今回は、ユ・ジヒョクとユ・ヒヨンの兄妹のからみを書いた2次小説になります。
この兄妹が大好きなので書きました。
私の勝手な妄想で書いたので、なんか違う、変。と思っても、どうかご容赦下さい。

 

*        *        *

 

 

それは、初夏のとある日曜日、ジヒョクの部屋のインターフォンが鳴り、モニターを覗くと、妹のヒヨンの姿があった。
そういえば、さっきヒヨンから電話があって、来るようなことを言ってたかも知れない。
気だるそうに玄関の扉を開け、ぶっきらぼうに「何の用だ?」と尋ねるジヒョクにヒヨンは顔をしかめ、大きな袋を差し出した。
「さっきおじい様の家に行って来た。これ食べろって。それから、おじい様がもっと顔を見せろって言ってた。兄さんがちゃんと食べてるのか心配してた…」と玄関先で早口で言うヒヨンの言葉を、抑揚のない声でジヒョクが遮る。

 

「ああ、ありがとう。じゃあ、気を付けて帰れ」と答え、袋だけ受け取り、ドアを閉めようとする兄の手を止めさせ、ヒヨンは無理やり中に入ろうとする。
「ちょっと待って、話があるんだってば。ちょっとでいいから中に入れてよ~。どうせ暇なんでしょう?」と言いながら、ジヒョクのでかい身体を押しのけ、ヒヨンはずんずんと部屋の中へ入り、リビングのソファに座り込んだ。
 

ジヒョクはそんなヒヨンの姿に小さく溜息をつき、袋に入っている総菜を冷蔵庫に収めていく。
ソファでくつろぎ、テレビを観はじめたヒヨンに、ジヒョクは無言でコーヒーを出しながら「話ってなんだ?」と尋ねながら、ソファに座った。
無表情のジヒョクに対して、ヒヨンはテレビを観てニヤニヤしている。
「私の恩人、カン代理のことなんだけどね…」

 

ヒヨンの口からカン・ジウォンの名前が出て、ジヒョクの背筋に少し緊張が走る。
最近二人きりになると、妹の口から出てくるのはカン・ジウォンの話が多い。
トイレで緊急事態になり、救ってもらったと。

 

 

トイレで紙切れに気付かなかったのだろうと思ったが、もっと深刻な事態だったらしい。どんな事態だったのか理解するのに時間がかかり、ヒヨンに、なんて鈍い兄と、言われた。
その恩返しとて、ヒヨンが自分のチケットを使い、彼女を美容院で綺麗に変身させたと、自慢げに話した。
何を着てもよく似合って、容姿も性格も良い完璧な人だから、この先輩について行こうと決めたとも言っていた。

 

 

それを聞いた時、彼女の外見が変わったのは、妹のアドバイスがあったからだと分かり、ちょっと複雑な気分になった。
別に前の姿でも構わなかった。着飾らなくても、自分にとっては十分綺麗な人だし、生きて再び会えて、彼女と関わることが出来たのだから、それだけで良かった。

と言いたいが、いずれ自分が彼女を幸せに出来ればと思っている。

 

 

けれど、ジウォンの為を思うなら、今の姿の方が自信に満ちて、前より生き生きして見えるので良かったのだと思った。
お陰で、他の男の注目も集め、パク・ミンファンの執着を強めてしまったが…。
同級生のペク・ウンホは手作りケーキをジウォンに贈ったらしい。
妹があんなに美味しいチーズケーキは始めて食べたと、騒いでいた。

 

 

加えて、ウンホは彼女を好きに違いないと言っていた。
その時は心が激しくざわついたが、顔に出さないようにした。
誤解が解けるどころか、自らライバルを作ってしまったらしい。
なんにせよ、彼女が妹と仲良くなったのは喜ぶべきことだ。
ヒヨンは能天気に見えて、向こう見ずだが、人を見る目があり、洞察力もある。

 

「ちょっと、兄さん聞いてる?カン代理にね」
「ああ、聞いてる、カン代理がどうした?」
少し、ぼぅっとしてしまったらしい。
「カン代理にね、言っちゃった。私と兄さんが兄妹だって。二人でお酒を飲んでたらさぁ、酔っぱらって言っちゃったんだよね。誰にも言うなって言われてたのに…でも、安心して、カン代理は誰にも言わないって約束してくれたから。それと兄さんがU&Kの後継者だってことは言ってないから、これも安心して」

 

なんのことかと思ったら、そんなことかと思い、ジヒョクは立ち上がり、グラスにウィスキーを注いだ。
二人が兄妹だと知られると、周りにヒヨンが縁故採用だと思われるからだ。
それではヒヨンの肩身が狭くなると、祖父は考えたらしい。
実際、縁故採用そのものだが。

 

もうすぐ日が暮れる、飲んでもいいだろう。
「話ってそれだけか?そのことならカン代理は知ってる」
ジヒョクの意外な返答にヒヨンは驚く。
「知ってるって何を?私たちが兄妹だってこと?それとも兄さんが後継者だってこと?」
「兄妹だってことは知ってる」
「えっ、何で知ってるの?もしかして兄さんが話した?」

 

その質問には答えにくい。答えにくいので、酒で喉を潤し「話がそれだけなら、もう帰れ」と、妹に言ってみるが、もう手遅れだった。

本当のことを言ってしまおうかと、一瞬考えたが、自分がジウォンを心配するあまり、後を追いかけ、偶然ミンファンに暴力を振るわれている現場に出くわし、ミンファンを追い払った後、ヒヨンと付き合っていると勘違いされたジウォンに、自分に心配される筋合いは無く、浮気を疑われ怒らせてしまい、
仕方なくヒヨンに電話して誤解を解いたと…。

 

 

ヒヨンの目はキラキラと輝き、答えを催促してくる。
しつこいけど憎めない可愛い妹だ。

しかし、これを話したら、自分のジウォンへの気持ちをヒヨンに悟られ、好奇心旺盛な妹は色々と突っ込んで聞いてくるだろう。
その事態はなんとしても避けたい。

 

ジヒョクは“ジウォンさんのせいにしてごめんなさい”と心の中で詫び、偶然、街中で自分たちが一緒にいるのを見かけ、業務の話をしてる時にジウォンになにげなくヒヨンと付き合っているのかと聞かれ、実は兄妹だと言った。と、ヒヨンに答えた。
苦し紛れだが、こんな陳腐な答えしか思いつかなかった。

 

「ふーん、そうなんだぁ。業務の話の最中にね~…」と、やはり納得の行かない表情のヒヨンに「ミールキットの件について話してる時にな」と言葉を重ねた。
すると、ジヒョクの思惑通り、ミールキットの企画の件で怒れる妹は、話の矛先を自らそらし、ジウォンから企画を奪ったキム課長を罵り、ジウォンが可哀そうだとか、企画が奪われたのに、健気に仕事を進めてるジウォンは人が好過ぎるだとか、言ってきて、部長としてどうにかできないのか?などと聞いてきた。

 

どうにかしようにも、企画は順調に進行している状況だ。
けれど、ジウォンがなぜ社員たちから煙たがれているワン常務を全面に出すマーケティング戦略を提案したのかが、謎だった。
ジウォンに戦い方を教えたのは自分だから、何か思惑があるとは思うのだが…
「もうどうしようも出来ない。カン代理にも何か考えがあるんじゃないか?」
「考え?どんな考え?」
「さぁ、知らない。本人に聞いてみれば」
「とっくに聞いたわよ。聞いたけど、笑ってごまかされた」
「じゃあ、様子を見れば」

 

そっけないジヒョクの答えに、不満気なヒヨンは、それでも部長かと言い、お腹が空いたからなんか食べようと言ってきた。
ジヒョクは溜息をつき、夕飯を食べさせなくては、この妹は帰ってくれないと考え、ヒヨンが持ってきた総菜と炊いていたご飯をテーブルに並べ、彼女にねだられて、後輩の店のチキンを頼んだ。

 

*        *        *

 

夕食をともにしながら、ヒヨンはここ最近の兄の変化が気になっていた。
長年着用していた古臭い3ボタンスーツからオーダーメイドのスリーピーススーツにファッションを変え、ヘアスタイルまで変え出勤した初日、兄はカン代理の前で立ち止まり確かに微笑んでいた。
 

周りはなんとも思わなかっただろうが、兄のあんな顔を見たのはかなり久しぶり?というか、子供の頃以来かもと思った。
兄の変化に女性社員たちが騒いでいた。そりゃ、自分が生地の見立てからデザインまで指示してあげたのだから、見た目が良くなって当然だ。
もともと長身で素材は悪くないし。

 

 

ヒヨンは、兄があまり食べないチキンを口にしながら、まさか、婚約者のオ・ユラに言われたから?と考えて、それだけはあり得ないと、首をぶんぶんと振った。
そんなヒヨンの様子を見てジヒョクは怪訝そうに眉尻をあげる。

 

会社での見た目は変わっても、相変わらず私服はダサい…ということは、誰か社内で好きな人でもできたのだろうか?思い切って聞いてみることにした。
「兄さん、もしかして会社で気になる人でもできた?」

 

ヒヨンの突然の問いに、ジヒョクは喉を詰まらせ、せき込んでしまったが、すぐいつもの不愛想な表情に戻り「そんな人いない」とあっさり答えた。
予想通りの返答だが、兄のうろたえを感じたヒヨンは、機嫌を損ねることを承知で方向を変えて聞いてみた。
「カン代理のことどう思う?パク代理にはもったいないと思うんだけど」
その問いにジヒョクは箸を止め、「カン代理?なんでそんなことを聞く?」
「なんでって…妹の恩人だから、兄さんもカン代理のこともっと認めて欲しいなぁと思ってさ」
「いい人だし、仕事もできるから、人事査定はきちんとする。それでいいか?それとパク代理とのことは口を挟むことじゃない」
つっけんどんに答えるジヒョクの表情は変わらないようだが、少し怒ってる?いや、怒りとは違う何かが兄の顔に浮かんだのをヒヨンは見逃さなかった。

 

そういえば、チキンを配達しに来た人が、「先輩、とうとう二人でチキンを食べる仲に?」と弾んだ声で言い、兄は「妹が来てるんだ」と返す声が、玄関口から聞こえた。
女性の靴が玄関にあり、その人は誰かが来ていると思ったらしい。
あのチキン店の人は何かを知っているらしいが、そこまで兄に聞くことはさすがに出来なかった。

 

*        *        *

 

食事を終え、家まで送ってくれとヒヨンはジヒョクに頼んだが、酒の入ったグラスを持ち上げ、無言で断られた。
酒を飲んでたら仕方無いけど、なんて冷たい兄…だと思ったら、バス停まで送ってくれた。徒歩だけど…。
バスに揺られながら、ヒヨンは密かに想像した。
兄さんの好きな人がカン代理で、そのうちカン代理も兄さんのことを好きになって、パク代理と別れ、兄さんはオ・ユラと婚約破棄し、二人は恋人同士になり…やがて結婚!カン代理が私のお義姉さんに?ロボットみたいな兄は人間らしくなり、カン代理が家族になるなんて…キャーなんて素敵!

 

ヒヨンの想像は後半から声に出ていたらしく、バスの乗客たちがうるさいとばかりに一斉にヒヨン見た。
それに気づいたヒヨンは、慌ててすみませんと言いながら、頭を下げるのだった。
そして、自分の想像した通りになるには、障害が多すぎることに気付き、深く溜息をついた。

 

*        *        *

 

ヒヨンを見送った後、部屋に着いたジヒョクは部屋を片付けながら、かすかに心音が鼓動しているのを感じた。
妹はやはり鋭い。
自分がジウォンを気にかけていることに気付いているようだったし、チョン・スミンとジウォンの仲もいびつな関係だと言っていた。

加えてスミンが嫌いだとも言っていた。
ヒヨンにはジウォンとこれからも仲良くしてもらい、なるべく彼女からスミンを遠ざけて欲しい。
幸い、祖父はヒヨンに兄のスパイをさせる人ではないし、これから自分がジウォンのことを好きだと知られても、祖父に告げ口する妹ではない。

 

ジウォンに告白してから何日経つだろう。
10年前に戻るというあり得ない環境で過ごす日々を潤すのはカン・ジウォンの存在だ。自分がこの世界で望むものもカン・ジウォンだけだ。
待つのは苦痛じゃない。だからいつまでも彼女の答えを待つつもりだ。

もし、断られても、何としてもミンファンとの結婚だけは阻止してみせると決めている。
 

*        *        *

 

様子を見守っていたジヒョクは数日後、ワン常務の暴行動画が拡散し、ミールキットの企画がとん挫する事態に遭うが、ワン常務は解雇され、キム課長にも処分が下り、一気にジウォンに追い風が吹く結果となった。
会社に損害は与えたが、ワン常務の自業自得だ。
カン・ジウォンは試合に勝ったのだ。それが何より嬉しかった。

 

本当に嬉しかったのだ…彼女が自分と同じ10年前の過去に戻って来た人間だと知るまでは…。

 

 

Fin

ここまで読んで下さった方々ありがとうございます。
お目汚しだったら、失礼しました。



それではまた次回~アンニョン~💗