大勢の人の中にライオンがひとり
気高く孤独に立っている


「不安にならないの?」
「もう僕はいなくなるから不安はないよ」


私は彼を知っている
今日会うことも、どんなに優しいかも


「背中に乗ってみたい」
「もちろん、そのために来たんだから」


背中に乗ると彼は走り出した


勢いよく流れる景色の隙間で
パチパチと光るものから目が離せない

「これはいずれ君に起こることだよ
 知っているだろう?」

「私が恐れていたものは
 こんなにも綺麗だったのね」

それは怒りや悲しみの先でずっと私を待っている



「本当はね、僕はいなくなるわけではないんだよ
 闘いをやめるだけなんだ
 だから君のそばにいつもいるよ
 会えて良かった、会いに来て良かった」

そういうと彼は人混みの中に戻り、
すうっと姿を変えた
彼は純粋な子どもになった



私の方こそ伝えなくちゃ
ちゃんと約束覚えていたよ
あなたにずっとずっと会いたかったの

碧の中で溶け合うまで
もう少し待っててね


鬣を掴んでいた手から太陽の香りがした