16日から大学入試センター試験が始まった。


その中の「現代社会」という科目で、外国人地方参政権に関する問題が出題された。


不適切な問題である。


● 出題内容


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第1問(問3) 

下線部cに関連して、日本における参政権に関する記述として適当でないものを、次の①~④のうちから一つ選べ。


①国民投票法上、憲法改正の国民投票の投票資格は、国政選挙の選挙権年齢が満18歳以上に改正されるまで、 満20歳以上の国民に認められる。

②被選挙権は、衆議院議員については満25歳以上、参議院議員については満30歳以上の国民に認められている。

③最高裁判所は、外国人のうちの永住者等に対して、地方選挙の選挙権を法律で付与することは、憲法上禁止されていないとしている。 ← 注目ビックリマーク

④衆議院議員選挙において、小選挙区で立候補した者が比例代表区で重複して立候補することは、禁止されている。

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『読売新聞』のネットに問題の解答と解説がすでに掲載されている。代々木ゼミナールの協力とある。

http://nyushi.yomiuri.co.jp/10/center/mondai/gendaishakai/mon1.html


それによると、上記問題の解答は④。


つまり、選択肢③は、正しい記述であるということになる。つまり、「最高裁判所は、外国人のうちの永住者などに対して、地方選挙の選挙権を法律で付与することは、憲法上禁止されていないとしている」は、正しい記述だということになる。


● 「傍論」をもって最高裁の判断といえるのか?


この問題は、大学入試センター試験の出題として非常に不適切である。


出題者の念頭にあるのは、平成7年2月の判例のなかの「傍論」の記述であろう。

「傍論」には確かに以下のような記述がある。


「法律をもって、地方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではないと解するのが相当である」


「このような措置を講ずるか否かは、専ら国の立法政策にかかわる事柄であって、このような措置を講じないからといって違憲の問題を生じるものではない」


ただ、上記は、あくまでも「傍論」である。


判決の本論にある判断は、以下である。


「参政権は国民主権に由来し認められるものであるから、その享有主体は憲法上日本国籍を有する国民に限られる」。


周知のとおり、推進派は、奇妙なことに、主論ではなく、傍論をもって、外国人に地方参政権を付与することは違憲ではないと述べるが、これはかなり疑義のある主張だといえる。「傍論」には、法的拘束力がないからである。


加えて、周知のとおり、憲法15条には、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」とある。


推進派に少々譲歩したとしても、憲法学界でも、外国人地方参政権が合憲かどうかは大いに議論があるところだといえよう。決して、上記の選択肢③が「適切である」と明確に結論することはできない。


● 不適切極まりない問題


憲法本文には、「国民固有の権利」とあるわけであるから、おそらく憲法解釈としては、地方参政権は違憲である疑いが強いというのが一般的立場であろう。


ちなみに、読売新聞や産経新聞は、社説で、違憲の疑いが強いと記している。(『読売新聞』2009年10月9日、『産経新聞』2009年11月10日)

(読売はリンク切れだが、産経のリンクは以下)

【主張】外国人参政権 「違憲」の疑い論議尽くせ

http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/091110/plc0911100249002-n1.htm


ちなみに、上記リンク先の産経の社説には、次のようにある。(抜粋)

「在日韓国人ら永住外国人に地方参政権を与えようという動きは、この問題が「国の立法政策に委ねられている」とした平成7年2月の最高裁判決を機に強まったといわれる。だが、判決のその部分は拘束力のない傍論の中で述べられたものにすぎず、本論部分では、憲法93条で地方参政権を持つと定められた「住民」は「日本国民」を意味するとして、外国人の参政権を否定している。」


憲法をよく学習し、政治問題、社会問題に興味をもちよく読売や産経などの新聞を(ネットはもちろんだが)をよく読んでいる高校生ほど、この問題は、選択肢の③、④で悩むのではないか。


自宅でとっている新聞が、朝日や毎日なら、あまり違憲だという見解はみないかもしれないが、読売や産経であれば、違憲説を幾度も展開しているので、自宅の新聞が読売や産経の子は、大いに不利だったであろう。不公平である。


慎重さが求められるセンター試験の内容としては、非常に不適切な問題である。


外国人地方参政権を付与したいという出題者の政治的偏向も感じられる。


● 代々木ゼミナールの解説もおかしい


なお、『読売新聞』のセンター試験の解説は、代々木ゼミナールであるが、代ゼミの解説には次のようにある。


「問3は判断に迷う選択肢もあっただろうが、普段から新聞やニュースを見ていれば、4が誤りとすぐに分かったはず」。


この代々木の解説は、先に述べたように、家庭で読売新聞や産経新聞をとっている場合、当てはまらない。両紙をよく読んでいる子ほど、迷う確率が高い。(確かに、選択肢④が誤りだとはわかるだろうが、両紙を読んでいる場合、③も誤りだと思う確率が高い)。


代々木ゼミナールの講師たちは、朝日や毎日しか読んでないのだろうか。視野が狭すぎないか。(問題解説が掲載される当の『読売新聞』の主張とずれてしまうところが笑える。)


もちろん、一番責められるべきは、大学入試センターや、この問題を出題し、何重ものチェック体制を通してしまった大学教員たちの偏向、もしくは視野の狭さであろうが。


● 出題内容をもっと精査せよ


大学入試センターは、もっと出題内容を精査する必要がある。


まじめで、社会問題、政治問題に関心がある子たちがバカをみるような問題を作るのはおかしい。


また、国民の間で政治的議論がある問題について、一方的な見解を表明するのは、まったく不適切である。


大学入試センターは、この問題の誤りを認めるべきではないか。また出題体制を再考すべきではないか。


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