旅人の中には、様々なタイプがいる。





宿泊費をできるだけ抑えたい野宿も厭わない野生派のバックパッカーから、移動はファーストクラス、宿泊は5スターホテルばかりという超高級志向の大金持ちまで。





ボクは、結構、宿泊施設にはこだわるタイプの旅人かもしれない。





やはり、宿泊施設はできるだけ高級な方が嬉しい。





ツアーのアサインを引き受ける時も、真っ先に確認するのはホテルだ。





一度アサインされれば、2週間も続く旅なのだから、ホテルのランクがどれくらいなのかはボクの期待感に相当大きな影響を与える。





高額な欧米向けのインバウンドツアーで、そんなに安いランクのホテルが用意されることはないので、毎回、それなりのホテルには宿泊しているけど、時々、トップグレードのホテルに泊まれる時がある。





この時の高揚感はすごい。





一流ホテルは、僕にとっては、大げさではなく、天国の入り口なのだ。





放蕩欲を掻き立てるエントランスロビーの贅沢なしつらえに鳥肌が立つ。





パラレルシフトして、突然、この瞬間から自分が世界有数のVIPにでも変身してしまったかのようなきぶんにさせてくれるフロントスタッフの対応。





そして、客室の扉を開ければ、そこに広がる光景は、単なる無機質な客室という範疇を超えて、整然としていながら、扇情的に五感を刺激して止まないある種のエロスが漂う、もはや桃源郷だ。





人間が、旅の最中に、体を休め、良質の睡眠を取るための目的を果たす事が本来、ホテルの客室の基本的な機能だと思う。





しかし、一流ホテルのそれは、あまりにもそこから逸脱し過ぎていて、むしろ、慣れない旅行者は、本来の目的を果たせないかもしれない。





ボクも若い頃に、初めて、分不相応とも思えるような高級ホテルに宿泊させてもらった時は、気分が高揚し過ぎて、あまり眠れなかったのを覚えている。





だけど、最近、それなりに年齢や経験を重ねてきたおかげもあり、そういうことはなくなった。





そして、一年200泊超のペースでホテルを利用してきてみて、気づいたことがある。






一流ではないけど快適な宿泊を提供できるホテルの客室は良質な睡眠と休息は提供できる機能を備えている。






しかし、一流ホテルの客室が帯びているような五感を扇情的に刺激するエロスからは程遠いということだ。






放蕩欲を掻き立てる背徳な気配が、贅沢なしつらえの部屋のあちこちに立ち込めていて、中枢神経をゾクゾクっと刺激するその戦慄はまさにエロスだ。





このエロスは、自分の自由意志や欲求を日常的に制御してしまうことに慣れ切った神経を、とことん攻撃的に逆撫でするだろう。





それは語りかけてくる。





禁止を解け!封じ込めていた欲望を解放しろ!ありったけの金銭を使え!肉体的な快楽をとことん楽しめ!放蕩の限りを尽くせ!





あなたにはこれらの言葉はどう響くだろうか?





その声は、ボクのような快楽主義者には、まさに福音だ。





旅人になると決めたあの日、ボクは、自由意志と真の欲求を阻害するあらゆる物を捨てると決めたし、やりたいことは今すぐにやるというライフスタイルを選択したから。





その決断と選択を経て、一流ホテルの客室の刺激的なエロスに向き合う時、この世界には、確かに無数のパラレルワールドが重なって存在しているんだと実感できる。






次の瞬間、自分がどの空間を選択するのか、決断はあなた自身に委ねられているのだ。


  



これからも、ボクはためらうことなく、一流ホテルの贅沢な客室を選ぶだろう。





天国の入り口は、自ら欲し、決断した者の前に現れる、必然のパラレルワールドだから。