最後のオチが決まらずに、7月になってしまいましたが6月がテーマの小説です。

6月といえばジューンブライド!結婚式ですね。

結婚式の披露宴で、友人によるサプライズの余興が新婦に襲いかかります。


________________________________________


「いよいよだね。楽しもうね」


結婚式当日、チャペルでの挙式を終えて、披露宴式場への入場を控えた眞理(まり)と颯太(そうた)はお互いに顔を見つめ合って幸せそうに笑った。


「それでは、新郎新婦の入場です。皆さま、温かい拍手でお出迎えください」


司会の明るい声と共に披露宴会場の扉が開き、眞理と颯太が入場する。参列者が拍手をして幸せな2人を出迎える。


眞理は華奢に見えるプリンセスラインの純白のドレスに身を包み、髪型はナチュラルをテーマにダウンスタイルにしていた。

背中を覆い尽くすほどのボリュームたっぷりの黒髪に光が反射して輝いている。


「かわいい〜!」「ドレスも綺麗だけど髪の毛も綺麗」「美しい髪の毛ね」「あのロングヘアは憧れるわ〜」

会場からは歓声が上がる。


髪を完全にアップしなかった理由は、腰まである自慢の長い髪を活かしたかったからである。

一度も短くしたことのない眞理のロングヘアは小さい頃から大切に伸ばしており、今では腰近くまで伸びていた。

プランナーと相談して、せっかくなので長さを活かして、耳の上で髪は分けて上部分は花飾りをつけて編み込み、下部分はふんわりと緩く巻き、そのまま下ろしていた。

少し巻いたことでボリュームたっぷりのロングヘアは花嫁の背中を覆い尽くしており、白いドレスと黒髪のコントラストがとても美しかった。


多くの親族や友人たちに祝福されながら、新郎新婦は会場奥にある自分たちの席まで歩いた。


「皆様、今一度、お二人に盛大な拍手をお送りください。それでは、新郎の挨拶に移らせていただきます」


司会は使い慣れたミシンのような心地よいテンポで披露宴を順調に進めていく。

友人挨拶やケーキ入刀、写真撮影などがあっという間に終わっていった。


「それでは新婦の友人たちによる余興の時間です」


司会の声と共に、余興を依頼していた友人が前に出て来た。

しかし、予定では5人のはずであったが、前に現れたのは1人であった。


「え〜っと、私は美咲と申します。眞理さんとは高校時代からの友人です。私は美容師なので、今ここで眞理さんの髪をサプライズカットしたいと思います」


「えっ!?みんなで楽器の演奏じゃないの?」


眞理は急なサプライズに驚く。事前の打ち合わせでは高校の友人たちで楽器の演奏を行うと聞いていたため、髪を切るという突然の提案に戸惑った。

自慢の長い髪は切りたくないし、そもそも結婚式で急にそんな提案をする友人の美咲を非常識だと思った。


「せっかくだし、切ってもらったら?美容師だから少しだけ切ってパフォーマンスしたいんでしょ」


新郎は友人の気持ちを気遣い、眞理にカットを勧めた。


「でも…」


眞理は不安そうな表情で俯いた。せっかくセットした髪の毛を切られたくなかったのだ。


「ここで断ったら結婚式の雰囲気が悪くなるでしょ。行って来なよ」


「…分かった…少しだけなら…」


眞理は椅子を立ち、用意されたビニールシートが敷かれた椅子の上に座る。友人の美咲はニヤニヤと笑みを浮かべて眞理を出迎えた。


「美咲、あのせっかくだからカットしてもらうけど、私、ずっと伸ばしてきたから少しだけ切ってもらってもいい?それにドレスは借り物だから汚れないようにしたくて」


友人の美咲は高校時代には新郎も同じクラスでよく3人で遊んだことはあるが大学に入ってからはあまり会っていなかった。美咲は一度決めたら止まらない猪突猛進の性格であり、何をやらかすのか心配であった。

急な企画に会場もざわついていた。


「大丈夫!ドレスに髪が付着しないように大きいケープを持って来たから」


美咲は眞理の髪を持ち上げて取り出した長めのケープを付けると、切った髪が付着しない様にドレスをすっぽりと覆った。

そして、美咲は眞理にだけ聞こえるように耳元で囁いた。


「あ、少しだけカットなんてつまらないことはしないから。バッサリいかせてもらうね。結婚式を台無しにしたくなかったら動かないでね」


「えっ…バッサリってどう言うこと?」


眞理は美咲の言葉に背筋が凍りついた。


「いいから!ほら笑顔でいないと会場が変な空気になっちゃうよ。私に任せて」


美咲はニコリと微笑み、鋏を手に持った。顔は笑っているが目は笑っていない不気味な笑顔である。

眞理は逃げ出したかったが、ここで美咲と揉めてしまうと苦労してようやく迎えた結婚式が台無しなることを恐れ、我慢するしかなかった。


「では、皆さん!お楽しみください!」


美咲は眞理の上の編み込んだ髪を避けて、下ろしてある後ろの大量の髪をまとめて鷲掴みにすると、いきなり襟足の根元から鋏を入れた。

ジョギジョギと重い音を立てて鋏は髪を切り落としていく。ボリュームがある長い髪はなかなか切ることが出来ず、鋏がギシギシ軋む。


「あっ…そんなに…」


予想外の位置に鋏が入り、眞理は驚いて声を上げる。襟足に鋏のヒヤリとした感触があることから襟足ギリギリで切られているのが嫌でもわかる。

美咲は止まることなくジョギジョギと容赦なく髪を切り続ける。


「眞理の髪ってやっぱりとても綺麗ね。私は癖が強くてうねっちゃうからいつもベリーショートなの。だから、高校の時からこの長い髪が羨ましかったんだよね」


美咲はそう言うと、より一層鋏に力を入れた。


ジョギジョギ、ジョギン

ついに、背中を覆い尽くしていた大量の長い髪が襟足の根元から切り離された。


「まずはバッサリ切りました!これは引き出物としてプレゼントします」


美咲は切り取った50センチはある長い髪束を高々とかがけた。切られてもなお美しく、艶々と輝いている。


会場からは驚きの声が上がる。「え、あんなにばっさり?」「眞理ってずっとロングヘアだったのに切っちゃうんだ」「すごい短くするのかな」


新郎は予想外のことに驚きながら眞理を見ている。

彼は眞理の長い髪が好きで絶対に短くしないようにいつも口うるさく言っていただけに、かなりショックを受けていた。


美咲は勢いに乗り、横の髪もジョギジョギと鋏を入れる。もみあげや耳周りの髪を櫛で持ち上げたかと思うと根元から切り落としていく。

左右とも耳周りの髪は全て短く切り落とされてしまった。


「あっ…そんな…もうやめて…」


「まだまだ!これからよ!もっともっと短くしてあげるからね。颯太さんとの新生活のためにはさっぱりしないとね!ほら、新婦がそんな不安そうな表情をしていたらみんな心配するでしょ?笑って!笑って!」


美咲はそう言うと、上の編み込んでいた髪をほどき始めた。花や飾りを外していくが、髪はスプレーで固められているため、なかなかほどけない。そのことに苛立ち始めた美咲は、髪を鷲掴みにして根元から数センチの長さで鋏を入れていく。

バサバサと頭の上から大量の切られた髪が落ちてケープや床に溜まる。


「美咲、嫌…やめて…そんなに切らないで…」


この場に鏡はないが、明らかにバッサリと短くされているのが分かる。

ジョギジョギ、ジョギジョギと眞理の静止を無視して美咲は狂った機械のように鋏で髪を切り続ける。

眞理は結婚式を台無しにされたくないため抵抗できず、ただされるがまま大切な髪を切られるしかなかった。しかし、新婦の髪型が無惨に切られている時点で既に台無し感は否めない。


親族や親しい友人たちみんなに注目されて、大事なロングヘアがボロボロに切られていく。


「嫌、みんな見ないで…」


眞理は恥ずかしさのあまり言い知れぬ羞恥の情に駆られた。

新郎の颯太はショックを受けて唖然としているだけで、助けてはくれない。


美咲は髪を掴み、容赦なく鋏で切り落す。

適当に掴んで切る動作を繰り返すことで、眞理の髪は無造作のベリーショートに近い髪型になってきた。


「前髪がまだ長いわね」


美咲はそう言うと、眞理の前髪をバッサリとおでこが丸見えになるように1センチほどの長さに切り落とす。


「えっと…サプライズで新婦の眞理さんの髪がどんどん短くなっていきますね…綺麗なロングヘアが…さっぱりと…」


司会も打ち合わせにない突然の事に驚いている様子だった。

会場もあまりに勢いがある断髪に時間が止まったかのように誰も動かない。ただならぬ雰囲気は感じているが、結婚式の雰囲気を壊してはならないと思うと何も出来なかった。


「だいぶ短くなったかな。眞理はずっとロングヘアだったのにもう数センチの長さしかないよ。もう肩にも耳にも髪の毛がかかることがなくて涼しそうだね。でも、もっとさっぱりと短くしてあげる。仕上げはこれを使うから」


美咲はバッグからバリカンを取り出して、残バラな襟足から髪を刈り上げ始めた。

ヴィィィィィィィィィィという音と共にバリカンは眞理の襟足から頭の真ん中まで刈り上げていく。


「いやあああ…お願い…やめて」


涙を流しながら眞理は懇願するも、美咲は容赦なくバリカンを進める。眞理は逃げ出そうとするも、美咲に押さえつけられて逃げることができない。

会場もただならぬ空気を感じてどよめきや心配の声が上がっている。


襟足を綺麗に刈ると次は耳周りの髪をすっきりと刈り上げてしまった。結婚式のためにより一層ケアをして大切に伸ばしてきた長い髪がケープや床に大量に落ちている。それを見た眞理は悲しさが込み上げてきて、底知れぬ哀感に襲われた。


「よし、こんなもんかな。終わったよ。あんな綺麗なロングヘアだったのにもはや跡形もないね。まぁ、新婚生活は髪が長いと大変だろうからさっぱりとして良かったじゃん。遠慮なく幸せになってね!」


美咲は笑顔で眞理の短くなった髪をわしゃわしゃと撫でた。

眞理も慌てて頭を手で触る。


「あっ…ない…私の自慢の長い髪が…ひどい…」


眞理の髪は襟足と耳周りをすっきりと刈り上げたベリーショートになってしまっていた。トップは2〜3センチくらいの長さしかなく、まるで部活少女のようである。

先ほどまでは腰近くまであるロングヘアの面影はどこにもなく、刈り上げた部分がチクチクと手に刺さるさっぱりとした髪型になっていた。


眞理のあまりの変わり果てた姿を見てに会場は静まり返ってしまった。

ケープを外され、眞理はよろめきながら立ち上がる。

露出している肩や背中に触れる長い髪がどこにもなく、首や耳にエアコンの風を感じるほど短い。

少年のような刈り上げベリーショーに純白のドレスがまったく似合っていなかった。

綺麗なロングヘアの純白の花嫁から、さっぱりした刈り上げベリーショートの花嫁になってしまっている。


「一生に一度の結婚式なのに…」


ビニールシートが敷かれた床には大量の黒髪が落ちている。

結婚式のために大切にケアしてきた美しいロングヘアが今ではゴミ同然の存在である。


「あ、えっと…さっぱりとした様ですね。綺麗なロングヘアがすっきりと刈り上げたベリーショートになってしまいましたね。それでは、続きまして…」


司会はあまりのサプライズカットにどう反応したら良いか分からず、あまり触れないまま披露宴を立て直そうと必死に次の予定に進んだ。


友人の美咲は落ちた髪の毛の片付けをしてから満足そうに自分の席に戻り、何事もなかったかのようにご飯を食べ始めた。


新婦席に戻った眞理を新郎は怒った顔で迎える。


「何でそんな男みたいなさっぱりした髪型にしちゃったんだよ…せっかくの結婚式なんだぞ?」


新郎はあまりのショックに眞理を責める。


「ご、ごめんなさい。こんなに短くされちゃうなんて…でも行って来いって言ったのはあなたじゃない」


「途中からでも断れば良かっただろ。襟足や耳周りなんて地肌が見えるくらい刈り上がってるじゃん。さっぱりし過ぎだろ。綺麗なロングヘアだったのに。一生に一度の結婚式に何てことしてるんだよ」


明らかに新郎の態度が悪い。好みだったロングヘアが刈り上げベリーショートになったのだから無理もない。


「しょうがないでしょ!美咲があんなことするなんて思わなかったんだもん!そんなに怒るなら何で止めに入ってくれなかったの?」


「えっ…あ、ごめん」


眞理の怒った姿を見て新郎は責めてしまったことを反省した。


「もう仕方ない。一生に一度の結婚式だ。残りの時間を楽しもう」


「そうね…」


2人はなんとか明るく振る舞い、披露宴をやり遂げた。大切な髪を失った眞理は終始苦笑いでしか笑顔を作れなかった。

カメラマンが写真を撮るたびに、一生残る写真がこのひどい髪型なことにショックを受ける。


「新しくさっぱりとした髪型になった新婦眞理さんと新郎颯太さんの門出を祝い、これにて結びとさせていただきます」


司会が披露宴を締めて披露宴は終了となった。


その後は親に色々と心配されたり、なぜあんな余興をやらせたのかなど散々説教されたのであった。



一通り終わり、正装から解放された眞理と新郎の颯太はようやくホテルに戻った。


「眞理、こっち来て」


部屋に着くなり颯太は眞理をベッドに押し倒し、刈り上げたうなじをジョリジョリ撫でた。


「ちょっと、くすぐったいでしょ?」


「刈り上げの部分がすごく色っぽい。短い髪の眞理はすごく良いよ。たまらない!」


颯太はひたすら眞理の刈り上げや露出した耳や首にキスをした。


「長い髪が好きだと思っていたけど、ベリーショートも最高。これからの新婚生活はずっと刈り上げの短い髪にして欲しい」


新郎は自分でもよく分からないほど、眞理の刈り上げに魅了されていた。性的な行為よりも短くなった髪を愛でることに興奮してしまった。


一生の一度の大イベントで新婦のロングヘアが刈り上げべリーショートになったショックにより、新郎は刈り上げフェチになってしまったことに、この時はまだ気づいていなかった。


刈り上げフェチに目覚めた新郎は毎年の結婚記念日に眞理を床屋に連れて行き、刈り上げベリーショートにさせるのであった。

これにより、ロングヘアを失った眞理がまた髪を伸ばせることは生涯なかったが、2人は刈り上げをきっかけにずっと仲良く結婚生活を送ったのであった。



終わり