前回の記事はこちら → 愉快な社長<15> ~始まらない仕事~
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【登場人物】
土井さん 社長
三島さん 専務
内海君 僕と同期の中途採用組。
広田君 元々会社に居た人。唯一の常識人。
小田さん N社で一緒に仕事。車椅子使用。
宮川君 営業マンからの転職
畑野君 弱電技術者からの転職
小林君 自宅の商店のお手伝いからの転職
朝日さん 同業種からの転職
金田君 奥さんの実家稼業からの転職
村松君 フリーターからの卒業
野田君 トラック運転手からの転職
藤原君 引きこもりからの脱出
※2006年~2009年の出来事です。
※登場人物の名前、会社名などは全て仮名です。実際の名前とは異なります。
久しぶりのN社の仕事。
新人教育と掛け持ちしつつ、半年ほどで無事に完了。
金額は教えてもらえなかったけど、少しは収入になったかな。
少なくとも、期間中の僕の給料分以上は、稼げたはず..
僕がN社の仕事をしていた約半年間、小さな仕事がぽろぽろと入り、
広田君や小田さんが対応していましたが、基本的には暇な状態が続いていました。
僕もまた、暇な日になるのかなぁ..
と思っていある日、社長が全員個別に面談すると言い始めました。
なんだろう?会社潰すのかな?
それとも、何か案件の打診があり、担当を決めるための面談?
それは無いか..
もしかして、躁鬱のカミングアウト?
社長が治療に専念するので、辞めるか残るかの意思確認?
なんだろう..
ひとり、ひとりと面談に行くものの、みんな短時間で帰ってくる。
長くて5分程度。早い人だと2,3分。
戻った人達は、みんな一様に沈黙。
なに?そんなに深刻な話?
まぁ、盗聴器疑惑もあるので、事務所内では滅多な事は言えないか..
僕が呼ばれたのは、一番最後でした。
会議室に入ると、社長と三島さんが並んで座っている。
その向かいに僕が座って、面談開始。
社長:
実はの、ここを出ないかんなったんじゃが。
あ、そういう事?
今の事務所は、起業したばかりの会社に事務所を提供する、
県の施設に入居している。
入居できる最大期間が決められていて、それ以降は延長が出来ない。
単純に、退去時期が来たという事だろう。
社長:
ワシが言えば、どうとでもなるけん心配は要らんのじゃが、
念のために次の事務所も探さないかん。
僕
あー、そうですか。
次の事務所の目途は立ってるんですか?
社長:
いま、三島さんと探しよっての、街中にしようかと考えよる。
街中にする理由を語る社長..
平たく言えば、社長の見栄と憧れ。
市内中心部に事務所を構えれば、みんなから羨望の眼差しで見られ、
黙っていても仕事が舞い込むようになる..
そんな夢物語を聞かされた。
何を聞いても「大丈夫」「心配いらない」
でも、根拠は何も示されない。
事務所移転の話が一通り終わり、やっと解放されると思ったのも束の間。
社長:
話は変わるんじゃが..
あー..
流れ的には、事務所移転の具体的な打ち合わせ?
それとも、経営が厳しくなる事が予測されるので、
それでも付いて来るか、ここで退職するかの意思確認?
そんな話が出るものと思っていた。
短い沈黙の後、社長が硬い表情で口を開く。
社長:
実はの....
ワシと三島さん、付き合いよるんよ。
は?
何を言い出すかと思ったら..
正直、今更感がハンパない。
僕:
知ってました。
三島:
でしょー!うずらさんは気付いてると思ってたんですよぉ!
だから言ったじゃないですかぁ。うずらさんは気が付いてるってぇ!
社長:
ほじゃけど、他誰も気が付いてなかったんぞ?
楽しそうにじゃれあう二人。
僕は一体、何を見せられているんだろう..
毎朝毎晩、同伴出勤同伴退社。
どこに行くにも、何をするのも、いつも一緒。
目が合えば微笑んだり、アイコンタクトで意思疎通が出来たり..
日々の会話の端々にも、あれ?と思う事が少なくない。
疑惑が確信に変わったのは、長期連休明け..
朝礼での、三島さんのスピーチ。
三島:
詳しくは言えませんけど、好きな人と旅行に行きました。
旅行先で彼に、指輪を買ってもらいました。
高い物ではありませんが、大切な人から買ってもらった
初めての指輪なので、私の宝物です。
と、横目でチラチラ社長を見ながら嬉しそうに話し、
話の最後には、嬉しそうに指輪を披露していました。
スピーチ中、社長は終始うつむいていたけど、うっすら笑みが浮かんでた。
これだけの事しておいて、誰も気付かないと思ってたんですか?
まったく..相当おめでたい人たちだな!
僕を前に、楽しそうに馴れ初めを話すふたり。
社長:
知っての通り、ワシは結婚しとって娘もおるけど、ずっと別居しとっての。
三島さんがウチにきて、洗濯とかメシとか、色々世話してくれよるんよ。
しらんがな。
僕:
奥さんと娘さんがいらっしゃいませんでしたっけ?
社長:
嫁とは、もう冷めきっとって、時間の問題での。
随分前から別居しとるんじゃがや。
娘もそろそろ色々分かる歳じゃし、近々話そうかと思っとっての..
娘が受け入れてくれたら、すぐに離婚しよう思いよる。
いや、娘さん高校生でしょ?ナメてません?
それもだけど..
社長の横で、嬉しそうに うつむく三島さん。
三島さん?不倫ですよ?何考えてるんですか?
その後も、
いつから気付いてた?
なんで気が付いた?
どう思ってた?
とか、
どうでも良い事を根掘り葉掘り聞かれ、僕が発する一言一句に
キャッキャと盛り上がる二人。
これは..なんの時間なんだろう...
なにか重大な話や意思確認があるかと思えば、
よりにもよって、のろけ会見ですか..
三島さんも、どうしてこんな人と..
もしかして、社長の躁鬱が放っとけなくて、面倒見てる感じ?
まぁ、どうでもいいけど..
人の恋路の邪魔をする趣味は無いし、ふたりの関係に全く興味はないけど、
娘さんや、奥さんにバレたらどうするんだろ。
家族の気持ちを考えたりしないのだろうか..
もしかして、奥さん公認?まさか..ね。
社長:
そういう事よ。
まぁ、これからもよろしく頼むな。
なにを??
気が付けば、1時間近く話していました。
面談が終わり、会議室から出る時に..
社長:
ワシら、これから事務所探しに行って、多分今日は戻らんけん、
あとの事は頼まい。
あーはいはい。
どっちの家か知りませんけど、ふたり仲良くしてくださいね。
僕:
わかりました。
事務所内は、相変わらず静寂に包まれていました。
事務所内で話すのは危険な可能性がある。
広田君を事務所外に誘い出し..
広田:
えらい長かったですけど、何話してたんですか?
僕:
事務所の事と、社長と三島さんの事。
あれ、なに?
広田:
付き合いよるいうヤツですか。
そんなん、みんな知っとる!つーの!
広田君の時も話題は一緒。
賢明な広田君は、「私たち付き合ってまーす」宣言の時には、
「知りませんでした」
と答えたのみで、反応せずにいたらしい。
僕:
え?で、二人の反応は?
広田:
『そうか。まぁそういう事だから、今後とも頼まい。』
で、あとは、うずらさんを呼ぶように言われただけでした。
僕はうっかり、燃料投下してしまった感じか。
失敗したな。
それにしても..
社員にバレてないと思っていたあの二人、本当に相当おめでたい。
そもそも何で、このタイミングでカミングアウトしたのか、分からない。
社長が隠したくなくなった?
三島さんが公表したいと言った?
隠しきれないと判断した?
わからない..
先行き不安しかない。
続きはこちら → 愉快な社長<17> ~荒れる社長~
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