昔勤めていたデパートで同僚と二人、

婦人服売り場で次の日の展示会のための

残業をしていた。 

夜十時を過ぎた頃、

警備員さんが巡回してきて

もうすぐ閉店の時間だと言われたので、

同僚には先に上がってもらい私は

掃除と帰る準備をしていた時、

誰かの話し声が聞こえた。 

周囲を見回しても何もなかったので

仕事を続けていた時、鏡に映った

マネキンの目が暗闇の中で光った。

 私は全身鳥肌が走ったけど、

好奇心が勝って様子を伺っていると

マネキンは私の存在には気付いていない

らしく何かを探すように首を傾けて

呟いていた。 

(何を呟いていたかは聞こえなかった)

 その時、同僚が警備員さんと共にやってきた。

 マネキンは音が鳴ったそちらの方を

向いたまま固まってきた。 

(勿論首が有り得ない方向を向いていた)

 私は怖くてそれ以上マネキンの方向を

見れなかったまま、仕事を途中で

ほっぽりだして帰宅した。

 帰り道で同僚は私のことが気になって

戻ってきた途中で私と同じ光景を目撃したので、

警備員さんを呼びに行ったそうだ。 

マネキンが二人を見た時、

同僚はマネキンと目が合ったと言っていたが

大して気にもとめていなかった。

 次の日、同僚は会社を休んだ。 

その次の日も同僚は休んだので、

仕事帰りに家を訪ねてみた。

 母親が出てきて事情を説明され

入院しているとのことなので、

休日の日に病院に行った。

 入院している科は「精神科」で、

同僚は目の焦点が合ってなく俯いたまま

小声で何かを呟いていた。 

呼びかけても反応はなく、

まるであの時あそこにいたマネキンのよう

だった。 

展示してあったマネキンもあれ以来、

姿がなくなっていた。