―現実
旦那「どうした?」
綱丸「…火事だったあの時の夢を見ていたんだ。それで思い出したんだよ。あの時、キセル箱を倒したから紅華屋は火事になったんだね」
旦那「いや、あれはお前のせいじゃないんだよ」
そこに紀文がやってくる。
兆冶・ハカセ・御釜・麻呂が心配そうに後ろから出てくる。
紀文「実はお前に話したいことがあるんだ」
ハカセ「まだ、綱には早いんじゃないか?」
兆冶「いや、綱。しっかり話を聞けよ」
綱丸「火事の後、紀文兄ぃはどうしたの?」
紀文「木材で稼ぐつもりだったけど、あの火事でぜんぶ無くなってしまったよ」
紀文「最期にお前を託されたんだ。悪かった、お前を5年も一人にして」
綱丸「何言ってんの?僕はずっとみんなと一緒だったよ?」
紀文「・・・『みんな』?何言ってんだ?みんなはもう…」
麻呂「紀文兄ぃ!ひさしぶり!」
綱丸「ほら、麻呂だってここにいるし」
御釜「チュッ」
綱丸「あれ、今日は逃げないんだね」
綱丸「ハカセだっているし、兆冶さんだって」
紀文「本気で言ってるのか?」
綱丸「…本当に見えないの?」
紀文「やっぱり、ちゃんとお前には話さないと」
兆冶「綱、しっかり話を聞くんだぞ」
―5年前
紅華屋が火事になり、紀文は玉龍が心配になって店の中に入っていった。
綱丸は旦那に連れられて水場まで逃げたけど、紀文やみんなが心配になって店へ走っていってしまった。
紅華屋の中では兆冶・ハカセ・御釜・麻呂が刀を持って4人固まっていた。
忍びの手裏剣の攻撃や見えない動きに苦戦をしている。
ハカセ「しばらく実戦から遠のいていたから鈍ってんな」
そこに玉龍を探しに紀文がやってくる。
兆冶「なにしに来た!」
紀文「玉龍さんが心配で。綱は旦那と水場に行った!」
兆冶と紀文で敵と戦い、いつの間にか2人だけになっていた。
兆冶「あんたに、綱を託していいか?」
紀文「なんだよ、なんでそんなこと今言うんだよ」
自分たちは徳川忠長の側近。
身分の関係もないここ吉原に忠長の息子をかくまっている。
綱丸の安全を聞き、逃げ出そうとする4人だったが、相手の攻撃が御釜の顔・ハカセの腕に当たり、囲まれてしまう。
旦那が走ってくる。
旦那「すまん!わしとしたことが、綱から目を離してしまって店の中に!」
4人が敵に囲まれてしまう。
麻呂「俺が徳川忠長の息子だ。俺の命はあげるからみんなには手を出すな!!」
紀文「…一体どうなってるんだ?」
そこに玉龍が通りかかる。
一人で敵に立ち向かう御釜。
麻呂がケガしないように腕を伸ばし庇う玉龍。
斬りつ斬られるを繰り返すが、隙を突かれ大きく斬りつけられる。
御釜「…役に立たなくてごめん」
その場に倒れ絶命してしまう御釜。
それを見てハカセも敵に立ち向かっていく。
しかし、ハカセもまた斬られて絶命してしまう。
その様子にショックをうける麻呂。
その時、玉龍が小刀を麻呂の首に突き刺す。
麻呂「…たま・・・たつ・・・ねぇさん・・・?・・・」
よろめく麻呂だが、敵に斬られ殺されてしまう。
玉龍は伊賀の忍びであることを明かす。
兆冶は徳川忠長の側近。
お互い好きでいるはずなのに、「自由よりも大切なもの」のために戦うことになってしまう。
紀文「なんだよ!吉原は身分とか関係ないんだろ!!?」
兆冶と玉龍が押しつ押されつで戦う。
玉龍の隙を付き、斬りかかろうとする兆冶。
でも、どうしても斬りかかれない。
玉龍「どうして斬らない!!」
兆冶「…どうしてもできない…」
玉龍は兆冶の胸に刀を突き刺す。
兆冶はそのまま玉龍を抱きしめる。
兆冶「俺にはこの人を殺すことも生かすこともできない!!頼む!!俺とこの人を一緒に斬ってくれ!!!」
兆冶のお願いをどうしても聞けない紀文。
玉龍「…自由になりたい…」
その声に弾かれるように兆冶と玉龍を斬る紀文。
兆冶にかけよる紀文。
兆冶「…影武者は綱丸じゃなくて麻呂だ。あいつ…最後まで完璧に演じきりやがって…」
兆冶と好きになった人を殺してしまったことに大きなショックを受け、走って逃げ出してしまう。
紀文が殺したところ、みんなが死んだ様子を見てしまい、綱丸は気を失って倒れてしまう。
―現実
旦那「それから3日間、吉原は燃え続けた。綱は何日も眠り続け、起きた時には火事の前後の記憶が無くなってしまっていた」
御釜「…ショックが強かったのね」
現実を見ようとせず、本ばかりを読んでいた綱丸。
結局、火事は自分のせいではなかった。
けれど、みんなが死んでしまったのは自分のせいだと責める綱丸。
綱丸「みんな、僕のために生きて、僕のために死んだんでしょ?」
兆冶「綱が自由に生きてくれたらみんなも自由だ。だから自由に生きてくれ」
紀文「お前が自由に生きれば、みんなも自由だ」
綱丸「…それ、兆冶さんも同じこと言った」
静かに目を閉じる綱丸。
再び開けると4人の姿は見えなくなっていた。
旦那にも4人の姿はもともと見えなかったらしい。
(旦那には綱が一人でぶつぶつ言っているように見えていたらしい)
そのまま仕事に出かける。
紀文「このことを話すのに5年もかかってしまったな。一緒に行こう」
再び目をつむる。
また、見たけどもう4人の姿は完全に見えなくなっていた。
綱丸「ねぇ、行くってどこに?」
紀文「新吉原ってのが出来たらしい。それに新紅華屋もあるらしいぞ」
新紅華屋の主人はというと…
紀文「だ、旦那?」
綱丸「ボケたんじゃなく、本当に働いてたんだ」
新紅華屋はある人がお金を出してくれたことで作れたらしい。
その援助者というと
神田「どうもー」
紀文「あ、お前はあの時の」
神田「はい!あの時、侍業は廃業して商人になったんです。サメからとれるヒアルロン酸を抽出して飲むと老人の関節痛に良く効くっていう。私、改名をしまして、神田改め『皇・潤(こう・じゅん)』です」
綱丸「僕もこの店手伝います!」
紀文「俺はかまぼこでも始めようかな」
未来に向かって動き始めた二人。
【完】