Yahooニュース、10月24日配信の「子どもを虐待から救うため、児童相談所はどうあるべきか」を読んでみてくださいビックリマーク

登場人物は、

奥山眞紀子氏(小児科医師として子どもの心に関わる分野を専門とし、虐待を受けた子どもに対する治療経験も豊富)

川﨑二三彦氏(京都府の児童相談所に心理判定員(児童心理司)や児童福祉司として約30年勤務し、現在は児童相談所の職員などの研修業務を行っている)

慎泰俊(しん・てじゅん)氏(約10カ所の一時保護所を訪ねて回り、ルポとして2017年に著作にまとめた)

 

対談の中で気になったところ(抜粋)

「ゆるして」痛ましい事件の波紋

川崎氏:「児相の判断と警察の判断では異なる場合も少なくないのです。」

慎氏:面前DVは「心理的虐待(児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと)」にカウントされるんですよね、その比率だけが最近すごく増えている。実は、児童虐待によって子どもが死亡した件数は、2007年1月から2008年3月までの第5次報告の142人がピークです。2016年4月から2017年3月までの第14次報告では半分近くの77人まで減っています。つまり、虐待相談対応件数が増えているからといって、社会全体で実際に起きている虐待が深刻化しているとは言えない。

 

児相の対応には共通の「標準化」が必要

川崎氏:児相スタッフが目視確認する48時間ルールは身体的虐待やネグレクト事例が想定されており、心理的虐待はそれほど意識されていなかった。・・・何が何でも48時間以内というのは、かえって子どもたちの不安を高めかねません。少なくとも心理的虐待に関してはこの枠組みを考え直さなくてはいけないと思います。

奥山氏:アメリカの児童虐待対応には、「スクリーナー」としてトレーニングされた専門職がいます。通告を受けたケースをスクリーニング(選別)するのが仕事で、虐待の重症度と緊急性を判別し、「これはすぐに警察と一緒に行かねば」とか「これは地域で経過観察していけばいいでしょう」というように振り分ける。

慎氏:・・・児相ごとに安全確認の方法が違うということです。厚労省の「子ども虐待対応の手引き」に基づいたチェックリストを持っている人たちもいたし、なんとなく曖昧に動いている人たちもいました。

奥山氏:そのチェックリスト自体、科学的根拠がないものなのです。「チェックリスト」とは虐待の危険度を評価するためのチェックリスト形式の「リスクアセスメントシート(一時保護決定に向けてのアセスメントシート)」のこと。目黒の女児の事件に関する厚労省の専門委員会の検証報告書によると、香川県の児相は女児への虐待リスクを「中程度」と判断していたにもかかわらず、こうした「リスクアセスメントシート」を作成していなかった。

 

児相の業務内容

川崎氏:とにかく対応すべき案件が多すぎる。にもかかわらず、マンパワー不足、人員不足で、思うような仕事ができない。それで周りから批判を受ける。結果として、児相の職員は疲弊して他の部署に移っていく。これでは児相の専門性が上がるわけがない。人が育たぬ悪循環が生じています。

慎氏:児相職員に求められる能力も変わっている。なのに、その変化に対応が追いついていないように感じます。

奥山氏:ケースの3分の1くらいが、目黒の事件のように一時保護をして、自宅に帰して、また保護するということを繰り返していたことです。つまり、一度一時保護をしても、虐待から守られていない子どもが相当数いるということです。目黒の女児事件では、地元の病院からは「家庭裁判所の承認を得て、保護者の同意を得ないでも、女児を児童養護施設に入所させるべきだ」との提案もありました。にもかかわらず、不適切に家に帰してしまったために、最悪の事態を招いてしまったのです。

川崎氏: 児童福祉法28条に基づく審判ですね。児童福祉施設への入所は保護者が拒否するとできませんが、保護者がその児童を虐待しているなど、その「保護者に監護させることが著しく当該児童の福祉を害する」と家庭裁判所が承認すれば可能となります。これは単なる推測ですが、目黒の事件で、香川県の児相は家庭裁判所に申し立てたとしても承認されないと考えたのかもしれません

 

一時保護所

慎氏:複数取材してみると、子どもたちが安心して過ごせる場所になっていないところもあることがわかりました。まるで刑務所のように暗く、規則が厳しいところもありました。子どもが落ち着いていられる良い雰囲気のところもありますが、施設による差が大きいなと感じましたね。

奥山氏:何か問題があるといけないからと管理が過度になっていく。それが行き過ぎて子どもの権利が守られなくなっていくんですね

川崎氏:(一律に)機械的な対応をしてしまうと、それでかえって支援を拒否する保護者も出てくるかもしれない。本当は個別事情に沿った個別的な対応が必要で、そのためには、専門的な知識や技術が重要なんです。

 

児相の業務を民間へ委託すべき

奥山氏:(児相の)仕事は医療と同じように命を守る仕事でもある。トレーニングによって育む高い専門性とそれを担保する資格が必要だと思います。

川﨑氏: 児相はひどい人手不足なので、児童福祉司などは十分な研修もないまま、赴任したその日から現場を担当させられるのが実情です。本当はせめて半年でも見習い期間があるといいのですが……。また、今の児相は権限の行使、介入を強く求められているので、かつての主流だった「相談」業務が痩せ細っている。「相談」は児相の基本ですので、今後の児相のあり方を考えるとやはり心配です。

奥山氏:児相は業務の一部を民間に委託することも推進すべきだと思います。「48時間以内の安全確認」でも、民間の方がやさしく「どうですか、お子さん元気ですか」と入っていくこともできるという話も聞いています。何もかも児相が抱えていては、今の子どもをめぐる問題は解決できません。

慎氏:自分の地域の子どもに起こっていることを他人事として捉えるかぎり、リソース問題の解決は難しいと思っています。何か子どもに問題が起きると、「児相は何をやっているんだ」と言う。けれども、その被害者は私たちのうちの誰かの隣にいる子どもなのです。児相にすべてを任せるわけでもなく、市民としてみんなでちゃんと子どもを見て、自分ができる範囲で行動を起こしていたら、防げることもあるかもしれないですね。

 

素晴らしい対談でしたね!にひひ