『FUTURE WAR 198X年』(日本)

 

監督

舛田利雄

勝間田具治

 

脚本

高田宏治

 

製作

横井三郎

製作総指揮

渡邊亮徳

 

出演者

北大路欣也

夏目雅子

野田圭一

柴田秀勝

 

音楽

横山菁児

 

主題歌

ポプラ「愛ゆえに哀しく」

 

撮影

白井久男

寺尾三千代

 

編集

千蔵豊

吉川泰弘

 

配給

東映洋画

 

公開

 1982年10月30日

 

上映時間

125分

 

 

 僕が高校時代、山口県萩市にあった(今もあるがNPO法人化)萩ツインシネマに公開初日の日に観に行ったところ、切符売り場には上映中止になった旨の張り紙が貼られていた。

 当時の僕は、上映を楽しみにしていただけに上映中止が解せなかったが、だいぶ後になってこの映画が政治的に揉めていたことを知る。

 

 当時は米ソ冷戦の真っただ中。映画の内容が好戦的だということで東映動画の労働組合が作に反対していたのだった。東映動画労組のみならず、PTA団体なども上映反対していたらしい。

 その結果が、公開当時上映中止という貼り紙に繋がっていくわけだ。
結局、日本にいる間は観ることは叶わず、やっと見られたのは韓国のレンタルビデオショップにてVHSテープがあるのを発見したからだった。さっそく借りて自宅のデッキに入れると、内容はロック調の音楽と韓国語のナレーション、戦闘シーンのみで構成された「なんじゃこりゃ」作品であった。初見ではあったが、これがオリジナル作品とはかけ離れたモノであることは迷惑だった。

 

 そして21世紀となり、僕は某動画サイトにアップされているのを見つけ、数十年越しにやっとまとも(?)な状態で観ることができた。

 

 米ソ冷戦時代、アメリカは有人人工衛星による核ミサイル迎撃システムをバートン・ゲイン博士を中心に開発し、宇宙空間での実証実験に成功する。計画のキーパーソンのひとりである日本人エンジニアの三雲渡は、モスクワオリンピック元柔道日本代表選手であったが、日本が参加ボイコットしたためにオリンピックに出られなかったという過去を持つ。ここは現JOC会長と重なるところがある。

 ソ連はバートンを誘拐してモスクワに連れて行こうとするが、アメリカはギブソン大統領の指示により、バートンを乗せたソ連の原子力潜水艦を核ミサイルで吹き飛ばしてしまう。米ソは開戦の手前まで行くが、ソ連のオルロフ書記長は開戦派の勢力を抑える。

 しかしながら、ソ連から最新鋭の戦闘機が西ドイツに亡命し(ここはミグ25亡命事件と重なる)、ソ連は最高機密が西側に漏れるのを防ぐために、パイロット暗殺と戦闘機破壊のために特殊部隊を西ドイツのNATO軍基地に送り、NATOとワルシャワ条約機構軍との間で戦闘が勃発する。そうした中で戦略ミサイルが事故で発射され、米ソは互いが核ミサイルで報復する全面核戦争に突き進んでいくのだが…

 

 とまあ、当時の政治バランス、地政学などを十分に考慮した内容になっており、映画のご都合主義を差し引いても、これが好戦的だという印象は受けなかった。むしろ、現在作られているアニメの方がもっと過激だといえる。

 恐らくであるが、漫画映画がアニメーション作品へと発展する過渡期であったからこそ、大人たちは、アニメは子供が観るものという意識があったのではなかろうか。小学生の子供に見せても理解できないだろうから危険という結論に帰結したのかもしれない。この辺の論理はアメリカのディズニーアニメにも通じる。

 ともあれ、毒気(?)がかなり抜けた感じであり、脚本をそうとう書き直した痕跡がうかがえる。

 ところで、脚本は「日本の首領」シリーズなど東映やくざ映画を数多く手がけた高田宏冶であり、監督は舛田利夫と勝間田具治と共同となっている。舛田は「劇場版:宇宙戦艦ヤマト」などにも監督として参加していたが、本来は実写映画の監督。アニメの演出には苦労したはずだが、勝間田がアニメ演出のかなりの部分を手掛けたのは想像に難くない。とはいえ、勝間田自身もマキノ雅弘らに師事し、東映時代劇の演出助手を務めた実写畑の出身。舛田の痒い所に手が届く存在であったろう。

 ちなみにであるが、海外のアニメファンの間で評価が高いのは、音楽を 横山菁児が担当したこと。彼は「聖闘士星矢」の音楽監督として世界のアニメオタクの間でその名が知られており、海外で横山作品の録音をするとき横山作品の場合、現地のオーケストラ団員から拍手が起こるほど知名度が高い。

 声優陣に目を転じると、主人公の三雲渡をソフトバンクのお父さん犬の声優でもある北大路欣也が担当しており、この後の声優業に繋がるきっかけとなった。ローラ役は本作が最初で最後の声優作品となった故夏目雅子。売れっ子の俳優が声を当てるのは今では珍しくないが、ゲストキャラであればともかく、主人公を演じるのは画期的であった。

 

日本映画の実写版では核戦争や反戦をテーマとして多く作られてきたが、大人を対象としており、青少年向けに作られるケースは多くない。 

アニメ作品としての評価は決して高いといえる作品ではないようだが、アニメは子供向けという概念が支配的であり、東西冷戦の時代に、戦争アレルギーが支配的な日本で仮想核戦争アニメ映画を作ろうとした製作サイドの英断を支持したい。