政府は「人口減少」に無関心?地方創生が地方を壊す未来がやってくる

「地方消滅」から4年、何が進んだのか 

「地方消滅」から丸4年を迎えて

いまからちょうど4年前のことだ。

平成26年5月8日、増田寛也氏を代表とする日本創成会議作成の報告「成長を続ける二一世紀のために『ストップ少子化・地方元気戦略』」(以下、増田レポート)が発表された。

このレポートは、日本の地方自治体のうち約半数にあたる896自治体が2040年までに消滅する可能性があるとしたもので、報告にはその数だけでなく該当する自治体(「消滅可能性都市」という語が使われた)のリストまであげられ、大きな話題になった(のち、『地方消滅』中公新書に収録)。

このレポートに対しては、当時から様々な批判があった。筆者もそうした批判者の一人だ(『地方消滅の罠』ちくま新書など)。

その後、この報告を受けて平成26年9月3日には「まち・ひと・しごと創生本部」が発足。11月21日には「まち・ひと・しごと創生法」ほか地方創生関連二法案が成立する。そして年末には「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」「同総合戦略」が閣議決定されて、具体的な事業がはじまった。

地方創生の本格始動からしても丸3年が経過。5年での成果を目指しているので、そろそろ中間的な事業チェックやその評価がなされるべき段階に入っている。

さて地方創生の中間評価は、どんな形で行われるべきだろうか。

〔PHOTO〕iStock

それは当然、地方創生が過剰で急速な人口減少を阻止することからはじまったわけだから、この間の政策・事業がどの程度、人口減少を抑制したのかが問われることになるはずだ。

そして政府の出発点である「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」「同総合戦略」(平成26年12月27日策定)によれば、人口減少は過剰な少子化に由来し、少子化は東京一極集中にその原因が求められるのだから、事業による東京一極集中阻止がいかに達成され、それが生まれてくる子どもの数をどの程度増やしたのかが問われねばならない。

そして、政府の「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」「同総合戦略」では、この事業についてのPDCAサイクルや、そのためのKPIの設定等を指示しているのだから、まさにその考え方に立って、人口減少=東京一極集中対策のPDCAがいかなる形で実現し、しっかりとその循環(サイクル)が軌道にのっているのかをチェックしなければならないはずである。

 

ところが、これまで何度も指摘しているとおり、地方創生には、致命的とも思える欠陥があり、その欠陥によって、そのPDCAサイクルがおかしなものになってしまっている。むしろ地方創生が地方を破壊するのではないかと思える状況さえ発生しているのだ。

その詳細は、筆者の近著(『都市の正義が地方を壊す(仮)』PHP新書、6月15日発売予定)を参照していただくとして、本稿ではこの「人口のPDCAサイクルはいかにおこなうべきだったか」という形で、地方創生の本来あるべき姿を問うていくことにしたい。

 

「まずはしごとから」地方創生に潜む欠陥

まずは、いま述べたPDCAから確認しておきたい。

PDCAサイクルとは、事業を管理運営していく手法として企業経営の現場から発案され、行政経営の場にも応用されているものである。

Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(改善)の4段階からなり、これを繰り返すことで業務が継続的に改善されるという。

そしてこのプランとチェックにあたって、KPI(key performance indicator)を設定し、計画を目に見える形で目標化してその達成度を適切に評価し、改善につなげていくことができるとされている。

PDCAやKPIは、使い方さえ正しければ、地方創生においても適正な事業運営に役立つはずである。だが今回の地方創生には大きな欠陥があり、それが地方創生のPDCAを歪めつつある。

その欠陥とは何か。

いま述べたように、地方創生が問題にしているのは、日本社会の止まらない人口減少である。

そして、その原因には東京一極集中があるという。

〔PHOTO〕iStock

というのも、出生率を見ても47都道府県で群を抜いて低い東京都に、子育て世代の若者たちが集まっている。最も仕事があり、経済規模の大きな東京で、最も子どもが生まれにくいという現実があるからだ。

そこで東京一極集中を阻止し、人口減少を抑制し、最終的には約1億人での安定化をはたしていこう――これが地方創生の最初の目的であった。

そして人口減少社会の具体的な像としては、「まち・ひと・しごと」が悪循環に陥っているので、この悪循環を断ち切り、好循環へと変えることだと政府の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(平成26年12月)は主張している。

 

ところが、この総合戦略は、そう述べた直後に「まずは、地方における「しごと」づくりから着手する」といい、「まち」「ひと」「しごと」のなかからとりわけ「しごと」を重視し、これを重点的に事業化することを明言しているのである。

さらに総合戦略の策定後に政府は、基本方針(平成27年6月など)を追加するなどして、地方創生に「稼ぐ力」や「ローカル・アベノミクス」などを次々と盛り込んでいった。

こうしたある種の問題のすり替え(人口から産業へ)によって、地方創生の事業の柱は人口減少=東京一極集中ではなく、地方の雇用づくりとなり、その補助金メニューには、イノベーションやロボット、インバウンドにDMO(国内外の観光地域づくり体制)、さらにはBID(ビジネス改善地区)など、カタカナや横文字の産業づくり事業が所狭しとならぶこととなってしまった。

なぜ本来は人口減少対策であったはずなのに、ここまで執拗に、地方創生が経済産業対策へと色づけしなくてはならなかったのか、筆者にはよくわからない。

また「ローカル・アベノミクス」というのも、たんに「地方の仕事づくり」を指すものと思われるが、なぜここに一国の首相の名前を個人崇拝のようにわざわざ入れ込んだのか、それも理解できない。

ともあれ地方創生は、機能としては、経済産業省に多くの事業を成立させる「経産省仕事づくり」事業としてもはや確立されてしまったようだ。

だがそのことで、地方創生は重大な欠陥を内包することになった。

 

地方創生は、その目的が人口政策なのか、産業政策なのか、何を目的にしたものなのか、まったくあやふやなものになってしまったのである。

地方産業づくりは、地方創生の論理としては人口問題解消のための手段であるはずなのに、経済政策が過剰に強調されたことで、地方の産業づくりこそが地方創生の目標だという雰囲気にさえなっている。

しかもまた、この地方創生を進めるため政府は東京に本部をおき、そこに財源を集め、配分していくことになったが(新型交付金が成立し、またなにより国家戦略特区という手法が確立された)、その配分に競争原理が持ち込まれてしまった。

競争をし、結果を出したところにさらに配分を多くしていくのだというが、しかしこうした競争原理は(国民への受けはいいのかもしれないが)結局は政府の権限強化につながり、東京一極集中を強化することにつながっている。

東京一極集中とは、元を正せば、東京(というよりも、正確には政府・国)への権限の過集中が引き起こしたものだからだ。

地方分権抜きの競争は、財源を握る政府の権限強化となってしまった。東京一極集中を阻止するのが地方創生の目的のはずだから、これもまたどう考えても理屈に合わない。

〔PHOTO〕iStock

さて、こうした仕事づくりと、競争を通じた中央の権限強化いう形で地方創生が方向付けられれば、そのKPIは当然、創出された雇用の数や、所得の額の増加といったことになる。

しかも地方間の競争になったのだから、各地方自治体が結果として出てくる数値を競い合い、成績のよいところが政府からさらなる財源をつけてもらえるという、補助金獲得競争がエスカレートしていくことになる。現にいま、地方創生の現場はそうなっている。

だが、そもそもの問題は経済ではなく、人口減少であったはずだ。

こうした各個別地域の経済指標の上昇が、人口数(とくに出生数)の増加とどうつながるのかは不明であり、それどころか、東京がそうであるように、出生率と経済指標が相反することからこの話ははじまったのだから、むしろ下手に競争をあおれば、ますます若者は地方を離れ、人口減少が進むのではないかとさえ危惧されるのである。

 

少子化抑制を検証しない政府のやり方

政府がPDCA強化を主張するのなら、まずはこの事業そのもののPDCAを政府自身がしなくてはならない。

人口減少ははたして「稼ぐ力」をつけることで止まるのか。この号令は本当に正しいのか。その見通しはついたのか。

平成27年12月に提示された「総合戦略2017改訂版」では、2017年度が5ヵ年の計画の中間年にあたるものとして、これまでの地方創生の事業効果についての検証が行われている(総合戦略2017改訂版、6〜8頁)。

点検は5名の有識者による「まち・ひと・しごと創生総合戦略のKPI検証チーム」によるもので、平成29年10月から11月の3回にわたって実施されている。座長は日本創成会議のメンバーであった樋口善雄慶應義塾大学教授で、増田寛也氏もメンバーの一人だ。

その結果は「総合戦略2017改訂版」発表直前の平成29年12月13日に『まち・ひと・しごと創生総合戦略のKPI検証に関する報告書』としてまとまられ、「総合戦略2017改訂版」では3ページを割いて紹介されている。

 

そこでは次のように述べられている。

「まち・ひと・しごと総合戦略」では、4つの基本目標を立てて施策を推進してきた。

4つの目標とは次のようなものである。

1. 地方にしごとをつくり、安心して働けるようにする
2. 地方への新しい人の流れをつくる
3. 若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる
4. 時代にあった地域をつくり、安心なくらしを守るとともに、地域と地域を連携する

検証チームは、この4つの目標についての成果指標(KPI120件)の達成度を比較しているが、その結論として次のようにのべている。

 

基本目標1、3、4は、施策が一定程度進展している。

しかし基本目標2「地方への新しい人の流れをつくる」については、東京圏への転入超過数が約12万人に上り、事業廃止前よりも一極集中は進んでいて、「現時点では各種施策の効果が十分に発現するに至っていない」。

とはいえこの2も大事なことなので、その達成を引き続き目指すべきと提言されている。

さて、そのKPIの検証表を引用すれば以下の表のようである。読者は違和感を感じないだろうか。

表:まち・ひと・しごと総合戦略KPIの検証結果(2017年)(総合戦略2017改訂版、6〜7頁)
拡大画像表示
註)進捗欄については、本文の説明は次のようになっている。
「(A)目標を達成しているもの及び実績値が当初の値より上昇しているもの(B)現時点では、実績値が(A)以外のもの(C)その他(現時点において統計上実績値の把握が困難なもの等)上記の分類に従うと、KPI 120 件の内訳及び(C)その他を除く割合は、(A)が 85件(87%)、(B)が 13 件(13%)、(C)その他が 22 件である」

まず最大の違和感は、ここでは日本の人口総数についての検証が何もなされていないことだ。人口減少に少しでも歯止めがかかっているのかどうか、それがこの事業の最大の問題であるはずなのに。

そうしたストレートに計るべき指標を避け、4つの基本目標ごとに人口ではないものばかりが選ばれている。

基本目標1「地方にしごとをつくり、安心して働けるようにする」では、指標はまず「若者雇用創出数(地方)」と「若い世代の正規雇用労働者等の割合」となっている。

そしてその評価を進捗A(目標を達成しているもの及び実績値が当初の値より上昇しているもの)としているが、いやまて。

大切なことは、これらの改善が、人口にどうプラスに働いたかどうかではないか。

事業が進んだかどうかをただチェックするだけにKPIを使っているようだが、そこで終わってしまっては、何のためにこれらの事業をやっているのかわからなくなってしまわないか。

そうした錯綜を端的に示しているのが、次の「女性(25~44歳)の就業率」だ。

これもちょっとまて。

女性の就業率が上がれば出生率は上がるのか。その相関はほんとうにあるのか。女性がより多く就業していれば、子どもを産みやすい環境が整っていない日本の場合、むしろ出生率は下がるのではないか。

同様に、基本目標3「3若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる」の検証もおかしなものだ。

ここでは2つめに「第1子出産前後の女性継続就業率」が使用されているが、これがどうして「3若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる」ことの指標になるのだろうか。

「出産前後の女性継続就業率」でわかることは、「出産の希望」ではなく、「出産後の就業の希望」をかなえたかどうかではないか。

それでもなお、継続就業率にこだわるのだとすれば、地方創生が目指す希望出生率は1.8(合計特殊出生率)なのだから、その就業継続が第2子出産に結びついたのかまで検証すべきだろう。

そして日本の現状では、第1子で就業を再開した女性は第1子で産むのをやめ、就業を中断した女性の方で第2子を産んでいる可能性も大きかろう。

地方創生は人口減少を問題にしている政策なのだから、継続就業できたかどうかではなく、その10%の向上が、出生にどうプラスの効果をもたらしたかまで検証する必要がある。

でなければ、事業が進捗さえしていれば「合格」ということになってしまう。目的を棚上げし、手段がどれだけ達成されたかで成果を誇るKPI検証は間違っている。

 

政府にこそ求められるPDCAサイクル

要するに、地方創生の真の目的はもはや「ローカル・アベノミクス」にあり、人口にはないのではないかと疑われるのだ。すでに、目的(人口)と手段(経済や雇用)が入れ替わっているのではないかと。

ちなみに少子化については、近年の数値はこうなっている。

日本の出生数は、地方創生本部が設置された平成26年の1,003,539人に対し、翌平成27年には1,005,677人と若干、回復している。

ところが、地方創生本格稼働後の平成28年には再び減少に転じ、出生数976,978人と、ついに100万人を切ってしまった。

しかもこの減少傾向はその後も止まらず、平成29年はさらに減って94万1千人になるとの速報値が出されている。

これに対し、出生率そのものはこの間、上がり続けているはいるのだ。

 

産む女性の実数が減少しはじめているので、出生率は上がっても出生数は増加にまでいかないのだが、日本の少子化は必ずしも止まらないという状態ではないのだ。ただしこの出生率の回復については地方創生に取り組む以前から上向き傾向にあることがわかっているから、そこに事業の効果がどれくらい関わっているのかはしっかりとした検証が必要であろう。

そして東京一極集中(2地方への新しい人の流れをつくる)については、先のKPI検証にもあったように、東京圏への転入超過数はますます増加しており、東京への人の移動はむしろ強まっているのであった。

各地で進めている「稼ぐ力」の創出事業が、人口増大に結びつくかどうかはわからない。また事業費の投入が一時的に雇用を生んで、人口を増やしたとしても、それが事業終了後も持続するかは未知数である。場合によっては、事業がかえってストロー効果を持ち、人口減につながることさえありうる。

こうしたことをチェックし、改善していくのが本来のPDCAサイクルのはずだが、むやみに「稼げ」や雇用(ローカル・アベノミクス)が強調されたので、そうしたことはもはやどうでもよいことになり、とりあえずやっている事業の効果として、雇用がどれだけ増えたかだけが、重要視されることになってしまったのだろう。

〔PHOTO〕iStock

すべては「まずは仕事から」という、最初に行った対策の"決め打ち"が、こうした事業検証過程そのものを阻害している。

そしてさらに、この"決め打ち"がアベノミクスの礼賛にあり、この政策による雇用創出効果が現政権の命脈の全てだという現実をふまえれば、この検証の向こうにいる安倍首相の顔色を必要以上にうかがっている内閣周辺のこわばった雰囲気こそが、「人口減少はどうしたら止まるのか」というこの問題へのアプローチを阻んでいるといえなくもない。

政府自身が最初の"決め打ち"の罠にかかっている。これではPDCAのサイクルなどできない。

PDCAは、チェック(C)をへて、改善(A)し、最初のプラン(P)を変更するところまで踏み込まねばならないものなのに、現在の政府のチェックはただ最初のプランがどこまで達成されたかの確認を行っているのに過ぎない。

ましてその数値で、「これだけやったぞ」と政策の達成度を誇るものになってしまえば(そして東日本大震災からの復興政策では、事実そうなっている。本誌「福島原発事故から7年、復興政策に『異様な変化』が起きている」を参照)、かえって検証そのものが政策を阻害するものになるだろう。

そもそも「人口減少を雇用で解決」という、その図式そのものが誤りだと筆者は考えるが、その点は別に委ねたい。ここでは次の点にのみ絞って議論を進めよう。

人口のPDCAは、もっと適正な形で行わなければならない。KPIを設定し、その進捗をみていけば、人口は自然と維持されるとか、そういうものではない。人口とはもっとデリケートで、進行管理の難しい代物だ。

この点について、すでに各自治体が作成済みである「人口ビジョン」をとりあげて、さらに掘り下げてみたい。

 

人口ビジョンの「本来の意味」

地方創生を実施する各自治体には、それぞれに人口ビジョンと総合戦略の策定が求められている。

このうち人口ビジョンの策定に関しては、すでに各自治体の総合計画に書き込まれており、それで十分ではないかという意見も多い。

実際に総合計画をスライドさせて作った自治体もあったと聞く。また地方版総合戦略も、早期策定を求められたことから多くの自治体がコンサル会社に丸投げし、地方に落ちるはずのカネが結局は中央に回収されたという批判も多かった。

そして実際にその後、人口ビジョンが有効に活用されているという例を聞いていないので、この程度の作り方ですましてしまったケースが大半だったのではないかと思う。

しかし、人口ビジョンに関しては、本来しっかりと策定し、その実施に向けて政策・事業を進めるべきだった。

そしてここまで本稿では政府の地方創生の批判を繰り返してきたが、こと人口ビジョンに関しては、そこに悪意を嗅ぎ取るべきではなく、本当は次のような正しいメッセージがあったのではないかと考えている。

政府は人口の約1億人での下げ止まりを目標に掲げている。これにあわせ、各自治体が策定する人口ビジョンは、このままでは止まらなくなる人口減少の中で「人口が下げ止まる場所を見つけよ」ということだったはずだ。

そしてその場所を見つけたなら、そのために必要なことを各地で提案し、その試行錯誤を支えるための財源を政府が責任を持って提供していく――地方創生は本来、そういうスキームだったと思われるのである。

そして、当時の石破茂地方創生大臣が言っていた「競争」についても、本当はそうした政策立案・実施競争であり、一種のコンペを求めていたのではないか(competitionは競争だが、comがあるので、異なるものが出会うことで全体がよくなるという意味)。

そこに誰かが、先述のように総合戦略に「まずはしごとから」といういたずらをして、いつの間にか地方の仕事づくり競争や人口獲得競争のような体裁になってしまった。

そのために、市町村からあがってきた提案や結果を都道府県へ、国へと積み上げ、吸い上げていく、正しいPDCAが進行する余地がなくなってしまったのではないか。

そして人口ビジョンも、結局は、ただ各自治体に作らせることで終わっており、日本全体の人口が下げ止まる場所を適確につかむという最初の意図は初手からついえたといえる。

 

読者がどこまで理解しているか筆者はわからないが、現在の政府は人口について何もその対策を考えていないというのが現実なのだ。

たしかに政府は1億人を目指し、そして各自治体にも同様にどこで人口減少が止まるのか、それぞれ人口ビジョンを策定させた。

だが驚くべきことに、市町村の人口ビジョンはただ策定されただけで、その後は誰も見ていないのである。それらを足し合わせればきちんと1億人になるのかどうか、計算された形跡はない。

いやそれ以前に、都道府県でも人口ビジョンを策定しているのだが、このレベルですでに市町村のそれと連動して作られてはいない(たいていは都道府県の方が市町村よりも先に策定された)。

人口ビジョンなど、作らせただけで、今の政府は何の関心もないのである。

1億人での下げ止まりの実現も、最初の掛け声だけでだれもチェックしていない。先のKPI検証でも人口が検証の対象になっていないのだ。

いやそもそも、どうやってそれに到達するのか。地方での雇用づくり以外に、政府はとくに何も考えてはいないのである。たんなる「希望人口1億人」なのだ。

結局、国も――市町村も県も同様に――根拠もなければ、正しく設定された目標もないままに、ただやみくもに地方創生を事業化し実施してしまっている。

それゆえ、このままこれをあと少なくとも2年つづけても、目標がどこかに行ってしまっているのだから、KPIなどには意味がなく、PDCAサイクルなどできるものではない。

だが、4年前に日本創成会議によって強調されたように、人口減少問題は待ったなしであり、これに取り組むことは国にとっても自治体にとっても急務なのだ。

まずは、せっかく各地で策定した人口ビジョンについて、その内容を検討し、各地で人口をめぐって一体何が起きていて、何をどうすれば人口減少はストップするのか、真剣に考え、議論することからはじめなくてはならない。政府にはそれを進める義務がある。

つづく後編では、筆者から見える人口ビジョン再検討・改訂の課題と、あるべき人口再生総合戦略の姿を書き記してみることにしたい。

(つづく)