リビングでは 柊二さんが 超絶不機嫌なオーラを出して ソファにドカンと座っていた。

うわ…
これ 話できんのか?
今さっきの 玄関でのビンタも 絶対 聞こえてるし…。
話を始める前に 一悶着ありそうだな…。

でもなぜか 柊二さんは ついてもいないテレビをジッと睨みつけたまま オレたち2人には 気がついていないかのように 微動だにしない。

まぁ 黙っていてくれるのなら そりゃあ それが ありがたいけど。



「ハル あっち。」

アキさんも アキさんで あれだけ存在を主張している柊二さんに 見向きもしない。
まるっと無視して オレをダイニングテーブルに促すと オレの正面に 向い合って座った。

ふぅん。なるほど。そういうことか。

「それで?話って?」

アキさんに聞かれて そうだった こっちに集中しなければ…と 姿勢を正した。

ここに来るまでに 何度もシミュレーションしてきたのに いざ この場になると 言葉に迷う。

「……先日は すみませんでした。」

「うん?」

「それと… ありがとうございました。」

「ん?…何の謝罪とお礼かわかんないけど まあ いいや。うん。分かった。どっちも受け取ったよ。」

「………。」

「話したいのは それだけ? 終わり?    」

それだけのわけ ないだろう。
そんなこと 分かってるくせに。

「……わざと… ですよね?」

「なにが?」

「あの時の。…わざと オレに酷いことして 柊二さんを怒らせたんですよね?」

「わざとねぇ…。 そうか。そうきたか。…おもしろい考察だけど… そんなことして ボクに何かいいことある?」

アキさんは クスクス笑っている。

「アキさんにじゃなくて オレに。オレのために。怒る柊二さんの姿を オレに見せようとしたんですよね?」

アキさんの笑顔が クスクスからニヤニヤになった。

「ふぅん。なんで ボクが そんなことする必要があるんだよ?」

アキさんは もう 絶対面白がっている。
 
「それは…  」

「それは??」

「だって… 」

「だって??」

「…オレが いじけてたから。」

「へぇ。いじけてたんだ。なんで?」

「別に…。オレは別にいじけてませんでしたけど アキさんは オレがいじけてるって 思ったんでしょ?」

「だから なんで?」

何がなんでも 言わせる気なんだろうけど…。

「………。」

言えるかよ。
柊二さんも いるのに。
本人の前で…。

黙り込んだオレを アキさんは本当に楽しそうに見ている。

「あぁ つまり こういうことか。柊二が はなちゃんとケンばっかりかわいがってるから
いしけてたのか。それどころか ハルには かわいげがないって言われて。出ていけって追い出されて。それで ハルがいじけてたんだな?だからボクは そんなことないよ 柊二は ハルもかわいいんだよってのを見せようとして わざとハルをいじめて 柊二を怒らせた…って。そういうこと?」
 

本当に 楽しそうにしてるな この人は。
もう いい。もう しょうがない。

「まぁ… そんな感じです。あれは オレのためにやってくれたんですよね?アキさんは わざと悪者になってくれたんですよね?」

あれからずっと 考えていたけど あれは ただの悪ふざけだったとは 思えない。
悪ふざけなら オレが泣いた時点で 終わっていたはずだ。
その後の あの仕打ちは…  
動画とか 写真とか 四つん這いで浣腸とか…。
あれは 違う。

あれは 別の 理由があったはずだ。
……と 思う。

ずっと ずっと 考えて。
考えて 考えて… の オレなりの結論。