「古伝が語る古代史」宇佐公康著

 

5 十種神宝と鎮魂祭の古伝

 

「とくさのかんだから」の種別は、瀛津鏡 邊津鏡 八握劒 生玉 足玉 死反玉(まかるがえしのたま) 道反玉(みちかえしのたま) 蛇比禮(おろちのひれ) 蜂比禮 品物比禮(くさぐさのもののひれ)の十種類である。

 

古来鎮魂帰神の秘法で、十種神宝の行事といわれている振魂の清袚行事が、神家と家伝として

 

振る毎に一種に拍手一ツ 瀛都鏡一ツ 邊都鏡一ツ 八握劒一ツ 生玉一ツ 足玉一ツ 死反玉一ツ 道反玉一ツ 蛇比禮一ツ 蜂比禮一ツ 品物比禮一ツ 一二三四五六七八九十(ひふみよいつむゆななやここのたりや)

と口伝されている。

 

この口伝が宇佐家に伝わったのは、後桜町天皇の明和三年二月から、光格天皇の寛政八年十二月まで、宇佐大宮司に補任された正四位下宇佐公素の妻在子が、京都上賀茂県主梅辻肥後守の妹であったから、当時、石上神宮の神家と縁故関係があった上賀茂神社の神家に伝承された「口伝書」によるものである。

 

現在、宮中の神殿に奉斎されている八神、すなはち、カミムスビノカミ(神産日神)・タカミムスビノカミ(高御産日神)・タマツメムスビノカミ(玉積産日神)・イクムスビノカミ(生産日神)・タルムスビノカミ(足産日神)・オオミヤノメノカミ(大宮売神)・オオミケツカミ(大御食津神)・コトシロヌシノカミ(事代主神)は「古語拾遺」神武天皇の段に神祇官の八神の起源について、神武天皇の時代から宮中に奉斎し給う神として、その名称が記されているが、もともと、古の菟狭国や邪馬台国時代に菟狭族の族長が、代々、同床共殿で世襲的に奉斎していた八柱の皇大神で、応神天皇の即位とともに宮中に奉斎されるに至ったのである。

 

 

 

津鏡宮中における鎮魂祭の儀式は「延喜式」「四時祭」によると、神祇官の斎院において行なわれ、祭神としては、八神殿の八柱の神に、オオナオビノカミ(大直日神)を加えて、九神を祀ったのである。

 

天皇の御魂代としての御衣を納める筥があり、これを振りうごかし、巫女が空桶の上に乗って、踏み鳴らして歌舞するのである。

ちなみに、オオナオビノカミは宇佐シャーマニズムでヤハタノオオモトノオオカミ(八幡大元大神)と称せられている。

 

宇佐家の口伝としての「阿知女の神楽歌」

 

あちめ おお おお おお 天地に きゆらかすは さゆらかす 神わがも 神こそはきねきこう きゆらならば 

 

あちめ おお おお おお 石の上 振の社の 大刀もがも 願ふ其の児に その奉る 

 

あちめ おお おお おお さつをらが 持有木の真弓 奥山に 御狩すらしも 弓の珥(はずみ)見ゆ

 

おちめ おお おお おお登り坐す 豊日靈(とよひるめ)が 御魂欲す 本は金矛末は木矛

 

あちめ おお おお おお 三輪山に 在り立てるちかさを 今栄えでは いつか栄えむ

 

あちめ おお おお おお 吾妹子が 穴師の山の 山のやまも 人も見るがに 深山縵(かづら)せよ

 

あちめ おお おお おお 魂筥に 木綿(ゆふ)とりしでて たまちとらせよ 御魂上り 魂上りましし神は 今ぞ来ませる

 

あちめ おお おお おお 御魂上り 去坐し神は今ぞ来ませる魂筥(たまばこ)持ちて 去りたる御魂魂返しすなや

 

次に

一 二 三 四 五 六 七 八 九 十 百 千 万(ひと ふた み よ いつ むゆ なな や ここの たりや もも ち よろづ) かんながら すめみおや たまちはやませ

十度読之 毎度中臣玉ヲ結也

 

鎮魂祭の口伝が宇佐家に伝わったのが、石上神宮、上賀茂神社との縁故に寄るとの事ですが、石上神宮も上賀茂神社も饒速日大神の御社ですので、奇しき神縁を感じずにはおれません。

 

そして、十種神宝といえば、饒速日大神です。

 

私は、鎮魂祭の口伝が宇佐神宮に伝わったのは、八幡大神が饒速日大神、市杵島姫命であるからではないかと考えます。

 

オオナオビノカミは宇佐シャーマニズムでヤハタノオオモトノオオカミ(八幡大元大神)

 

とありましたが、平田篤胤先生は、「霊の真柱」の中で

 

和魂に坐す直毘神は、天照大御神に属き坐し

 

と書いておられます。私は、大直日神と天照大御神、瀬織津姫命、市杵島姫命は御同神で八幡大元大神と解しています。

宇佐家の口伝としての「阿知女の神楽歌」の中に

豊日靈、三輪山、穴師の山とありました。

 

豊日靈に関しては、「八幡比咩神とは何か」菊池展明著、

豊国の比咩神とは何か 

の中で、菊池氏が詳しく書いておられますので、また紹介したいと思いますが、豊比咩命と宇佐八幡の比売大神は御同神をされており、また阿知女の神楽歌といえば天宇受賣命で、豊受姫命、市杵島姫命と御同神と書いてきました。

 

三輪山、大神神社といえば、饒速日大神です。

 

泉穴師神社の御祭神は天忍穂耳尊栲幡千千姫命

 

私は、天忍穂耳尊は饒速日大神、栲幡千千姫命は市杵島姫命と御同神と書いてきました。

 

私は、饒速日大神と市杵島姫命は共に鎮魂祭の大神仙と解しています。

 

神道天行居の友清歓真先生は、天宇受賣命から神法を授かっておられ、白頭山に豊受姫大神の大神璽を奉斎されたと言われています。

 

友清先生は、私が尊敬する清水宗徳先生とあまり仲がよろしくなかったとの事ですが、友清先生は天宇受賣命、豊受姫大神、市杵島姫命から御寵愛を受けられ、大女仙を正しく理解されていたのではないかと考えています。

 

「契丹古伝」の浜名寛祐翁の解説の中にもしかしたら天行居関係があるのではないかと、私が考えている事がありますので、いづれ紹介したいと思います。