例えば、ある日のお店でのやり取り。
旬の食材を届けにきた生産者と料理人の会話。
「次の時期ならこういう野菜出てくるけどどうですか??」
「いいですね。サラダにしたいですね」
「今はこういう状態だけど、あと一週間したらちょうど良いかも」
野菜にまつわる細かい話し合い。
このお店では、生産者の方から野菜の提案されることが多いという。
そこまでの関係を築いていることがお店の一番の強みではないかと思った。
川越で大事に育てられた野菜が、大事に料理に使われテーブルに並べられていく。
言葉ではすっと流れてしまうこの表現も、お店の裏側では食材の生産者と料理人の密なリアルなやり取りが確かにそこにある。
素材にこだわるお店の料理人ほど、生産者との関係を密にして、普段から畑の状況、野菜の状態といった情報のやり取りを大事にしている。
野菜の状態を一番良く分かっているのは、もちろん作っている生産者本人。
その生産者とどこまでの関係を築いているか、
言い方を変えれば、
生産者とどこまでの関係を築こうとする気持ちがあるのか、そこにお店の姿勢、真価が表れるのではないか。
料理人の口から語られる、生産者との畑や野菜にまつわる日々のやり取りの話し。
その話しをじっくり聞いていて、このお店は信頼できる、このお店は間違いない、と確信した。
こういうお店こそ知ってもらいたいし、こういう生産者と密にやり取りするようなお店がもっと増えて欲しい。
カボチャ一つとってみたって、丸くて緑色でよく見るカボチャを連想しがちですが、実はさまざまな品種があって、また時期によって採れる品種は変わり、カボチャという表現はあくまで総称に過ぎないということを知る。その時期にピンポイントで旬の野菜を提供しようと思ったら、やはり農家さんに聞くのが一番なのだ。
料理人である原さんと、生産者である忍田さんや長島さん、萩原さん。
川越の畑を思い浮かべながら、生産者と料理人、三者のやり取りを追いかけた。
川越駅東口からアトレとmodiに挟まれた三番町通りを東に向かい、三番町交差点を越えてさらに進むとセブンイレブンが右手にある。
そこを道なりにさらに進むんでしばらくすると、左手に建物が見えてくる。
2014年6月にオープンしたイタリアンレストランの「CUCINA とちの木」さんです。
お店の中は落ち着いた雰囲気で、場所柄近隣の住民の方が多く訪れることが多い。
状況に応じ、カウンターで楽しむ、お昼のランチ会、夜のパーティー、いろんな使い方ができます。
メニューは、ランチセットなら
Aミニサラダセット、B選べる前菜セット、Cドルチェ・ドリンクセット、D前菜の盛り合わせセットとあり、
どのセットにも焼き立てパンがつきお代わりもできる。
このパンがもちもちとしてとても美味しく特筆したいパン。
ピッツァは、
マルゲリータ
(モッツアレラチーズ、バジリコ)
メランツォーネ
(なす、ケーパー、オリーブ)
ボスカイオーラ
(色々きのこ、パンチェッタ、モッツァレラチーズ)
ミスタ
(イタリアンサラミ、ピーマン、オニオン)
トンノ
(ツナ、ほうれん草、オニオン、マヨネーズ)
ディアボラ
(チェリソー、ピーマン、オニオン、カエンペッパー)
ボルボ
(蛸、じゃが芋、ケーパー、パプリカパウダー)
ビスマルク
(色々きのこ、生ハム、オニオン、温泉卵)
ガンベロ
(海老、ルッコラ、じゃが芋、生クリーム)
ペスカトーレ
(その日入荷の魚介色々) などなど。
パスタは、
静岡県産釜揚げしらすとアンチョビ、キャベツのペペロンチーノ
川越産野菜を使ったガチ盛りアンチョビベースとのオルトラーナ
ツナとほうれん草、フレッシュトマトのオイルビアンゴ
産地直送!本日のイカとルッコラ、フレッシュトマトのオイルパスタ
北海道産大粒あさりを使ったボンゴレビアンコ
産地直送!本日のタコと長葱、小葱のペペロンチーノ
兵庫県産日本一こだわりの卵で作ったカルボナーラ
香草ローストチキンと色々きのこのクリームソース
スモークサーモンとほうれん草のタリアテッレ
たっぷりチーズの定番本気アマトリチャーナ
揚げナスとパンチェッタのトマトソース マスカルポーネ添え
ダントツ1番人気!バジリコとモッツアレラチーズのトマトソース
にんにくを効かせたトッリパ(牛の第2胃袋)のアラビアータなどなど。
そして、とちの木の野菜を堪能したいなら、ミニサラダセットがお勧め。
それは、ミニという域を超えたボリュームのある、色とりどりの野菜が詰まったボウルが提供されます。
パスタはトマトソース、クリームソース、オイルベース、和風で各種類豊富に揃え、
ピッツァもトマトソース、チーズベース、デザート系で各種取り揃えている。
単品アラカルトも数多く用意しています。
メニューや壁に掲げられたボードにも野菜の生産者として書かれているのが、
忍田さんと長島さんという川越の二人の農家さん。とちの木を語る上で欠かせない存在です。
例えばある日の本日のおすすめボードには、忍田さんのキャベツを使った、
温キャベツ・釜あげシラス添え、
茎ブロッコリーのガーリックソテーカラスミがけ、
じゃが芋とピリ辛チョリソーのチーズ焼き、といったメニューが書き込まれていた。
また、現在ランチで提供しているボウルいっぱいに盛られたサラダは、
今の時期だと根菜が豊富で、人参、大根、カブ、また、サニーレタスなども含め
ボウル内の野菜100パーセントを忍田さんと長島さんが作った野菜で構成されている。
とちの木の原さんが、そのくらい信頼をおいている生産者です。
その信頼は料理の一品からも見てとれる。
ペペロンチーノというと、具材が少ないイメージがありましたが、とちの木のペペロンチーノは、忍田さんと長島さんの野菜がふんだんに使われ、具材たっぷりの一品となっています。
「このペペロンチーノは、二人の野菜しか入ってないんです」
忍田さんは川越南文化会館近くで主に西洋野菜などを作っている農家で、川越で一般に手に入れようとしたら、ウニクス南古谷にあるヤオコーなどで買うことができます。
料理人と生産者、原さんと忍田さんが繋がったきっかけが、そのヤオコーの地場野菜コーナーでもあった。
そのコーナーでは、他では手に入らないような紫のカリフラワー、黄色いカリフラワー、黄色いブロッコリー、白いブロッコリー、カリフローレ、紫の水菜、紫の紅芯大根、紫大根、緑の大根、黒大根、紫のほうれん草、スイスチャード、カラフルトマト(黒、白、紫、黄色、赤など)が並び、綺麗なディスプレイにも心踊り、書かれた名前から忍田さんという方が作っていることを知る。
季節によって変わる野菜を買い求め、忍田さんの野菜を頻繁に使うようになっていったという。
昔から料理するのが好きだった原さんは、ずっと飲食店に携わり、今から5年ほど前のこと、当時東松山のイタリアンに勤めていて、そのお店も地域の素材を使うことにこだわり、東松山地域にも、川越の忍田さんのように珍しい野菜を作る人がいたんだ、と楽しそうに振り返る。
また、そのお店で忍田さんの野菜を使った料理も提供していたそう。
以来、自分でお店を開くなら、と譲れないものとして心に刻んでいたのが、
「ヤオコーに卸しているあの人に野菜お願いできないかな」ということだった。
その時はまだ、名前だけを知るのみだったのが、
あるきっかけから忍田さんと対面を果たすことになる。
そのきっかけの一つが、
今もお店で扱っている長島さんとの偶然の顔合わせだった。
数年前のあの日、いつものように地場野菜コーナーで忍田さんの野菜を買い求めに行った時のこと。
時の季節の野菜はナス、棚に並んでいた忍田さんの珍しいナスを
それこそ全部というくらいカゴに入れていた原さんの様子を、
ちょうどイチジクを卸しに来ていた長島さんが見かけて声をかけたのだという。
「そんなにいっぱいナス買って、何に使うの?どうやって使うか分かるの?」
あ、これはお店で使うんですよ、と原さんは返答し、気さくな長島さんは「うちのオクラやモロヘイヤも使ってよ」と会話が弾んだ。
そこから「珍しい野菜ばかり買ってるけど、忍田さんの野菜が好きなの?」と問われ、
そうなんですよ、と忍田さんに話しを繋いでくれたのだという。
「忍田さんの野菜を全部買っていった人がいるよ。直接取引したいんだって」
長島さんの口添えもあって、忍田さんから連絡を貰い、対面を果たした原さんは、
直で取引できるようになっていった。
(今お店に届く忍田さんの野菜の様子を見せてくれた)
もちろん今でもウニクスのヤオコーに行けば忍田さんの野菜は手に入りますが、
とちの木にしか卸していないものもあり、もっと言うと、とちの木のためにオーダーメイドで作っている野菜も多数ある。
二人の話し合いは、とちの木で野菜のカタログを広げ、
「こういう野菜もあるけどどうかな?」
「この野菜珍しいですね」
「試しに作ってみるから試食してもらえますか??」といったように進む。
カボチャのページには、今まで見たこともないようなカボチャの品種がずらり。
中には見た目がスイカのようなカボチャもあり、見ているだけでも面白い。
ナスのページを見ても、ゼブラ柄のナスとか珍しいものが並んでいます。
野菜の中でナスが好きと語る原さんが特に好きだというのが、白ナスだという。
「皮が硬いんですが、焼きナスにすると中がトロトロになって凄く美味しいんです。
煮込んだりしてもあまり変色せず、皮の食感が残る」
一般的なナスももちろんいいが、そこにプラス個性を出したい時に
トマトソースに白ナスを使うことで皮の食感が残り、上にバジルを散らせばイタリアンカラーにもなる。
また、個人的に「和のハーブが好き」と話す原さんは、
カルパッチョにみょうがを添えたり、パスタに大葉を使用したり、と
西洋野菜だけでない和の魅力も積極的に取り入れている。
生産者と直にやり取りしている強みは、
まさにオーダーメイドのようにして自店に合わせた野菜を作ってもらえることもあり、
「オーダーメイドのように」という関係まで築いているお店はそうそうない。
一般的には西洋野菜を使用するお店(イタリアンでも)はそれほど多くなく、
「今度これを作ろうと思うんですがどう思います?」
生産者の忍田さんからの提案が多いというのは、逆の言い方をすれば、それだけ使ってくれるお店があるということで、野菜を作るやりがいにも繋がっているのだ。
今までは、新しいもの珍しいものにチャレンジして作っても反応が得られないこともあったが、
とちの木の原さんと繋がり、積極的に使ってくれるお店の存在が改めて作るモチベーションになっている。
お店を通してお客さんの反応を知れるのもやりがいになっていると話します。
ふと。
原さんが声を上げた。
「あ!長島さん、ちょうどいいところに来ました!」
そう、話しをしている最中に、
とちの木にさまざまな野菜を卸している一人長島さんがちょうど今、
収穫した野菜をお店に届けに来たところに遭遇した。
そこからは急遽、長島さんを交えての川越野菜談義に花が咲いた。
原さんの話しを聞いていたまさに直後だったので、
地場野菜コーナーで初めて長島さんと遭遇したあの様子を体感したような感じになりました。
山田の農家さんである長島さんが特に力を入れて作っているのが、イチジク。
収穫は8月のお盆過ぎから、11月の10日前後まで。
このイチジクも時期によって味が変わり、
これまたイチジクという名称は単なる総称に過ぎないことを教えてくれた。
イチジクは、夏は水分が多く瑞々しい爽やかな状態から、
寒さを増していく中で濃厚な味へと変化していく。
人が均一な味にしようとしないイチジクは、季節に合わせて甘さ、果肉の食感を変え、
別のフルーツといえるほどにゆっくりと姿を変えていく。
その変化する生物感こそ、
本来全ての野菜やフルーツに当てはまるものなのだと再確認させてもらいました。
イチジクは、旬の時期にお店でレアチーズやコンポート、
生ハムとイチジク、イチジクとゴルゴンゾーラのピッツァなどに使用していたそうです。
長島さんがメインで作っているのがお米で、とちの木で使用しているのは長島さんのお米です。
実は川越の地酒「鏡山」の酒米である『さけ武蔵』を作っているのが長島さんでもある。
川越市内の7人ほどの米農家が鏡山の酒米を作っているそうですが、
その一人が長島さんだという事実をこの時知りました。
野菜の話しはどこまでも楽しい。
長島さんの話し、また、長島さんと原さんのやり取り、ずっと聞いていたくなります。
地域の土地で、地域の生産者が作る野菜を使用する、それはお店のこだわりでもあるけれど、いや、それが普通なんではないですか、と原さんは話す。
「昔は、家でもお店でも地域の畑で採れた素材を使うことが当たり前だった。
今、川越産の素材を使おうとするお店が増えたり、買い求める方が増えているのは、こだわりではあるけれど、それが普通のことなんですよね。原点に『戻った』とも言えますね」
料理を作っている人や買い求める人にとって、野菜を作っている人の顔や人柄を知っていることの安心感。
どこか遠くの地で加工されているのでなく、近くの畑であの人が丁寧に作っているということの安心感。
今、原点であり理想的な姿に戻ってきている。
目の前で原さんと長島さんが野菜の話しを続ける。
「コールラビが今美味しいよ」
「ホントですか!楽しみだな」
「芽キャベツももうすぐできるよ」
生産者と直接こういう話しができることが楽しいと話す原さん。
自分のお店にやって来る野菜の生育が生産者の口から直接伝えられる、
やって来るのがいつも待ち遠しくて仕方ない、と。
まるでわが子の成長を見守るようだという。
さらに、自店に合わせて、
締まってるのがいい、開いているのがいい、大きさは、など
細かいオーダーにも応えてくれる二人の生産者にも心の底から感謝している。
「コンポートだから煮込むので硬めがいい」
「それなら今収穫したものがちょうどいいかも」
「生ハムに合わせるものは熟したものがいいですね」
「それじゃあ、もう少し収穫待ってみよう」
そこには、料理人だけがお客さんのことを考えているのではなく、
生産者も一緒になって、お客さんに提供する素材を考えている二人三脚がある。
こういう繋がりを作れていることは本当に凄いことなのだ。
そして長島さんも、自分の野菜を使ってもらって「ありがたいことです」と話し、原さんは二人のことを「凄く協力的だし、あったかい人たちなんですよ」と笑顔で話している。
両者のやり取りの成果がお店で出される野菜一つ一つであり、
このお店で食べることは、
川越の大地で育まれた野菜が一番良い状態まで育てられ、
一番良いタイミングで収穫され、
一番良い状態で使われ、
料理として提供される。
畑から続くリレーの最後のバトンを受け取るということなのだ。
原さんは、なにより嬉しいことが、
お客さんから『この野菜どこで買えるんですか?』と聞かれることだという。
野菜を口にして美味しさに感動し、川越産と書いてあるので自分で買ってみたいと思い訊ねる。
そういう反応が最高に嬉しいんです、と。
お客さんからそうして訊かれたことは忍田さんや長島さんにも伝えるようにして、
二人もお客さんの反応に喜んでいる。
それはお客さんから生産者への逆のリレーであり、
生産者から料理人への農産物のリレーは、お客さんの声が生産者に戻って環になっているのだ。
原さんに話しを伺って、改めて川越の農の豊かさを思った。
これだけ田んぼと畑が多い街なので、こだわり農家さんも多数いることを改めて知りました。
繋がりがまた一つでき、
忍田さんや長島さんの畑には今度ぜひ見に行ってみるつもりです。
また、できれば今年開催予定のファーマーズマーケットの出店にも繋げたい。
生産者と料理人、強い繋がりがここにある。
「CUCINAとちの木」
川越市仙波町3-10-16
平日11:00~15:00 17:00~21:00(L.O.20:00)
土日祝11:00~21:00 L.O.20:00)
定休日不定休
049-227-3967
川越駅東口/ひつじ幼稚園近く
駐車場13台
「サニーレタス、もう少し待つ??先週より少し大きくなったよ」
「それじゃあ、そろそろですかね。楽しみにしています」
旬の中にある一番の旬を見極め、
今日も明日も、鮮度のいい新鮮な野菜がお店で提供される。
その安心感に任せてみる。