”ちづる”の嘘と1%の真実
はい。どーも。かのかり楽しんでますか?
今回は、千鶴が小百合おばあちゃんについた嘘について、いろいろ話していこうと思います。和也と千鶴が恋人であるという嘘ですね。
千鶴がおばあちゃんについた嘘
小百合おばあちゃんとのお別れのとき、千鶴は和也との恋人関係は嘘だと伝えるか迷います。
◆ もう何も…わからないの…っ!!
もう…っ 分からない…っ!!
もう何も 分からないのっ!!
嘘を隠し通せば、おばあちゃんの中に、素敵な思い出として和也と千鶴の恋が残ります。でも、千鶴には嘘をついた罪悪感が残ってしまう。
だから、嘘を話しておばあちゃんに謝りたい。でも嘘を話したら、悲しませてしまうから、それも嫌だ。
千鶴はここでどちらの選択をすべきか葛藤します。
はじめ僕自身、千鶴の気持ちがよく分からなかったんです。千鶴が考えていた通り、嘘を伝えても悲しませるだけ。それでいいじゃないかと、嘘だと伝えなくていいんじゃないかと、なぜそこまで、この”嘘”に罪悪感を感じてしまうのか、共感できなかったんですね。
でも僕が「水原千鶴の恋物語」を書くにあたって、たったひとつの事実が分かった瞬間、このシーンでボロボロと泣いてしまったんです。なんで、こんな当たり前のことに気づけなかったんだろうと、今は思います。
私が勝手に好きになっているだけ
和也は私のことを好きなってくれない
このときの千鶴にとって、和也への恋は、自分ひとりが勝手に和也を想っているだけで、彼は何とも思っていない、本当に嘘の恋人関係だったという事実です。
詳しい解説は、「ずっと深刻だった水原千鶴の葛藤」でまとめていますので、そちらをどうぞ。
はじめ僕の認識では、千鶴は和也の気持ちを結構分かっているんじゃないかと思ってたんです。なので、千鶴は、今はまだ恋人ではないけれど、いつかきっとこの嘘も本物になるだろうなって期待してるんじゃないかって、思っていました。
でもそれは、ただの僕の勝手な想像でした。千鶴のこと、全然分かってやれてなかった。
ちづるの裏切り
千鶴が和也に恋をしていると気づいたのが和也の誕生日(86話)。その後、おばあちゃんに相談しています(13巻 112話)。詳しくは、「水原千鶴の恋物語 13-18巻・前編 理解度③」へ
私が…カレシつくった時…おばあちゃん…どう思った…?
◆私が…カレシつくった時…おばあちゃん…どう思った…?
ふたりの恋人関係は嘘。千鶴にとって和也への恋は、自分勝手に始めてしまった恋です。それでもおばあちゃんは、「でも彼ほどあなたに相応しい人はいないわ」と言って、自分の恋を応援してくれたんです。
◆でも彼ほど 貴方に相応しい人はいないわ 112話
千鶴にとって、和也の恋人としていられる小百合おばあちゃんとの時間が、どれだけ幸せだったのか。
好きな人の話を楽しそうに聞いてくれるおばあちゃんを見て、どれだけ嬉しかったか。
世界で一番信頼している人が、味方でいてくれたことで、どれだけ安心できたか。
でも、それは全部、自分がおばあちゃんに嘘をついて得た幸せだった。おばあちゃあんの自分を想う気持ちもすべて裏切って、騙し続けて得た幸せだったんです。
そうやっておばあちゃんを騙し続けた千鶴。上映会場の下見の際、おばあちゃんが意識を失い、ついに今嘘だと言わなければ一生謝れないという状況になります。
おばあちゃんは亡くなる直前、少しの間だけ意識を取り戻します。嘘だと言うならこの時しかない。
でも、小百合おばあちゃんは和也が大好きなんです。「彼ほどあなたに相応しい人はいないわ」とも言ってくれました(112話)。和也の話を楽しそうに聞いてくれました(143話)。おばあちゃんの嬉しそうな顔を思い出すと、千鶴は嘘だなんて言えないんですね。
◆ダメ… 151話
私 おばあちゃんに「別れる」って言いたくない
千鶴が当初話していた通り(91話)、嘘だなんて話してもおばあちゃんを悲しませるだけです。
それでも、千鶴は、やっぱり嘘だと言ってしまいたいたいんです。嘘だと言えないことがすごく辛いんです。
◆ばーちゃんの命に 一ミリの”未練”も残さないって 本当に言えるのか…!? 148話
言わなくていいのか…? 俺たちのこと…
”本物の恋人”じゃないって 本当に…
水原は引きずらないのか…?
おばあちゃんが倒れた後、和也は「嘘だと伝えるべきだ」と言って気遣ってくれます。おばあちゃんを悲しませたくないのも本心、でも嘘だと話してしまいたいのも本心なんです。だって
言わなくていいのか…? 俺たちのこと…
”本物の恋人”じゃないて 本当に…
付き合ってないだろ…?俺たち
言うんだよ! 俺たちの関係が嘘だって!
和也の言う通り、2人の恋人関係は本当に”嘘”だから、きっとこれからも”嘘”が”真実”になることはないからです。
私が勝手に好きになっているだけ
和也は私のことを好きなってくれない
千鶴がいくら望んでも、”この人にとって私は協力者 恋人でも何でもない”それが現実だからです。
おばあちゃんが喜んでくれているのは、ただ和也を気に入っているからではありません。千鶴の幸せを心から願っているからです。でも本当は、そんな幸せどこにもないんです。和也との恋人関係は全て嘘だから、彼にその気はないのだから、そんな未来は訪れないんです。
世界で一番大切な人に千鶴は嘘をつき続けた。そうやって”仮初の”幸せを得てきた。でも今嘘だと言って謝らなければ、その想いを裏切ってしまう。そして、和也との恋人関係は”嘘”、私が幸せになる未来はない。これからもずっと、その想いを裏切り続けてしまう。幸せになって欲しいと願ったおばあちゃんの想いに答えられない。だから千鶴は、嘘だと明かして、謝りたかったんだと思います。
もう…っ 分からない…っ!!
もう何も 分からないのっ!!
千鶴は苦しんでいたのは、本当にふたりの関係が嘘だと思っていたから、きっとこれからも”真実”になるとは思えなかったからだったんですね。
私が勝手に好きになっているだけ
和也は私のことを好きなってくれない
この事実を知った瞬間、やっと千鶴の気持ちを理解してあげることができました。
1%の真実
演技は嘘です。物語も、登場人物も、セリフも何もかも、嘘。その99%が嘘。
でも、そこに表現された1%は、僕らの真実です。夢への憧れも、苦悩も、誰かを想う気持ちも、僕らと何一つ変わらない真実です。
嘘の恋人関係から始まった恋。でも決して和也への想いは嘘ではない。
おばあちゃんが、恋を始めた”ちづる”からもらった幸せも、決して嘘ではない。
私はその”真実”が好きよ
◆私はその”真実”が好きよ 150話
記憶の中の小百合おばあちゃんは、だから謝らなくていいわと、ちづるに伝えているようでした。
興味のある方は、水原千鶴の視点で振り返る「彼女、お借りします」レビュー&解説「水原千鶴の恋物語」をご覧ください。