野党再編で揺れた衆院選は、蓋を開けてみれば敵失によって自民党が改選前の議席をほぼ維持する結果となった。一方で「政治とカネ」、失言、不倫疑惑などのスキャンダルで閣僚辞任や離党をした面々「禊選挙」に挑み、有権者の審判を受けた。圧勝、比例復活、落選-。自民大勝の影で、明暗は分かれた。

失言、不倫疑惑などのスキャンダル比例復活当選した議員は議員報酬を返納するべきだ

自民大勝の影で明暗分かれた「禊」議員 不祥事でも圧勝、比例復活、そして落選…不倫で明暗も

 

 秘書の金銭授受問題で昨年1月に経済再生担当相を辞任した自民党の甘利明氏(68)=神奈川13区=は、希望の党新人らを下し、12選を果たした。

 前回衆院選では、党重鎮として応援のために全国各地を飛び回ることが多かった甘利氏だが、今回は徹底した「どぶ板選挙」を展開。地元に張り付き、地域の各種行事にこまめに顔を出しては、経済再生相として陣頭指揮したアベノミクスの継続や景気対策のてこ入れの必要性などを訴えた。

 前回から約1万5千票減らしたものの12万7千票を獲得し、他の候補者を圧倒した。みそぎは済んだといえそうだ。

 「批判もある中で勝利が得られ、感謝の気持ちでいっぱいだ。初心に帰り、福井や日本のために頑張っていきたい」

 陸上自衛隊南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報問題などで7月に辞任した稲田朋美元防衛相(58)=福井1区=は、投票終了直後に早々と5選の当確が報じられると、神妙な面持ちで支援者らに何度も頭を下げた。

 日報問題に加え、東京都議選の応援演説での「防衛省・自衛隊としてもお願いしたい」という失言の影響をものともせず、強固な支援組織を後ろ盾に圧勝した。ただ、甘利氏同様、得票率は前回選挙から7ポイント下がっており、一定の批判票もあったとみられる。

 東日本大震災に関して「まだ東北だったから良かった」などと不適切な発言をして4月に更迭された今村雅弘前復興相(70)は比例九州ブロックで当選を果たした。前回選挙同様、今回も比例単独での出馬となったが、前回は比例名簿の順位下位の単独31位だったのに対し、今回は上位での単独3位だった。

 議席を失った閣僚経験者もいる。自らが代表を務める政治団体をめぐる政治資金問題で追及された西川公也元農林水産相(74)=栃木2区=だ。

 現職閣僚として臨んだ前回選挙では当時の民主党候補にわずか199票差で敗れ、比例復活でなんとか当選した。しかし今回は党内規の「73歳定年制」に従い、比例代表に重複立候補できなかった。

 選挙戦では「農林族」として後見役を務めた小泉進次郎筆頭副幹事長(36)も複数回応援に駆けつけたが、「政治とカネ」の問題が批判され、無党派層への浸透を欠いた。落選の報を受けた西川氏は今後について「後援会の皆さんと相談して決めたい」と力なく語った。

 台風被害を受けた岩手県の被災地視察で長靴を持参せず職員に「おんぶ」されて水たまりを渡るという失態を演じた上、「長靴業界はだいぶもうかった」と失言して辞任した務台俊介元内閣府政務官(61)=長野2区=は選挙区で敗れたものの、比例代表で復活し、首の皮一枚つながった。

 務台氏は選挙区での敗戦が確実になり「不徳のいたすところだ」と謝罪したが、その後、比例代表での復活当選が確実となると「最後の望みだけは確保できた」と神妙な表情で語った。

 務台氏と同じく3期目を目指した「魔の2回生」には有権者の厳しい審判も下った。

 夫の宮崎謙介氏が不倫で衆院議員を辞職して以来、初の選挙となった金子恵美(めぐみ)元総務政務官(39)=新潟4区=は、無所属で出馬した野党統一候補の菊田真紀子元外務政務官(48)との女性同士の一騎打ちに敗れ、比例復活もならなかった。

 金子氏は「イデオロギーも何もない野合」などと野党共闘批判を展開。フェイスブックやツイッター上では真偽不明の情報をもとに両氏が互いを批判し合う泥仕合の様相も呈した。

 金子氏と菊田氏の対決は今回で3度目。今回、菊田氏は無所属出馬で比例復活の道がなかったため、金子氏側は「今回で決着をつける」と必勝の構えで臨んだが、返り討ちにあった。

 同僚議員との路上キスだけでなく、その後に入院した際にルールに反して病院で喫煙していたことが週刊誌に報じられた中川郁子(ゆうこ)元農水政務官(58)=北海道11区=も議員バッジを失い、涙をのんだ。

 相手は石川知裕元衆院議員の妻で立憲民主党新人の香織氏(33)で、故中川昭一元財務相の妻である郁子氏と「政治家の妻同士の戦い」と注目を集めたが、週刊誌報道のマイナスイメージを払拭できなかった。

 なお、中川氏の「路チュー」相手だった門博文氏(52)=和歌山1区は選挙区で3回連続で敗れたものの、比例代表で復活している。

 「このハゲー!」「違うだろ!」といった元秘書への暴言や暴行問題で自民党を離党した豊田真由子氏(43)=埼玉4区=は無所属で出馬したが、落選。選挙期間中、「みそぎの白」として真っ白のスーツ姿で街頭演説を精力的にこなしたが、厳しい戦いが続き、5人中最下位だった。選挙後の10月27日、埼玉県警は豊田氏を傷害と暴行の疑いで書類送検し、踏んだり蹴ったりとなった。

 自民党以外では既婚男性との交際疑惑が報じられ民進党を離党した山尾志桜里氏(43)=愛知7区=が無所属で出馬し、自民党候補にわずか834票差で競り勝ち、3選を果たした。

 不倫疑惑を受けて一部の女性票が逃げたとされるが、共産党が独自候補を立てず、労働組合も個別に支援したことで激戦を制した。ただインターネット上には、夫に不倫された金子氏が落選し、山尾氏が当選するという皮肉な結果に「これ以上の理不尽があろうか」と憤る声も出ている。

 山尾氏は、不倫疑惑について「私自身、(有権者に)必要な説明をし、公私のラインを引かせていただいた。一定の信託はいただいたと思う」と強弁したが、山尾氏には今後も有権者の厳しい目が注がれるだろう。 (政治部 小沢慶太)