説くことの危険性 | 帝王学

帝王学

- THE ART OF KINGCRAFT -

────【 超 訳 】────
(末尾に『書き下し文』あり)

──大抵の場合、物事は
「秘密にすれば成功し、漏洩すれば失敗する」



●相手が秘密にしていることを、
説者が偶然にも話題に挙げてしまった場合、
たとえそれが意図的でなかったとしても、
説者の命は危ない。



●相手が表向きには、ある事を推し進めているが、
実はそれによって、別の事をやり遂げようとしていたとする。
そして説者がその表向きの「目的」だけにとどまらず、
別の事の「真意」まで知っていた場合、
説者の命は危ない。



●説者がある特別な事がらを内々で計画し、
その計画が誰かに気に入られた場合、
第三者がその計画を外から推測して見抜き、
その推測情報を意図的に外部に漏洩させたら、
説者がその情報を外部に漏らしたとされ、
説者の命は危ない。



●説者がまだ君主から厚い寵愛を受けていない時分に、
知恵をつくしてアレコレと説を語るとすると、
その説が採用され功績をあげたとしても、
すぐ忘れられることになる。それどころか、
説中になんらかボロが出た場合には疑われることになり、
説者の命は危ない。



●位の高い人に過失の芽生えがあって、
それに対して説者が「礼」だの「義」だのを引き合いにだして、
その人の過失や悪事をあばきたてたならば、
説者の命は危ない。



●位の高い人がたまたま良いアイデアを思いつき、
それを自分の功績にしたいと考えていた場合、
説者がそのアイデアと同じものを
既に考えついていたり、知っていたとするならば、
説者の命は危ない。



●ある人にとって到底できないことを
絶対にやるべきであると説いてしまったり、
ある人にとって到底やめられないことを
絶対に禁じるべきであると説いてしまったならば、
説者の命は危ない。



──説者が君主に対して進言しない理由も、
秘密にすれば成功し(口を閉じていれば生きながらえ)、
漏洩すれば失敗する(口を開けば殺される)、
そう考えているからである。
例えば・・・



●説者が君主にむかって
重臣のことをあげつらえば、君主はきっと、
「コイツはわしと重臣との仲をさこうとしているな」
と思うであろう。



●説者が君主にむかって
そこらのチンピラのことをあげつらえば、君主はきっと
「コイツはわしに密告することで功績をあげようとしているな」
と思うであろう。



●説者が君主にむかって
君主の寵愛している人のことをあげつらえば、君主はきっと
「コイツはわしに対しコネを作り、何かをやるつもりだな」
と思うであろう。



●説者が君主にむかって
君主が嫌っている人のことをあげつらえば、君主はきっと
「コイツはわしが嫌う者が誰なのかを探ろうとしているな」
と思うであろう。



──また、説者は説き方をひとつ誤っただけで、
自分の立場や命を危険にさらすことになる。
これも君主に対して進言しない理由になる。
例えば・・・



●ザックリと簡単に話を説けば、
君主は説者を
無知な奴として退けるであろう。



●色々と詳細に話を説けば、
君主は説者を
ごちゃごちゃうるさい奴として退けるであろう。



●雑多な事実や事象を省き、
趣旨や本質に絞って話を説けば、
「具体的に言えばおのれが責任を負うことになる。
お前はそれが怖いのであろう」と言うであろう。



●リスクヘッジの見地から、
物事を多角的かつ懐疑的に話を説けば、
「お前は腹黒く、傲慢な奴だ」と言うであろう。



──こういったことが君主への説得を難しくしている。
よく心得えておくべきだ。



 夫れ事は密を以って成り、語は泄を以って敗る。未だ必ずしも其の身之を泄らさざるなり、而るに語匿す所の事に及ぶ。此くの如き者は身危うし。彼顕には事を出す所有り、而るに乃ち以って他故を成さんとす、説者徒に出す所を知るのみならず、又其の為す所以を知る。此くの如き者は身危うし。異事を規りて当たり、知者之を外に揣りて之を得、事外に泄れば、必ず以って己と為さん。此くの如き者は身危うし。周沢未だ渥からざるなり、而るに語は知を極む、説行われて功有らば則ち忘れられ、説行われずして敗有らば則ち疑わる。此くの如き者は身危うし。貴人に過端有り、而して説者礼義を明言して以って其の悪を挑ぐ。此くの如き者は身危うし。貴人或いは計を得て自ら以って功と成さんと欲し、説者与り知る。此くの如き者は身危うし。彊うるに其の為す能わざる所を以ってし、止むるに其の已むに能わざる所を以ってす。此くの如き者は危うし。

 故に之と大人を論ぜば、則ち以って己を間すと為す。之と細人を論ぜば、則ち以って重を売ると為す。其の愛する所を論ぜば、則ち以って資を藉ると為す。其の憎む所を論ぜば、則ち以って己を嘗みると為す。其の説を径省にせば、則ち以って不智と為して之を拙く。米塩博辯にせば、則ち以って多と為して之を弃つ。事を略して意を陳ぜば、則ち怯懦にして尽くさずと曰う。事を慮って広肆にせば、則ち草野にして倨侮なりと曰う。此れ説の難きにして、知らざる可からざるなり。