今日、女の子を拾った。
*フィクションではなく、実話です
川向うの、いつもと違う駅で降りた。
駅の出口の階段で、おっちゃんがうずくまっている。
ああ、そういえば、世間一般では明日から三連休か。
道理でこの時間にこれだけの人が居て、おっちゃん階段で寝てるわけだ。
そんなことを考えながらわきを通り過ぎる。
道端で転がっているならまだしも、安全面ではさして心配でもないし、駅員さんもいる。
橋を渡り、家まであと3分を切るくらいか。
少し前を女性が通り過ぎた。
歳の頃は10代後半か20代前半くらいだろう。
普通なら、何の問題もない。
だが。
裸足だった。
よく見ると、どう見ても部屋着。
まあ、百歩譲ってそこまではありえるとしよう。
でも、あからさまに歩き方が変だ。
ぺたぺたと、無気力に歩く。
どう考えても変だったのだが、100%あり得ないとは思えなかった。
声をかけるのをためらっていると、そのまま突き当りまで行って曲がってしまった。
首をかしげながら、ま、いっか、と帰路についた。
角を曲がり、しばらくすると、また遭遇した。
やっぱり、おかしい。
追いかけた。
5mほどの距離で声をかける。
返事がない。
3m。
やはり返事がない。
すぐ横まで追い付いて、
大丈夫かと尋ねると、一瞬こちらを見て、大丈夫です、とまた歩き出す。
はいそうですか、と放っておくわけにもいかない。
そのまままた追いかけた。
ちょっとストーカーチックだが、仕方あるまい。
5mほどの距離を置いて、ついてきている事が相手に分かるように歩いた。
歩調を合わせていたつもりだが、距離が縮まった。
更に速度を落とした。
距離は縮まる。
これは、もう、追いつくしかない。
再び声をかける。
それでも、大丈夫です、とまた歩き出そうとする。
交番行きます?
大丈夫です。
じゃあ、何処に向かっていますか?
…わからないです。
はい、大丈夫じゃないよね。
このまま放っとくわけにもいかない。
とりあえず、何か飲みましょう。
すぐそばに自販機があったのでそちらへ導き、植栽の縁に座らせる。
お茶でいいですか?
返事は無く、自販機に移るのは立ち去ろうとする姿。
…おいおい
まあまあまあ、と元の場所に座らせ、お茶を手渡すと泣きだした。
困った。
こんな時は、時間はかかるけど、そっとしておくのが一番かな、と思い、暫く待つ。
待つ。
待つ。。
どれくらい待っただろうか。
ようやく泣きやんだので飲むように促すと飲んだ。
もう大丈夫です。
そしてまた泣く。
・・・
暫くして、本当に大丈夫になったらしかった。
じゃあ、帰りますか、と立つ。
家、遠いので。
どの辺りですか?
港区なんです。
は?
あ、港区と言っても、端なので…
…ちょっとまて。ここ、中央区の端なんだけど。
港区の端、というと、新橋の向こう辺りですか?
あ、そんなところです。
曖昧な返事。
仮に新橋として、自分の足でも1時間程度かかる。
裸足で、あのペース。
3時間はくだらないだろう。
ここ、どの辺りですか?
日本橋浜町です。
新宿線?
そう。
ああ、遠いですねぇ(笑)
途方に暮れた。
当然近所だと思っていたので、近くまで送るつもりでいた。
選択肢は二つ。
交番に行くか、望ましくはないがうちで少し休ませるか。
一瞬迷うと、大丈夫です、とまた言う。
いや、ここではいそうですか、という訳にはいかないでしょ?
交番に行くか、うちに来るか、どちらかにしてください。
向こうとしても、見ず知らずの男のところには行きたくあるまい、と踏んで選択肢を与える。
案の定、交番へ行って事情を聴いてもらう、という。
ただし、この辺りをぐるっと一周してから。
…しゃーない、付き合おう。
内心ほっとはした。
すみません、ありがとうございます、と何度も繰り返す姿は、恐らく本心で、いい子なのだろう。
それでも素性は分からないし、精神状態も落ち着いた様には見えるがわからない。
もし、うちに来るという事になれば寝ないつもりでいた。
何をされるか分からないし、下手をすれば冤罪で訴えられかねない。
幸い交番は近かった。
不幸にも、交番は小さかった。
一人しか駐在していないと思われ、パトロール中の看板がかかって留守だった。
御用の方は中の電話を、と書いてあったので中に入る。
かけても良かったのだが、自主性に任せると、ここで待つ、と言う。
ここで帰ればよかったのかもしれないが、姿が見えなくなってまたふらっと何処かへ行ってしまう可能性がある。
何より、監視カメラにばっちり映っているので後々面倒な事になりかねない。
一緒に待つ事にした。
今思えば、電話をすればよかった。
中には何故か椅子が無かった。
女性の足で、しかも裸足で3時間以上。
疲れていること必至だ。
すぐ外にベンチがあるのでそちらへと誘導。
そして、何度目かの「待ち」がはじまる。
流石に疲れていたのだろう。
少しうつらうつらしたので、落ち着いたのは分かった。
物音で目を覚まし、
今、何時ですか?
時計の針はゆうに3時を回っていた。
多分、朝まで来ませんね。
そうでしょうね。
じゃあ、タクシーで帰ります。
え?お金は?
家の前で待っててもらってとりに入ります。
ということで、その案を受け入れることにした。
もう少し頭が回っていれば交番の電話から呼んだのだが、眠かったせいかその考えが浮かぶ事は無かった。
タクシーは簡単に捕まった。
何かあったら、連絡して、と名刺を渡した。
今思えばこれも軽率だったかもしれない。
悪用される可能性は十分ある。
でも、心配だったし、信用できる気がした。
結局、いきさつも、名前も連絡先も訊かなかった。
その方がいい気がした。
家についてから、タクシーのナンバーを控えておけばよかった、とふと思った。
もしかしたら、無事着きました、と連絡が来るかもしれない。
少し起きていよう、とこれを書いている。
時刻は5時を回った。
まだ連絡は無い。
流石に何をどう間違っても1時間はかからない。
無事着いた事を祈るしかない。
着いたところで、その先が無事かどうかは分からないが。
でも目立った外傷は無かったから、DV等ではないだろう。
もし、万が一思いつめても、もしかしたら自分の名刺を見て思いとどまるかもしれない。
そんな期待も込めて渡した。
これで何か我が身に降りかかったら、確実に人間不信だな…
それとも自らの軽率さと人を見る目の無さを呪うか。
そろそろ、寝よう。
今頃、夢の中だろうと信じて。。
