■上の上の子の卒業式の話
三叉路の左側の妻は、カバンの中に手を入れてごそごそしながら歩いていたため私と目は合わなかった。
『気付いていないな』
実は、生の妻を見たのは半年ぶりくらいになる。
裁判が始まってからは、妻は下の子の試合会場にめっきりもっこり現れなくなっていたし、もともと、面会交流では顔を合わせたことはこれまで一度もない。
卒業式に来るであろうことは予測していたが、できる事なら会いたくなかった。同じ会場にいたとしても存在を認識していなければ問題はなかったのだが、なぜ鉢合わせたのか・・・。
神様も意地悪だ
三叉路を右折した私は、すぐに顔を下に向け早足で歩いた。このまま普通に歩いていると、妻に追いつかれて気づけば並んで歩いているかもしれない。
それは最悪だ
多くの保護者が比較的のんびりと歩いている中、私は地味に早く歩いた。決して後ろを振り返ることなく。
そして私は地味な早足のまま門をくぐり、式場である体育館に着き、指定された場所で靴を脱いでスリッパに履き替えた。
履き替えのタイミングで、式場に向かって歩く保護者の方に自然と身体が向いてしまうが、私が目線をそちらに向けなければ見ないことも可能だ。
なんだ・・・
なんだろう・・・
怖いもの見たさ?
私は自身の意に反して、こちらに向かって歩く保護者の群れに顔を向けて妻の姿を確認した。
消えた
妻の姿は確認できなかった。早足で歩いたとはいえ地味だし、見えなくなるほどの差はつくはずはない。
神隠し!?
そんな・・・
人間違い!?
そんな・・・
顔忘れた!?
あり得なくもないけど(笑)
私は脱いだ靴をビニール袋に入れると、何はともあれ急いで式場に入った。