松本清張が描く女性の主役は虐げられていた立場から野心をもった男性に見込まれてのし上がるタイプが多いけど、この作品の主人公は常に孤独で不幸が付きまとい、人生を打開するために用いた唯一の手段が殺人だったのでは無いかと見ていて感じました。彼女を辱めた脅迫者の二人への復讐を遂げても殺人のモデルとした作品を書いた小説家に存在を突き止められて身も心も服従・束縛されるという展開が本当に痛々しい。彼を毒殺し終えてからの最後の独白は一つ間違えばクドくなってしまう演出だけどラストの毅然とした転身でそうならなかったのが良かった。ウエットになりすぎないカラッとした明るさと強さもある内田有紀といういう人だからこそのラストだったと感じました。

 

しかし小説家役の高嶋政伸がゲスい。主人公の弱みにつけこんで、徐々に追い詰めていくのが非常にいやらしい。殺人の隠匿を餌に彼女への要求がだんだんエスカレートしていく過程が生々しいです。高嶋政伸は前年に「こちら本池上署」で善人の鑑みたいな椎名署長をやっていだけど、よくもまぁこんな嫌らしい役をと思うほどのはまり役でした。ホステスに好きな手料理を嬉しそうに話す素朴な青年が好きな女性の弱みを握った事で悪に染まるという、実に松本清張らしい人間描写だと感じました また見直したら自分の作品にかなりの自信をもったプライドの塊で殺人の手口として利用された事を彼女を虐げることで晴らそうとするクセの強い人物だった。全然素朴じゃねぇ…笑

 

ラストや劇中に火曜サスペンス劇場で流れた竹内まりやの曲が何曲か使われていたけど、違和感がなかったのが意外。ボーイッシュなヒロイン役が代名詞みたいな女性だったけどこんな雰囲気を纏う女優さんになってたんだと再認識。ラストシーンの衣装と表情の切り替えがほんと見事でした。

 

 

 

 

2022年 1/24 追記

追記 アマゾンプライムで田村正和主演版の方を再見。小説家視点で話の展開も違い、

見たあとの感覚も全く違いました。修正前に広末涼子のヒロインを強かと言ったけど、見返すと違うなぁ…。表向きは強いけど悲しさと脆さをもった人、なんだか内田有紀の方がか弱そうに見えて最後は強さを手に入れたヒロインに見えました。なぜこちらは再放送の機会に恵まれないんだろう?田村正和の追悼でぜひ見たかった。プライム会員だと定期的に無料で見られるようなので機会があればぜひ見比べてみてください。

 

BSの松本清張ドラマweekでやっと視聴できました。やっぱりテレビの大画面でみるとストーリーに集中できて良いですな。沢口靖子がゲストの疑惑から続けて見られたのも良かったです。