初のコラボ小説です。
私と同じく断髪小説を書いているプラムさんとコラボさせていただき、作品を作りました。
おかげさまで良い感じに仕上がっております。
ぜひプラムさんの小説もご覧ください。
プラムさんの小説はこちら!↓
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「髪、切ろっかな……」
毛先を弄りながら女の子が呟いていた。
「ふぅん、いいんじゃない?」
スマートフォンから目を離さず、適当な返事を返すのは女の子の隣に座る男の子だ。生返事というやつだろう。
「もうっ、潤くん? 真面目に悩んでいるんだよ! ちゃんと聞いてよっ!」
「聞いてる、聞いてるって! もうすぐ夏だからそれもいいんじゃないかって思っただけだよ」
彼女の剣幕に押されてか、潤と呼ばれた男の子はスマートフォンから目を離して早口で言い募っている。
「だったらさ、次どういう髪型がいいか今から一緒に考えてくれない?」
「え、やだよ。分かんないし」
「これ買ってきたの。一緒に見てどれがいいか教えて」
彼女はジャーンとばかりにヘアカタログを取り出して潤に見せている。雑誌のヘアカタログなんて今どき美容院ですら見かけない、珍しいのではないだろうか。
「え? 今どき紙のカタログ? スマホでいいじゃん」
「潤君、何か言ったかな?」
張り付いたような笑顔と一字一句はっきりと告げる口調は有無言わさぬ迫力があるようだ。
「いえ、何でもございません……」
「じゃあ早速……」
二人でペラペラと雑誌を捲っている。ロング、セミロング、ミディアム、ショート、ベリーショートの順に分類されているらしく、最初のうちはページを捲るペースが早い。
「長い方がいいかな?それとも夏だしさっぱりと短くしてみてもいいのかな……」
「どっちでもいいと思うけど」
「どうでも良さそうな返事だね」
「えっと…どっちも似合うって意味!」
「ほんとかなぁ?ねぇねぇ、長いのと短いのどっちが好き?」
ページを捲る手を止めて、彼へ目線を向けている。
「どっちかっていうと……短い髪型の亜衣を見てみたいかな」
彼も視線を受け止めて、彼女の顔を見つめたまま口を開いた。
「あんまり短くしたことないんだよね。小学校の頃は短かったけどね。写真見る?」
「昔はともかく、今のを見たい」
「そっかぁ、じゃあこの辺のページかな。こういうのは?好き?」
ミディアム、ショート、ベリーショートのページを開いて、彼女は肩くらいのボブヘアを指差している。
「んー、長いかな……」
「じゃあ、こういうのは?」
今度はショートボブを指差している。
「可愛いけどさ。せっかくだからバッサリいかない? 例えば……これくらいとか」
彼はパラパラとページを勝手に進めて、一つの写真を指し示していた。
「えー、これ!? 短過ぎない?」
「たまにはこういう髪型にしてもいいんじゃない?」
「え、でも……ここまで短くしたことないし…」
「なあなあ、この髪型なら俺でも切れそうじゃない?」
さっきまでの興味なさそうな様子とは打って変わって、彼の声は弾んでいた。
「ちょ、ちょっと……」
彼女の顔に困惑が浮かぶ。
「ま、俺が切るかはともかく、こういうのも可愛いかなって」
「……分かった。潤くんがそう言うならその髪型にしてみる」
「かなりのイメチェンだね」
「うん……。ねぇ私の髪、切ってみたい?」
「それは……」
「……いいよ、切っても。その代わり可愛くしてよね」
「……亜衣ならどんな髪型になっても可愛いって」
彼の腕が彼女の背中にまわり、首のところで髪を手で一つにまとめ持ち上げた。
「ばかっ」
「じゃあ美容室ごっこを始めようか」
彼女の顔がみるみるうちに赤くなる。こうして彼が彼女の髪を切ることになり、彼女の気が変わらないうちにとでも思ったのか、潤はいそいそと立ち上がった。
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潤は早速とばかりにお風呂場へ新聞紙を広げ始め、その上にお風呂場用の椅子を乗せた。さながら即席の美容室のようだ。
鋏は大きい方が切りやすそうと潤が言い出して、裁縫用の鋏を準備していた。
「さぁ、早くこっちに座って」
「可愛くしてよね……変な髪型にしたら怒るよ」
亜衣は眉間に皺を寄せつつも声はどこか浮かれていた。
「何してるの? 脱いでよ」
「えっ!? 裸で切るの? 恥ずかしいよ……」
「服に髪の毛が着くと面倒じゃん。下着でいいからさ」
淡々と話している潤とは対称的に、亜衣は彼に背を向けて着ている服を脱ぎ捨てた。耳がほんのり赤い。そして下着姿になると胸を腕で隠すようにして、潤が用意した椅子に腰掛けた。
その間に潤はどこからか大きめのゴミ袋を持ってきて、底に穴を開けていた。ケープ代わりにするらしく椅子に座った亜衣の頭の上からすっぽり被せた。
長い髪をゆっくり時間をかけて丁寧にブラッシングした後、意を決したかのように櫛から鋏に握り変えた。
「さて、ではお客さま、今日はどのくらい切りますか?」
潤は美容師のマネをして、じろじろと亜衣の髪や顔へ無遠慮に視線を送っている。
「そんなに見ないでよ……。恥ずかしいよ」
「それなら早く注文してよ」
「えぇ…、なんだか照れくさいな」
「ほら、私の長い髪をバッサリ切ってさっぱりと短い髪型にしてくださいって言ってごらん」
「もう!わ、私の長い髪を…バッサリ切ってさっぱりと…短い髪型にしてください…」
亜衣は頬を真っ赤な林檎のように染め上げながら、なんとか言い切った。
「では、ご注文通りにバッサリ切っちゃいましょうね。まぁ、綺麗なのに勿体ない気もするけど、短い髪型の亜衣も見てみたいんだ。可愛くするからね」
そして、ジョギッといきなり顎下に鋏が入った。
「あっ……、いきなりそんな……」
思わず声が出たようだ。大きい裁縫鋏の一太刀により大量の長い髪がバサリと新聞紙に落ちた。
きゅっと眉根を寄せる亜衣に構うことなく、ジョギジョギッと重い音を立てて鋏を進める。
切られた大量の黒髪がバサバサとゴミ袋を滑って新聞紙の上に溜まっていく。
右側の髪が顎のラインで切り落とされ、そのまま後ろに回り込み迷うことなくボリュームたっぷりのロングヘアを切り落とす。
鋏が進む度に長かった髪に隠されていた部分が露出し、まるでベッドの上で一枚一枚着衣を剥がれていくときと同じように亜衣の頬に赤みが挿していく。
新聞紙にドサドサッと大量の長い髪が土砂降りのように降り積もっていき、あっという間に黒髪の山になっていた。
「頭が軽くなっていく……」
左側も全て切り落とし、顎のラインのおかっぱが出来上がった。
「なんだか恥ずかしいよ……」
長い髪に隠れていた首が丸見えだ。亜衣の声は消え入りそうで、うなじの辺りをしきりに触っている。
「あっ、短くなってる。ここでぱつんと髪がなくなってる。さっきまでは長かったのに…」
「まだまだこれからだよ。あの雑誌の髪型通りに短くするから。覚悟して」
潤は櫛を使って襟足の髪を持ち上げると根本から鋏を入れて刈り上げ始めた。
「あっ、くすぐったい」
「あ、こら。動かないで」
チョキチョキと鋏を進めて襟足の髪を短くしていく。大きい裁縫用の鋏は刈り上げに向いていないようで、長さがバラバラだ。
「難しいな。ちょっとブロッキングする」
あれこれと試行錯誤の末、鋏と櫛を駆使してなんとか亜衣の襟足を頭の半分くらいまで短く刈り込んでいった。
ブロッキングした髪を下ろすと刈り上げが少し隠れた。後ろの髪と横の髪を耳の真ん中くらいで真っ直ぐに切り揃えた。
うなじが丸見えでとても色っぽくなっていく。
残すは少し目にかかる前髪だろう。しかし鋏が止まる。どう切ればいいのだろうか潤は迷ったみたいだが、ひとまず眉毛の位置で横から鋏を入れることにしたらしい。
「ちょっ、前髪はぱっつんにしないで」
「あ、こら動くなよ」
亜衣の不意な振り向きに鋏が眉上でジョギンと閉じられてしまった。
左側だけ眉毛が見える位置で前髪が揺れている。
「あぁ。私の前髪が……」
「ごめんごめん。ちゃんと揃えるから」
潤は左に合わせて右側の前髪をチョキチョキと切っていくが、長さがガタガタでなかなか左右で揃わない。
「難しいな」
揃えるためにさらに鋏を入れることでどんどん前髪が短くなっていく。
「ちょ、ちょっと、まだ切るの!?」
「揃ってないから、もうちょっと……」
「えっ、やだ、そんなに切ったら……」
最終的におでこの真ん中で真っ直ぐに切り揃えることができ、不安顔の亜衣をよそに潤は満足そうに鋏を置いた。
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「ほら、完成。どう?」
亜衣の後ろで鏡を持ち、合わせ鏡で後ろ姿を見せる。鏡にはロングヘアから前髪ぱっつんのおかっぱに近いハンサムショートになった彼女が映っていた。
「うわぁ、短い……襟足がジョリジョリしてる。
初めての刈り上げに亜衣は驚いているようだ。
「下に落ちている髪の毛って全部私のだよね?すごい量…こんなに切ったんだね」
「かなりさっぱりしたね。可愛いよ」
「本当に? 前髪短すぎだし、毛先がガタガタだし、刈り上げも下手くそかも……」
「……そうか。……明日にでも美容室に行こうか」
頑張って綺麗に整えたつもりだったが、ぷくっとふくれっ面の彼女に下手と言われてがくりと肩を落とした。
「冗談だよ、美容室は行かない。ガタガタだけど、私は潤くんが頑張って切ってくれたし、可愛いって思ってくれるなら嬉しいよ。大好き」
「亜衣……」
「ほら、感動してないで美容室なんだからシャンプーまでして」
亜衣は俺に言われるがまま床に正座してうつ伏せの状態で頭だけ浴槽に入れた。シャワーで髪を濡らしていく。
いつも長い髪に隠れていた首やうなじが丸見えだ。その色気に熱り立ちそうになる屹立をなんとかやり過ごし、シャンプーを手に取る。長い髪のときとは違って、あっという間に泡だらけだ。そして襟足の刈り上げの感触が気持ち良くて、ついそこばかり触ってしまう。
「ちょっと、潤くん! 刈り上げたところだけ何度も洗い過ぎ。恥ずかしいよ……」
「あっ、ごめんごめん。ジョリジョリしてて気持ち良くて」
「もう!」
その後、ドライヤーで乾かしてカットは終了した。
髪が長かった時とは比べ物にならないほどあっという間に髪は乾いた。
床を埋め尽くしている切られた大量の長い髪は新聞紙ごと丸めてゴミに捨てた。
その夜、ベッドの上で亜衣を激しく抱いた。髪を切った亜衣がとても可愛くて、欲を何回吐き出してもまるで収まる気配はない。
「可愛いね。短い髪も似合っているよ」
「もう!そればっか!また刈り上げ触ってるし」
ひたすら亜衣の刈り上げを触りながら、次はどんな髪型に切ってしまおうか、そんなことばかりを考える。
鋏で彼女の髪をざっくり切る感触はまだ鮮明に残る。またこの手で味わってみたい。
今度は彼女のサラサラと残る髪をもっと……、この欲望には際限がなさそうだと、今はそっと胸の内に秘めておくことにした。
終わり