刈り上げに取り憑かれた女の子が髪を切る話です。


______________________________

 

「さっぱり刈り上げ定食でお願いします」

 

「えっと…お客様、おろしポン酢のさっぱり唐揚げ定食の事でしょうか?」

 

店員は不思議そうな顔をして、メニューを指さしながら私の顔を見た。

 

「えっ!?あっ!!すいません、おろしポン酢のすっきり唐揚げ定食でお願いします」

 

あまりの恥ずかしさに顔が熱くなりながら、私は急いで訂正した。

 

はぁ…私ったら何を言っているのか…

 

大学の帰りに立ち寄った行きつけの唐揚げ専門店の定食屋で、私はぼんやりと考え事をしていた。

一週間ほど前から不思議な衝動が私の中で次第に大きくなっていた。

しかし、その衝動はありえない事であり、何故そんなことばかり考えているのか検討もつかなかった。

 

「お待たせしました。かりあげ定食をお持ちいたしました」

 

「え!?あ、はい…」

 

気のせいかな…刈り上げって言ったような…


最近は唐揚げ専門店の唐揚げ定食が美味しすぎて毎日通うくらいの勢いだ。

この店の唐揚げは絶品なのだ。

外側のサクサクの衣に、中は肉汁溢れるジューシーなお肉が最高な抜群に美味しい唐揚げなのだ。


私は夕飯に唐揚げ定食を食べながら、物思いにふけた。


少し離れた目の前の席にはスーツを着た女性が座っており、襟足の髪をすっきりと短く刈り上げたショートであった。


あの人…すごい髪が短い…いいな…

 

そんな事を考えながら、定食のご飯を口に詰め込んだ。



次の日、大学の教室で親友が話しかけてきた。

 

「凛(りん)ちゃん、おはよう!土日で彼氏と箱根旅行に行って来たから、お土産に饅頭を買って来たよ」

 

「えっ?刈り上げの饅頭?」

 

「お!み!や!げ!お土産!凛ちゃん、酔っ払ってる?」

 

あっ!…またやってしまった…刈り上げの事ばかり考えるあまり、何でも刈り上げに聞こえる。

 

「あ〜、お土産ね!お土産っていいよね〜」

 

私は急いで訂正し、笑って誤魔化した。

親友は不思議そうな顔をしていたが、私は話を箱根旅行の話題に切り替え、いつも通り振る舞った。

 

そして、昼休み、大学の学食で親友とご飯を食べながら、頭から離れないあることを相談してみた。

 

「あのさ、なんかバッサリ髪を切りたくなるというか、うんと短い刈り上げにしたくなるような事ってない?」

 

「えっ?凛ちゃん、綺麗なロングヘアなのにバッサリ切っちゃうの?勿体無いよ!やめときなよ」

 

親友の言う通り、私の髪は腰に届くほどのロングヘアであり、物心ついた時から肩より短くしたことがなかった。

手入れを怠らずに大切に伸ばしてきた長い髪は艶がある綺麗な黒髪である。

大学2年生になっても髪を染めたりパーマをかけることなく、自慢の髪を大切にしていた。

 

「いや、大事な髪だから切りたくはないんだけど、何て言うか…刈り上げられたい…欲求?」

 

「ロングヘアに飽きちゃったの?凛ちゃんは可愛いからショートも似合うと思うけど」

 

「大切に伸ばしてきた自慢のロングヘアだから切る気はないんたけどね…なぜか刈り上げてみたくなっちゃって…」

 

「ふーん。まぁ、そのうち落ち着くよ。とにかく勿体ないから切らないほうがいいと思うよ」

 

私は親友のアドバイスを信じて授業を受けたり、バイトをしたりと日常を過ごして忘れようとした。

しかし、髪の毛をバッサリ刈り上げたい欲求は日が過ぎるごとに益々強くなっていった。

 

あぁ…刈り上げたい…なんでだろう…

この長い髪を切ってしまいたい…容赦なく刈り上げられたい…思いっきり短くされてしまいたい…

 

そんな事を考えながら大学の授業が終わり、駅に向かった。

その途中に、新しいお店ができており、本日オープンとなっていた。

 

「えっ…!?刈り上げ専門店?」

 

私は目を疑った。

 

看板には唐揚げ専門店ではなく、間違いなく刈り上げ専門店と書かれていた。

 

今日から開店らしく、店の前にはサインポールの横に大きな花輪が飾られていた。

近づいてこっそりと中を覗いてみる。

床屋のような店内には大きな椅子が3つ置いてあった。

 

まるで床屋さんみたい…普通の床屋さんとは何が違うんだろう…あぁ…このお店でで刈り上げられたい…

 

窓から覗いていると、入り口の扉が開いておじさんの男性店員が出て来た。

 

「いらっしゃいませ!どうぞ!」

 

「あっ!いや…えっと…」

 

急に店員に話しかけられ、心の準備がまだ出来ていない私は驚いて、しどろもどろな反応をする。

 

「どうぞ!どうぞ!今日開店したばかりなんですよ」

 

店員の勢いに負けてしまい、私は店内に入ってしまった。

 

店内はまさに床屋という雰囲気であったが、新規オープンしただけあって、清潔感の溢れる綺麗な内装であった。

私は窓際の椅子に案内された。美容院の椅子とは違い、ずっしりとした大きな椅子に体が包まれる。

 

「うちは刈り上げ専門店なんですよ。なのでコースは刈り上げのみとなっています。今の時代は何か特徴がないと他の競合の床屋と区別化できないでしょ?自分の色を出さないとこの業界は生き残っていけないんですよ。なので、うちは僕が最も得意な刈り上げの専門店にしました。あ、メニューをどうぞ」

 

メニュー表を渡されるといくつかのコースが載っていた。


色々コースがある…不安だけど、どれも注文してみたいかも…

 

「えっと…どれがおすすめでしょうか?」

 

「お客さんは髪が長くてボリュームもたっぷりなので、ばっさり刈り上げコースでは満足出来ないと思います。なので、すっきり刈り上げコースか、さっぱり刈り上げコースがおすすめですよ」

 

「一番下のコースは…さっぱり…されちゃうんですか?」

 

「えぇ、さっぱりしますよ」

 

これを注文したらもう私のロングヘアは…

ずっと大事に伸ばした長い髪なのに…本当によいのか?

でも、刈り上げたい…刈り上げにされてしまいたくて我慢できない…

 

「じゃあ…1番下のさっぱり刈り上げコースでお願いします…」

 

「かしこまりました。思い切りましたね。こんな綺麗な髪なのに、本当にさっぱり刈り上げコースでいいんですか?」


私は意を決して首を縦に振った。

 ついに注文してしまった。

大事なロングヘアを切ってしまうのは後悔するだろうと分かっているが、体の奥底から湧き上がるような刈り上げたい欲求が勝ってしまった。

 

私の長い髪はアップにされ、ケープをかけられた。ロングヘアがばさっと白いケープを覆い尽くすように広がる。

ケープに手が出るところがないことに、私は少し戸惑う。

店員はブラシで丁寧に私の髪を梳かし、綺麗に整えた。

シルクのような美しい黒髪がケープに垂れている。

 

「長くてとても綺麗な髪ですね。勿体無いですが刈り上げは最高ですから。では、まずはバッサリと切りますね」

 

あぁ…いよいよ切られてしまう…


店員は私の右側に回り込み、耳たぶの下あたりでバッサリと鋏を入れた。

 

「えっ…」

 

ジョギジョギという重い音を立てて鋏が進み、大量の長い髪が切り離されていく。

バサッ、ドサッとケープに切られた長い髪が当たり、力なく床に落ちていく。

頬に鋏の冷たい感触がある。しかし、顎に当たる髪の感触はなくなっていく。


鋏は横から後ろに向かって進んでいき、進む度に容赦なく大量の髪が切られていった。


店員が動いた事で鏡に右側の髪がはっきり見える。腰近くまであったロングヘアが耳たぶが少し見えるリップラインで切り落とされていた。

 

あぁ…そんな…短くなってる…


私は実際にバッサリと切り落とされて短くなった髪を見てショックを受けた。

 

店員は後ろに回り込み、容赦なくロングヘアを襟足ギリギリにラインで切り落としていく。

 

ジョギ、ジョギ、ジョギン

 

鋏は止まることなく、ずばずばと後ろのボリュームたっぷりの長い髪を切断していく。

信じられないくらい大量の髪が床に落ちていき、頭が軽くなる。

 

私の自慢の長い髪が…ばっさりと切られている…嫌…でも…もっと切って欲しい…

 

私は矛盾した気持ちを抱えながら、ただされるがまま店員に髪を切られ続けた。

あっという間に後ろの髪を切り落とした店員は左側に回り込み、右と同じ様に耳たぶのすぐ下で切り落としていく。

 バサバサッと音を立てて、切られた大量の髪の毛がケープに溜まっていた。

 

「よし、こんなもんですかね。バッサリ短くなっちゃいましたね」

 

店員はひとまず鋏を置いた。


うわ…何この髪型…おかっぱにされちゃった…

 

鏡にはリップラインのおかっぱ頭の女の子が映っていた。

大人っぽかったロングヘアの時とはだいぶシルエットが異なり、小学生みたいな雰囲気になってしまっている。


「まだまだ短くしますよ。ここからが本番ですからね。さっぱりと刈り上げていきます」

 

店員は私の頭を少し倒して下を向かせる。

いよいよ、刈り上げられることに私は緊張して体が強張る。

そんなことはお構いなしに、店員は襟足の髪を櫛ですくい上げ、根元から鋏を入れた。

 

ジョギ、ジョギン、ジョギ、ジョギン

 

リズミカルに鋏を動かして襟足から上に向かって私

の髪を刈り上げていく。

何度も同じ動作を繰り返され、次第に鋏の感覚や髪を切る音が気持ち良くなってくる。

私のボリュームたっぷりの髪が根本から切り落とされて、どんどん短くなってしまっている。

店員は見事な鋏捌きで丁寧に刈り上げを進めていく。


「まだまだ短くしていきますよ〜!さっぱりさせちゃいますからね」


んっ、あっ、すごく短くされている…鋏の感触や音が気持ちいい…

 

丁寧でリズミカルな鋏捌きに、いつの間にか緊張していた体が緩み、癒されていく。

 

「刈り上げって気持ちいいでしょ?」

 

店員の言葉に私は心を読まれたような気分になり、恥ずかしさを感じる。

 

「は、はい…とても…」

 

ジョギッ、ジョギン、ジョギッ、ジョギン

 

何だか極上のマッサージやエステを受けているように気持ちが良い。

鋏が容赦なく髪を切り落とす度に、私の中の熱いものが身体の中から流れ出していくような、ふわふわした感覚に襲われる。

 

襟足から入った鋏は頭の真ん中を超えてさらに上まで上がって来る。


あぁ…そんな…上まで刈り上げられちゃうの…


私は刈り上げの気持ち良さと、容赦なく短くされていることに体が火照って興奮していた。


店員は時間をかけて丁寧に丁寧に鋏と櫛を上手に使い、私の髪を刈り上げた。


シャキシャキと鋏の音が軽い音に変わってくると、店員は後ろから右側に移動して耳の上の髪を櫛で持ち上げた。


えっ…


そして、容赦なく根本からバッサリと鋏を入れてしまった。

10センチくらいの大量の髪束がバサッとケープに落ちる。

そのまま、上に向かって鋏を進め、横の髪を刈り上げていく。

長い髪に隠れていた耳がすっきり出るほど髪が短く刈り上げられているが、私は気持ち良さで満たされていた。

 

あぁ…すごくいい…刈り上げってすごい…

 

天国に行きそうな極上の気持よさを味わっているうちに、右側の髪は頭頂部辺りまで綺麗に刈り上げられてしまった。


そして、店員は左側に回り込むと、右側と同様に丁寧に鋏を動かし、左側もすっきりと刈り上げてしまった。

 

「はい、ひとまず終了です。かなりさっぱりしましたね」

 

店員の声で天国から目が覚める。

鏡には左右と後ろを1センチもないくらいに、さっぱりと短く刈り上げられてしまった私が映っていた。前髪とトップだけはまだ段のない艶々の髪であるが、他は見事に短く刈り込まれている。

 

「み、短い…」

 

「長い髪に隠れていた耳や首が丸見えになってしまいましたね。でも、まだまだこれからですよ。もっともっと短くしていきますから」

 

店員は笑顔でそう言うと、前髪ごとトップの髪を櫛で持ち上げた。


「えっ…?」

 

店員は指でつまんだ長さに髪を切ってしまった。明らかに整える髪の量ではなく、ばっさり切られている。

ジョギジョギと鋏は止まることなく、前髪からトップまで髪を持ち上げて切る、持ち上げて切るという動作を繰り返す。

その度にドサドサと大量の長い髪が目の前に降ってくる。

 

頭頂部まで短くすると、再び前髪の方に戻り、少し位置を変えて髪を持ち上げ、指で挟んだ部分を切っていく。

その動作を繰り返していくうちに、前髪もトップもかなり短くされてしまっていく。


あぁ…そんなに切ったら…いや…髪がツンツンしている…


トップの髪は1〜2センチくらいの長さしかなく、ツンツンと立ち上がってしまっている。

何度も鋏が通り、最初に刈り上げた横の部分とトップの髪が違和感なく繋がっていく。

ベリーショートを通り越してさらに短い髪型のシルエットになっていた。


「うんと短くしちゃってますからね〜!ロングヘアだったとは思えないほど短くなってますよ〜」


耳もおでこもすっきり出ているほど、もう十分短い髪型であったが、まだまだ鋏は止まってくれない。


そんな…短くしないで…あぁ…男の子になっちゃうよ…でも…気持ちいい…

 

確かに自分で望んだことではあったが、実際に短くされてしまうとショックであった。

しかし、私はそれを望んでいるのが分かる。

現に私は逃げずに座り続け、されるがままにひたすら髪を短くされていた。


ケープには切られた大量の髪が付着し、真っ黒に染めている。すべて私の髪の毛だ。

あんなに長かった髪の毛は今では刈り込まれた芝生のようである。


店員は最後の仕上げで、後ろや横に回り込みさらに襟足や耳周りから再度鋏を入れて刈り上げを整え、ようやく鋏を置いた。

 

「はい、終わりましたよ。さっぱりと刈り上げコースなので、うんと短くしておきましたよ。お客さんは美人だから、こういう髪型も似合ってますよ」

 

おじさんの店員は刈り上げた部分をジョリジョリと満足そうに撫でながら、そう言った。


鏡には耳がさっぱり出るくらい短く刈り上げれたスポーツ刈りになった私が映っていた。

 

「こ、これが私…?」

 

さっきまでは腰までの綺麗なロングヘアだったはずが、跡形もなくすっきりとした髪型になってしまっていた。

小さい耳は露出しており、横の髪は頭の上まで短く数ミリに刈り上げられ、後ろも同様に見事な刈り上げになっていた。

前髪やトップの髪は1〜2センチに短く切られており、ツンツンと立ち上がっている。


床には切られた大量の長い髪が落ちており、1人分とは思えない程の量である。先ほどまでは私の頭から生えていたはずの長い髪は店員の足に踏まれ、ゴミとなってしまっていた。

 

私はとんでもない事をしてしまった気がする…明日からどうしよう…

興奮が冷めてきて冷静になった私は現実生活の事を考えて、少し後悔をした。

 

「うちの刈り上げは抜群ですから。しばらくは切らなくても大丈夫だと思います。それではシャンプーをしていきます」

 

前にある洗面台に屈むように指示され、私は頭を下す。

先程までのロングヘアだったら、洗面台を長い髪で覆い尽くしただろう。

しかし、今では洗面台に触れる髪すらない。

シャンプーのために頭をごしごしと洗う動作により、ジョリジョリした感触が振動で伝わってきた。

おじさん店員のゴツい手でわしゃわしゃと頭を洗われ、私は何だか恥ずかしくなった。

 

ドライヤーもあっという間に終わってしまう程、見事にさっぱりとした短い髪形であった。

頭がとても軽く、以前のロングヘアに引っ張られていた感覚がなくなっている。

 

ケープを外され、後頭部を手で触ってみると纏わりつく長い髪はどこにもなく、ジョリジョリとした感触が広がっていた。


うわ…私の頭がジョリジョリしている…


襟足や耳にかかっていた長い髪はどこにもない。

トップも分け目が分からない程に短く整えられていた。

まるでタワシのようだ。

私は自慢のロングヘアは見事にさっぱりとしたスポーツ刈りにされてしまったのだ。

ずっとロングヘアだった私からすると、この髪型はかなり衝撃的であった。


「また伸びたら、ぜひ来てくださいね」


「あ、ありがとうございました…」


私はおじさん店員に見送られて店を後にした。


かなりさっぱりしたけど、やってしまった…しばらくウィッグでも被ろうかな…

でも…とても気持ちよかったな…このジョリジョリした頭の手触りも…最高…


時刻は18時、冷たい風がすっきり出てる耳や首に当たる。以前の様に風になびく髪はどこにもない。


お腹が空いていることに気がつき、

いつも行きつけの唐揚げ専門店でご飯を食べて帰ろうと考える。


「はっ!そういうことか!」


私は衝撃的なことに気がついた。


「唐揚げと刈り上げ…似ている!すごく似ている!」


私は唐揚げ専門店に通いすぎて、脳に徐々に『唐揚げ』→『からあげ』→『かりあげ』→『刈り上げ』と変換されて刈り上げに魅了されてしまったのだ。


「な〜んだ!そういうことか!」


私は最近の異常な刈り上げ欲の正体を知ることが出来てすっきりした気分になった。


「刈り上げ頭になったから次は唐揚げが食べたくなったのかな〜」


私はいつもの唐揚げ専門店に入り、席に案内される。


メニューと睨めっこし、店員に向かって注文を叫ぶ。


「すいません、おろしポン酢のさっぱり刈り上げ定食でお願いします」



皆さんも刈り上げに取り憑かれないように気をつけてください。



終わり