津村記久子著。U-NEXT刊。
文芸書コーナーでは逆に目立つ、簡易な装丁の中編小説。
芥川賞作家である津村だが、純文学というより親しみやすい登場人物によるエンタメ、と感じる作品が多い。
この「うどん陣営の受難」も、社内の代表者を選挙で選ぶというモチーフで、準備投票に破れた穏健派(うどんをすする人たち)に属する主人公が、見境ない多数派工作を仕掛けてくる急進派にうんざりしながら、他2派閥による決戦投票に至るまでの悲喜こもごもを描くコメディである。
無論、会社の代表を社員の投票で選ぶなどという会社は聞いたことがないので、現実の公職にかかる選挙についての風刺であると読む方が素直だろう。
会社の成長のためコストカットか、さもなくば人員削減か、はたまた現状維持かという選択は、様々なバランスを考えると落ち着くところに落ち着くのだが、なかなかそうもいかない。
穏健派の社員たちが今回投票する先は、よりましな選択を自らで考え、行うのがいいんじゃないかなーという漠然とした理念が、多数派工作のえげつなさによりかえって研ぎ澄まされていく…のだが、それは「とにかく」「なんとなく」の中で感じられるものであって、文中明らかにされるものではない。
まあ、それこそが津村の小説の真骨頂で、だから読後感も悪くはない。
ただ、エンタメか純文学か、と聞かれると、やはりこれは純文学なのかなあ、と思うのだった。