折角のオフを五年に一度の免許更新手続きに使わなければならないなど詮無い事だと思う。しかし それも楽しめ。田辺免許センターの講習は十三時からのみの受付らしい。今日という日に仕事は一切やらないと決めていた。朝から「裏」白浜系発動。

狙いを定めたのは安久川河口付近。お馴染み、温泉街、パンダで有名なアミューズメント施設、白浜空港等に隣接した地域だ。紀州随一の観光地である白浜、は確かに風光明媚な所だ。しかし その景色には奥行きがある。カラクリがあると言った方が面白いか?都市住民らが、白浜という土地に非日常を感じられるのには裏付けがある。裏白浜系とは その「裏」に惹かれてやまない感性を持つ一派のことである。

 

有名観光地から僅かに外れただけで、この未整理。人の暮らしの気配が全くないわけではない、しかし それが自然の方に圧されてしまっている。白浜に限らず、紀州の海辺の多くには この空気感がある。

 

五色浜、シガラミ磯。午前中は小雨だった。それが却って この、未整理な海、の物語を感光させている。因みに「未整理な海」とは半栽培関連の本で使われていた表現をお借りしたものである。上の写真に映る五色浜、その横に味気ないフェンスや看板があり、足下からハマダイコンなんかが自生している。この一場面に心地好さを感ずる人は、そろそろ未整理の海の蠱惑に憑かれつつあるのだろう。

 

そのシガラミ磯から すぐのところに在る千体仏山。一応は此処も文化財として保護されるスポットである。

 

しかし ここで敢えて、やや粗野な自分なりの言葉で このスポットを言い表してみよう。此処は行き場を失った地蔵石が祀られていた、というよりは、何らかの理由で隠された、否もっと乱暴に言うなら、ゴミの如く捨てられていた場所なのではないのか?俺には そんな風に見える。しかし その地蔵ゴミなるもの等の集合が、寧ろ この細やかなスポットに一種異様な霊験を漂わせている。

 

目を凝らせば、どの石も地蔵。これもまた未整理の海。この愛おしさ。俄かに心が温まる。ここで不恰好な事を承知で、つい最近連載していた自分の似非小説「青を知れば」から一文を抜粋するなんて無謀なことをやってみる。

 

『学校の最寄りから駅にして五つほど先に、それなりに名の通った温泉地や海水浴場があり、夏場は都会からの観光客で賑わう。その恩恵に肖り、普段は閑散とした漁師町にも多少の活気が湧きもする。しかしシーズンなど ほんの一時の弾雨の様なものである。植樹されたリゾートムードを醸す椰子の木は年中、国道に並ぶものの、その演出が生きるのは まさに ほんの一時期のみ、なのであり、それらは殆どの時間、いつも知った顔ばかりが通る道端で、ただ空しく間抜けに風に晒され続けている』

 

時間がなくなったので、田辺に戻ってきた。運転免許センターの側にフレンチレストランがある。現在は、フランス食堂「chilo」というお店になっている。実は、この お店が初まる前も、この物件は人気フレンチレストランだった。店の名を「カフェル黒猫」といった。俺は その お店のファンだったし、店主 ご家族とも一緒に海水浴に行ったり、うちの自家製梅干しを美味しいと買っていただいたこともある。良き思い出だ。知る人ぞ知る名店、カフェル黒猫を閉めた後、海外に移住され、また新天地でフレンチレストランを開き、活躍されていた。ここ何年か連絡を取っていないが元気にされているのだろうか?そんな事を思いながら、折角だから、今日は初めてこの「chilo」さんで昼食を摂ることにした。店に入れば地元のマダムで満席だった。一人オッサンの俺は明らかに浮いていた。その状況の気不味さもあり、ランチの写真とかは撮れていないのだが、此処も確かなフレンチレストランだった。

そして免許も無事 更新完了。何年か前、些細な違反があったのでゴールドからブルーに格下げされていた。