル”として再デビューしてみないか」



こう子&るり子「………………マジで?」