上室性不整脈と心室性不整脈

刺激伝導系の異常が起きている場所に応じて、2つに分類する方法があります。問題となっている異常の場所が心室よりも上、すなわち心房の筋肉や刺激伝導系の洞結節・房室結節にある場合を「上室性不整脈(じょうしつせいふせいみゃく)」といいます。心室の筋肉や刺激伝導系のヒス束・左脚・右脚などにある場合には「心室性不整脈(しんしつせい ふせいみゃく)」といいます。

アブレーション治療の対象となる頻脈性不整脈の場合では、一般に上室性不整脈の方が異常部位がわかりやすいので、アブレーション治療の効果が期待できます。(5.アブレーション治療の対象となる不整脈参照)。

アブレーション治療とは

カテーテルの参考写真
カテーテルの参考写真
 
図6 カテーテルの挿入場所

アブレーション(ablation)とは、「取り除くこと、切除すること」という意味です。医学的には、カテーテルの先から高周波電流を流して、接している生体組織を小さく焼き切ることを意味します。このことを専門用語では、電気焼灼(でんきしょうしゃく)と呼びます。

既に述べたように、頻脈性不整脈の原因は、余分なリエントリー回路や異常自動能を有する部位が存在するためです。抗不整脈薬という種類の薬でこれらの異常な電気活動を抑制することもできますが、異常な部位そのものを取り去るわけではないので、根本的な治療とは言えません。

以前は手術で胸を開き、直接心臓を操作して異常な部分を除去していました。しかし、大手術になるため、患者さんの受ける負担はとても大きなものでした。そこで、胸を切らなくてもよい、アブレーション治療というものが開発されました。初めて実際の治療に用いられたのは1982年、アメリカでのことです。その後、日本でも急速に普及してきました。アブレーション治療の効果が高い不整脈に対して、経験を積んだ医療チームが施行した場合、成功率は9割を超えると言われ、現在では効果的な治療法として定着したと言っても過言ではありません。

アブレーション治療では、まず専用のカテーテル(写真)を、主に足の付け根にある太い血管(大腿静脈ないし大腿動脈)から入れ、そのカテーテルの先をレントゲン撮影で透視しながら心臓まで到達させます(図6)。カテーテルの先には心電図を計測するための電極がついていて、それで心臓の内壁に接触させながら心電図を計測します。この計測によって、今カテーテルが接している部分が、副伝導路などの異常な部位であるかどうかがわかります。この異常な部分を探す作業のことを「マッピング」と呼びます。心臓の異常な部分を示す”地図(マップ)”をつくる作業です(図7)。

異常な部分があることがわかったら、次にカテーテルの先の電極から高周波電流を流します。強い電流によって、カテーテルの先に触れているわずかな領域の心臓組織だけが電気的に焼かれて、細胞は死滅します。1回の焼灼あたり、電流を流す時間は1分以内、焼灼範囲は直径、深さとも5mm程度です。

実際にアブレーション治療を受けると胸の中で熱さを感じますが、カテーテルの先には温度センサーがついていて、高温になり過ぎる前に電流を遮断しますので、必要のない部分まで焼灼してしまうことはありません。異常な部位をすべて焼灼できた、もしくは異常な電気信号伝達を防ぐ焼灼ができたと思われるまで、焼灼を何度か繰り返すこともあります。また、1回の治療では異常な部位を完全に焼灼できなかった場合、後日再びアブレーション治療を行うこともあります。

当院では、カテーテルは主に太ももの付け根の大腿静脈から入れますが、場合によっては肘静脈もしくは内頸静脈から入れることもあります。全体の手術時間は3~6時間ですが、個人によって差があります。局所麻酔で施術可能です。

 

心臓のリズム(刺激伝導系)について

 拍動する心臓

図1 血液の流れ
図1 血液の流れ
 
図2 刺激伝達系
図2 刺激伝達系

心臓は、血液を身体中に送り届けている大事なポンプです。血液の流れを見てみましょう(図1)。
全身から戻ってきた血液は、大静脈を通り心臓へ入ります。まず右心房に入り、次に右心室に移動してから心臓を出て、肺へと送り出されます。そして、肺で要らなくなった二酸化炭素と酸素を交換して心臓に戻ってきます。肺から戻ってきた血液は左心房に入り、次に左心室に移動してから、全身へと送り出されます。

この血液の流れをつくっているのが心臓の拍動です。心臓の各部分の筋肉が協調して収縮することで、初めて効率良く血液を全身に送り出すことができるのです。上手に拍動するために、心臓には 「刺激伝導系」と呼ばれるしくみが備わっています。

 刺激伝導系について

刺激伝導系とは、心臓の筋肉の中を走る一方通行の電線のようなものです(図2)。心臓の筋肉の一種ですが、普通の筋肉とは異なり、筋肉が収縮するための電気信号をすばやく伝え、さらに自ら電気信号を一定の間隔で発生する能力を持っています。

右心房にある洞結節(どうけっせつ)というところが、刺激伝導系の開始点です。この洞結節は、何も刺激を受けなくても、一定時間ごとに繰り返し電気信号を発生します。これが私たちの心臓の脈の速さを決めているのです。

洞結節で発生した電気信号は、心房の筋肉を伝わって房室結節(ぼうしつけっせつ)へ伝わります。このとき、心房の筋肉は収縮し、心房の中に溜まっていた血液は心室へと送られます。

電気信号を受け取った房室結節は、わずかな時間だけ待ってから、心室へと向かうヒス束(そく)へ信号を伝達します。こうして信号の伝達を少し遅らせることで、心房が収縮しきる前に心室が収縮し始めてしまうことを防ぐことができます。

伝導系は、ヒス束から左脚、右脚の2つに分かれた後、さらに細かく枝分かれ(プルキンエ線維)して、心室の筋肉全体に電気信号を伝えます。こうして心室の筋肉は収縮し、心室の中に溜まっていた血液を力強く心臓から全身へと送り出すのです。

刺激伝導系の電気信号の流れ
洞結節→ 心房の筋肉→ 房室結節→ ヒス束→ 左脚/右脚→ プルキンエ線維
電気信号発生 心房収縮 伝達時間を遅らせる 心室収縮

刺激伝達系の信号は、正常の場合には一方通行です。順番を逆にさかのぼって電気信号が伝わることはありません。心臓の筋肉の収縮も、血液の通り道と同様に、「心房から心室へ」の順番が正しく守られているのです。